アベノミクス相場が始まった2012年以降、日本の株式市場ではPBRが相対的に低い銘柄(以後、バリュー株)のパフォーマンスが、PBRが相対的に高い銘柄(以後、グロース株)に劣後する展開が続いていた。それが、2016年後半にバリュー株がグロース株を顕著に上回るパフォーマンスを上げ、約半年ほどバリュー株相場となった。

バリュー株相場
(画像=PIXTA)

実際にRussell/Nomura日本株インデックスのバリュー指数とグロース指数の推移を確認すると、2012年4月から2016年6月頃までグロース指数のパフォーマンスが概ね優位であったことが分かる(図表1)。バリュー指数とグロース指数の2012年3月末からの累積リターンの差が、2016年6月には30%に迫った。それが2016年7月以降、市場全体が上昇する中でバリュー指数の反発が特に大きく、一時30%近くあった累積リターンの差が、2017年年初にはあと少しで解消するまで差が詰った。

バリュー株相場
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2016年後半にバリュー株相場になった主な要因として、3つが考えられる。まず、銀行、証券、保険といった金融株が特に上昇したことがあげられる。金融株はPBRが相対的に低位なためバリュー株に分類される銘柄が多く、金融株の好調不調がバリュー株のパフォーマンスを大きく左右するためである。

2016年前半は、1月末にマイナス金利政策の採用が決定され、それ以降はマイナス金利政策のさらなる深堀りも懸念されていた。そのため、マイナス金利政策に伴う業績悪化懸念から、金融株は全体的に低迷していた。それが7月の日銀の政策決定会合で懸念されていたマイナス金利の拡大が見送られたこともあり、年後半に見直しが入り金融株が特に反発し上昇したのだ。また、11月の米大統領選挙でトランプ氏が勝利し、米国で金融規制緩和期待が高まったことも追い風になった。

加えて、その時期にバリュー株の相対的な割安感が高まっていたことがあげられる。ROEとPBRの関係式(右上式)を用いた回帰分析から、株価に織り込まれている資本コストをバリュー株とグロース株ごとに各6月時点で推計した(図表2)。資本コストは値が大きいほど割安、小さいほど割高であることを意味する。グロース株の方がバリュー株と比べて常に資本コストが概ね大きくなっている。これはグロース株の方がバリュー株と比べてリスクが高く、その分、高い利回りを投資家が要求しているからと考えられる(図表2の右下イメージ図)。ただ、2016年6月時点ではバリュー株とグロース株の資本コストの差が小さくなっており、バリュー株相場が始まる前にバリュー株の相対的な割安感が高まっていたことが分かる。そのことが、市場全体が反発し上昇する中で、バリュー株の上昇が特に大きくなった要因といえるだろう。

バリュー株相場
(画像=ニッセイ基礎研究所)

最後に、円安によりバリュー株の業績が好転したことがあげられる。輸送用機器などの外需関連株は、金融株と同様にPBRが相対的に低位な銘柄が多くなっている。そのため、グロース株よりもバリュー株の業績は為替などの外部環境の影響を受けやすい傾向がある。2016年は、前半は円高基調で、7月から9月にかけては1ドル100円台前半で推移していた。それが12月には一時1ドル117円台を超えるなど、10月以降、3カ月で10円以上も円安が進んだ。円安の進行に伴いバリュー株の収益環境が特に改善し、そのことを投資家が好感したと思われる。

しかし、2017年度に入ると再びグロース株優位が続いている。日銀の金融政策の影響により金融機関にとって厳しい収益環境が続いているため、市場全体が大きく上昇する中、金融株の上げ幅が限定的になっている。また、期待されている米国の金融規制緩和もあまり進展していない。バリュー株の割安感も、バリュー株とグロース株の資本コストの差が2017年6月時点で再び開いてきており、既に解消していることが分かる。業績面も、グロース株のハイテク関連株の業績が特に好調なため、グロース株の方がバリュー株と比べてやや良好である。

今後はどうなるだろうか。日銀の金融政策が大きく変更されない限りは、金融株の上値の重い展開が続くと思われる。さらに、2016年後半のように急速に円安へ進むなど収益環境が大きく変らない限り、需要拡大に伴う業績拡大によってハイテク関連株がグロース株の業績を牽引し、業績面でのグロース株優位が続くと考えられる。ゆえに、バリュー株の一時的な反発はあるかもしれないが、当面、バリュー株には厳しい状況が続く可能性が高いだろう。

前山裕亮(まえやまゆうすけ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

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