国家統計局は18日、2017年のGDP統計を発表した。2017年10-12月期の実質経済成長率は6.8%で、2017年7-9月期の6.8%と同じ、市場コンセンサスの6.7%と比べ0.1ポイント上振れした。
市場関係者が注目したのは、年ベースの成長率である。2017年は6.9%となり、7年ぶりに前年の成長率(2016年は6.7%)を上回った。発表された数字にサプライズがあったということではないが、成長の下落が止まったことで、「成長のトレンドが変わったかもしれない」、「或いは成長の質が変わったかもしれない」といった見方が改めて広がった。
この点について、国家統計局の寧吉喆局長が詳しく解説している。ここではそのポイントについて、補足事項を加えながら、簡単に紹介しておきたい。
長い後処理がようやく終盤へ
この7年間、なぜ成長率が鈍化し続けたのだろうか?
リーマンショックが2008年秋に起きたことで、中国はすぐさま4兆元の積極財政政策を打ち出した。需要を急拡大させたことで、経済はV字回復を果たすことができた。しかし、その反面、大きな副作用が発生した。急拡大させた需要の内容が悪すぎた。重複投資、無駄な投資、不要不急の投資、環境汚染を無視した投資が蔓延し、成長の質は大きく劣化した。
また、資金調達の面で無理が重なった。地方政府に対してリスクを度外視した借入を許してしまった。その結果、不良債権が増加した。また、銀行経営にも問題が生じた。金利の自由化が進んだことで、銀行間に厳しい競争が生まれた。その結果、高利回りの理財商品など当局の監督管理の網を潜り抜けた投機的事業が無秩序に拡大した。それに、不動産投機が加わり、金融リスクは大きく高まった。
こうした政策の失敗、或いは副作用を抑えなければならない。しかし、急激に行えば、経済がハードランディングしてしまう。中国はこれを少しずつ是正したのだが、そのために成長率が少しずつ鈍化するといった状態となった。しかし、成長率の鈍化が止まったことで、こうした負の遺産の処理が相当進んだのではないかといった期待が市場に広がった。
少し細かい統計を拾ってみると、工業品出荷価格指数(PPI)上昇率は2012年3月からマイナスとなりそれが4年半続いたが2016年9月、プラスに転じるとその後はプラス圏内を維持している。供給側構造性改革が効果を現している。
三去一降一補(生産過剰、在庫過剰、レバレッジ過大を取り去り、コストを下げ、弱い部分を補強する)政策が効果を現している。生産能力については2017年は鉄鋼を5000万トン程度、石炭を1.5億トン以上、石炭発電所能力を5000万Kwそれぞれ削減した。在庫については2017年末の全国商品不動産在庫は2016年末と比べ1.1億平方メートル減少、2015年末と比べると1.3億平方メートル減少した。レバレッジについては2017年1~11月の工業企業資産負債比率が0.5ポイント減少した。
コストについては2016年、減税、政府手続き関係費用引き下げで1兆元減らし、2017年も1兆元減らした。弱い部分の補強については2017年、水利管理に対する投資を16.4%増やし、生態保護、環境改善投資を23.9%増やした。
ただし、リーマンショック後の負の遺産がすべて片付いたかというと、そうではない。
昨年12月に行われた中央経済工作会議では2020年までの政策方針として、重大なリスクの解消、貧困からの脱却を正しく進めること、環境汚染防止といった3つの問題が指摘された。これは、今後も供給側構造性改革、環境汚染防止が必要だということである。
中でも、金融リスク、不動産投機の縮小、環境汚染防止のための措置の重要性が強調されている。金融、不動産については、日本の経験からもわかるように、急激な引き締め政策は以後、景気に対して大きな悪影響を及ぼす。中国では、まず、これ以上金融リスクや不動産投機が進まないようにすること、その上で、ピンポイントで一つ一つ投機の芽を摘むというようなことを行っている。今後も同じようなやり方が続くだろう。
景気の牽引役、交代進む
負の遺産の後処理に隠れてしまい目立たないが、経済構造の転換、経済をけん引する新旧エンジンの交代が着実に進んでいる。新エンジンとしては、新技術、新産業、新業態、新モデル、新製品、新エネルギー自動車などが挙げられる。
2017年は、C919大型旅客機、高速鉄道の復興号、量子通信・衛星、深海探査など一連の重要技術で成果が得られた。新製品では、需要が旺盛な工業用ロボット、新エネルギー自動車の生産量が50%以上伸びた。新産業では、戦略的振興産業、ハイテク産業、装備製造業における付加価値が10%以上増えた。新業態では、ネットショッピングの販売額が28%増加した。さらに、その関連産業が急成長し、例えば、宅急便サービスの業務量は30%近く伸びた。新モデルでは、シェアリングエコノミー、デジタルエコノミー、プラットフォームエコノミーなどが急速に発展した。
こうした新エンジンの台頭によって、経済構造が大きく変化した。2017年の名目GDPに占めるサービス業の割合は51.6%で成長への寄与率は58.8%に達している。
中国の経済運営は市場を通じた間接的なやり方ではなく、直接的なやり方が多用される。透明でないためにわかりにくいかもしれないが、統計局幹部の説明をしっかり読む限り、中国経済は順調であることがよくわかる。
田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/