先月の当コラムで「目先の東京市場では株高が続く可能性」と予想したが、結果は逆の展開となった。日経平均は1月23日に2万4124円の高値を付けたが、2月14日には一時2万1000円割れとなった。

日経平均が2万4000円台から反落した最初の要因はドル安・円高だった。日経平均が高値を付ける前日(1月22日)のNY 市場では、米上院が2月8日までの暫定予算案を可決する見通しとなり、1月20日から続いていた米政府機関の一部閉鎖が解除される見込みとなったことが好感され、ドル相場は一時1ドル=111円22銭まで上昇していた。しかし、23日に米国への輸入が急増している太陽光パネルと洗濯機を対象としたセーフガード(緊急輸入制限)の発動にトランプ大統領が署名すると、トランプ政権が保護主義に一段と傾き「ドル安政策に動くのではないか」との思惑が高まり、ドル相場は1ドル=110円台前半まで下落した。

さらに24日、ムニューシン米財務長官が「弱いドルが米国の貿易に関して良いことなのは明らかだ」と発言するとドル相場は続落し、25日には一時1ドル=108円50銭まで下落した。

一方、26日の米国市場ではNYダウが2万6616ドルの過去最高値を付けたが、その後は米長期金利の上昇が警戒され、NYダウの上値も重くなった。先月の当コラムでは「米国の長期金利の上昇に要注意」とも記したが、その後の日米株式相場は米長期金利の上昇を背景に想定以上の株安に見舞われる展開となった。

米国株安に拍車をかけたVIXの上昇

日経平均,見通し
(画像=PIXTA)

年初から上昇基調にあった米長期金利の上昇が加速したきっかけは、FRBが1月31日のFOMC後に公表した声明だった。同声明では物価について、「今年は上昇が見込まれる」と判断を引き上げたうえで「さらなる利上げが正当化される」と指摘した。FRB は今年3回利上げするシナリオを公表済みだが、今回のFOMC声明に「さらなる」との文言が新たに加わったことから、FOMC 後の市場ではFRB の今年の利上げが4回になるとの見方も浮上した。

また、2月2日に発表された米1月の雇用統計で平均時給が前年比2.9%増と市場予想の2.6%増を大幅に上回ると、同日の米10年国債利回りが一時2.85%とほぼ4年ぶりの水準に上昇し、NYダウは665ドル安と急落した。さらに、5日のNYダウが1175ドル安と過去最大の下げ幅で急落すると、翌6日の日経平均も1071円安と急落し、8日のNYダウは1032ドル安と過去2番目の下げ幅で続落した。

今回の米国株安は長期金利の上昇がきっかけだが、株安に拍車をかけたのは、投資家心理を測る指標で、別名「恐怖指数」と呼ばれるVIX(変動性指数)の上昇だった。

昨年来VIXの低下が続いたことから、VIXが下がれば収益が上がる「VIX先物の空売り」が人気化していたが、VIXの上昇が始まると「空売りの買い戻し」がVIXの上昇に拍車をかけた。すると、VIXをリスク測定のシグナルとして運用していたファンドの株売りが加速したという。

目先の東京市場では円高の影響にも要注意

日本経済新聞社の集計によると、2月15日までに昨年4〜12月期決算を発表した1587社の今3月期の経常利益予想は12.7%増と、昨年4〜9月期決算が出揃った時点の予想(11.6%増)から小幅な上方修正にとどまった。一方、純利益予想は30.1%増と昨年4〜9月期決算が出揃った時点の予想(17.1%増)から大幅に上方修正された。今3月期の純利益予想が大幅に上方修正されたのは、米法人税率の引き下げによって繰り延べ税金負債が減少するために、特別利益を計上する予定の企業が増加したためと考えられる。

ただし、米法人税率引き下げの影響は一時的であり、来3月期は純利益の伸び率は鈍化する可能性が高い。足元のドル円レートが昨年12 月調査の日銀短観における大企業・製造業の今年度下期の想定レート(109円66 銭)を上回る円高となっていることもあり、来年度の企業業績が伸び悩む可能性が高まっていることには注意が必要だ。

日本株の下落場面は個人投資家の買い場に

東京証券取引所と大阪取引所が発表した2月第2週(2月13~16日)の投資部門別株式売買動向によると、海外投資家は日本株を現物・先物合計で6週連続で売り越したが、個人投資家は現物を4週連続で買い越した。

個人投資家は日経平均が大幅に下落した2月第2週(2月5~9日)に1982年以降で最大の買越額を記録するなど、今回の株安場面を押し目買いの好機と判断したと考えられる。日本株は米長期金利の上昇や円高を背景に、海外投資家主導で不安定な動きを続ける可能性もあるが、待機資金が豊富な個人投資家の押し目買い意欲は今後も強いとみている。目先の東京市場では3月期末を前に、高配当株が積極的に物色される可能性もあろう。

野間口毅(のまぐち・つよし)
1988年東京大学大学院工学系研究科修了後、大和証券に入社。アナリスト業務を5年間経験した後、株式ストラテジストに転向。大和総研などを経て現在は大和証券投資情報部に所属。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定証券アナリスト。