2017年は欧米経済が好調だった。特にユーロ圏はフランス大統領選で親EU派のマクロン氏当選等による政治的不安の後退などもあり、過去最高水準まで製造業の景況感が上昇した。米国もISM製造業景況指数が13年ぶりの水準まで上昇し、景気は堅調だったといえる。これを受けて日本も、欧米に比べてペースは緩いが、景気は拡大している。一方、不動産市場を中心に警戒が強まっている中国経済は、金融市場が引き締め方向に進んでいるものの、実体経済は今のところ持ちこたえている。
好調な世界経済に支えられた日本経済
こうした2017年の日本経済を一言で表現すると、好調な海外経済やそれに伴う円安の進展などにより、大企業を中心に企業業績は最高益を更新したものの、企業の慎重姿勢により利益の分配活動が不十分だったということだろう。好調な企業業績を反映して、日経平均株価もバブル崩壊以降の最高値を更新した。それなのに景気回復の実感が乏しかったのは、好調な企業業績の割に賃上げ率が低下したことがある。また、年明けから上昇に転じた消費者物価も、家計の消費行動に対する慎重姿勢を誘発した可能性がある。
賃上げで個人消費活性化
2018年の景気を占う上では春闘が大きなカギを握っているだろう。安倍政権は2018年度の税制改正大綱に、賃上げ3%以上と設備投資を行う大企業の法人税を軽減する一方で、賃金と設備投資の伸び率がいずれも不十分な大企業は法人税の優遇措置を停止することを盛り込んだ。また、中小企業も賃上げをすれば税負担を軽減することも打ち出している。いずれにしても、企業の内部留保の活用をにらんで、企業に焦点を当てた税制改正が打ち出されるだろう。
賃上げ環境に関連すれば、肝心の企業業績は株価の上昇が示す通り過去最高水準を更新していることに加え、労働需給も完全失業率が3%を下回っており、賃上げの後押しになるだろう。また今回の春闘では、従業員の生活水準が維持できるよう、インフレ率が上昇していることも加味されるだろう。昨年2.11%だった大企業の春闘賃上げ率は2.5%程度になると予想しており、家計に恩恵が及ぶ可能性がある。
買い替えサイクル到来で耐久財消費に期待
2018年は耐久財の買い替えサイクルに伴う需要効果も期待できると思われる。内閣府の消費動向調査によれば、テレビと自動車の平均使用年数は9年程度となっている。テレビや自動車の販売は2014年4月の消費税率引き上げ前に駆け込み需要で盛り上がったが、更に前に遡ると、2009年度~2010年度にかけても販売が盛り上がっている。
背景には、リーマン・ショック後の景気悪化を受けて、麻生政権下でエコカー補助金や家電エコポイント政策が打ち出されたことがある。これで自動車やエコポイントの対象となったテレビ、冷蔵庫、エアコンの駆け込み需要が発生した。2018年は9年目を迎えることから、その時に販売された自動車やテレビの買い替え需要が期待される。特にテレビに関しては、2011年7月の地デジ化に向けてかなり販売が盛り上がったため、買い替え需要は積み上がっていると予想される。2019年10月に消費税率引き上げが控えていることも、買い替え需要の顕在化を後押しする可能性があるだろう。
さらに、今開催されている冬季五輪や6月以降に開催を控えるサッカーワールドカップ、2019年のラグビーワールドカップ、そして2020年に東京五輪が控えていることも市場を盛り上げる要因になり、テレビの買い替え需要を促す可能性もあるだろう。結果として、2018年に期待される賃上げは、耐久財消費市場を活性化させる可能性が高いだろう。
米国の減税と利上げが日本経済に追い風
米国経済もカギを握ろう。米国は2018年から税制改革が実施される。米国経済が順調に拡大する中で、10年間で1.5兆ドル(約170兆円)の大規模な減税が実施されるため、日本経済にとっても短期的にはプラスの効果が高いだろう。
一方、減税効果が出現するということは、それだけ米国経済の勢いも増すということになる。FRBの金融政策の打ち出し方次第では、一時的に市場はネガティブに反応するかもしれないが、日本としても、米国経済の拡大を反映してドル高円安となることで、企業業績も拡大しやすくなるだろう。実物経済面でも日本の財やサービスの競争力が増し、輸出も促進されるだろう。こうした点で日本経済にとってプラスの面が大きいのではないか。また、世界最大の米国経済の正常化が、低位に張り付いている日本の長期金利の上昇に結びつけば、日本の金融機関にも好材料となるだろう。
永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。