Amazonはなぜ金融に進出するのか
本連載ではAmazonの多角化経営について見てきたが、最終回である今回【第7回】ではAmazonの金融進出について解説する。Amazonの金融進出にはある狙いがあり、それはAmazonのビジョンを表すものでもある。
Amazonの金融進出は世界の消費動向を変化させる可能性を持っているため、投資家としてもビジネスマンとしても一消費者としても注目しておきたい案件だ。
「顧客のすべて」になるために金融は必須
小規模なインターネットの本屋としてスタートしたアマゾンは、今や生鮮食品やアパレル、医療やクラウド事業に至るまで、多角的事業の相乗効果(シナジー)と独占的な地位を狙うコングロマリットになる野望を隠さなくなった。
また、祖業である小売においては、ネットショッピングに加え、傘下のホールフーズやレジレスコンビニのアマゾン・ゴーなど実店舗での顧客データ取得、人工知能(AI)のアレクサによる世帯の購買管理、そして商品宅配のために顧客宅の玄関や冷蔵庫までアマゾンのハードウェアやソフトウェアでコントロールする試みなど、顧客の生活のすべての領域で支配的な地位を占める大目的達成に注力している。
アマゾンは大胆な企業買収や、人々をあっと言わせるテクノロジーの導入などで着々とこの目標に近づきつつある。だが、どれだけ売上が伸びてデータを蓄積しても、個人や企業の顧客をさらにアマゾンのエコシステムに取り込み、もっとお金を使ってもらうためには決定的な手段が不足している。それは、金融だ。
アマゾンの小売エコシステムをストレスなくシームレスに利用するには、決済に銀行口座が必要なクレジットカードや、紐づけられた銀行口座から利用の際に即時引き落としされるデビットカードが必要だ。逆に言えば、銀行口座がなければ、アマゾンのサービスを自由に受けられないということだ。
ところが米国では、まだクレジットで信用を築いていない若年層や、銀行口座を開設する信用を持たない低所得層が2017年時点で人口の6.5%を占める(2018年の連邦預金保険公社による調べ)など、一般金融にアクセスを持たない人が多い。この層を取りこぼせば、アマゾンの売上増大と市場シェア拡大は不完全なものになってしまう。
顧客の生活のすべての領域で支配的地位を占めるには、銀行を持つことが必須なのである。一般層においてもアマゾンが与信枠の大きい金融サービスを提供すれば、売上や市場シェアを伸ばせるからだ。