米通販大手アマゾンの「銀行化」が止まらない。一般事業グループの銀行保有を禁ずる米国の金融関連規制に縛られながらも、金融業界のパートナーとの共同事業や、自社が合法的に提供できる金融サービスで、金融業本格参入の日に備えている。

アマゾンは何の目的で、金融分野を強化するのか。どのような道筋で「アマゾン銀行」を実現しようとするのか。ライバルは誰なのか。探ってみよう。

「顧客のすべて」になるために金融は必須

アマゾン銀行,Amazon
(画像=Eric Broder Van Dyke / Shutterstock.com)

小規模なインターネットの本屋としてスタートしたアマゾンは、今や生鮮食品やアパレル、医療やクラウド事業に至るまで、多角的事業の相乗効果(シナジー)と独占的な地位を狙うコングロマリットになる野望を隠さなくなった。

また、祖業である小売においては、ネットショッピングに加え、傘下のホールフーズやレジレスコンビニのアマゾン・ゴーなど実店舗での顧客データ取得、人工知能(AI)のアレクサによる世帯の購買管理、そして商品宅配のために顧客宅の玄関や冷蔵庫までアマゾンのハードウェアやソフトウェアでコントロールする試みなど、顧客の生活のすべての領域で支配的な地位を占める大目的達成に注力している。

アマゾンは大胆な企業買収や、人々をあっと言わせるテクノロジーの導入などで着々とこの目標に近づきつつある。だが、どれだけ売上が伸びてデータを蓄積しても、個人や企業の顧客をさらにアマゾンのエコシステムに取り込み、もっとお金を使ってもらうためには決定的な手段が不足している。それは、金融だ。

アマゾンの小売エコシステムをストレスなくシームレスに利用するには、決済に銀行口座が必要なクレジットカードや、紐づけられた銀行口座から利用の際に即時引き落としされるデビットカードが必要だ。逆に言えば、銀行口座がなければ、アマゾンのサービスを自由に受けられないということだ。

ところが米国では、まだクレジットで信用を築いていない若年層や、銀行口座を開設する信用を持たない低所得層が人口の7%を占める(2016年の連邦預金保険公社による調べ)など、一般金融にアクセスを持たない人が多い。この層を取りこぼせば、アマゾンの売上増大と市場シェア拡大は不完全なものになってしまう。

顧客の生活のすべての領域で支配的地位を占めるには、銀行を持つことが必須なのである。そうすれば、一般層においても、アマゾンが与信枠の大きい金融サービスを提供すれば、売上や市場シェアを伸ばせるからだ。

戦略的なJPモルガン・チェースとの提携

しかし、アマゾンの前には大きな障壁が立ちはだかる。日本や中国にはない「銀商分離」という規制だ。戦間期の米国では、銀行が自行の儲けのために人々の預金を使い、ばくち的な投資に走った結果、1929~33年の世界大恐慌が起こり、多くの預金が失われた。商業企業が顧客から預かった金で「自己勘定取引」を行い、顧客や社会に損失を与えないよう、一般事業グループには銀行業の免許が発行されないのだ。

このためアマゾンは、医療分野の事業パートナーでもあるJPモルガン・チェースをはじめとする米大手銀行との間で、決済用の小切手を出せる当座預金口座に似た金融商品を作る計画について協議していると報じられている。アマゾンは銀行になれないため、銀行の力を借りるわけだ。

米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、「通販サイトはもちろん、傘下のホールフーズから電子書籍端末キンドル、AIスピーカーのエコーまで、アマゾンがさらに日常生活に浸透することになる」と、アマゾンの狙いを説明。

さらに、「自社ブランドの銀行口座に似た商品を提供することで、アマゾンは金融機関に支払う手数料を削減できるほか、顧客の収入や支出行動など貴重なデータにもアクセスできる」と指摘する。

これとは別に、個人のアマゾンアカウントを活用して、銀行口座を持たない顧客でもネットで買い物ができるオンライン決済サービス「アマゾンペイ」の利用者数は2016年末で3300万人以上に達しており、利用額は公表されていないものの、2017年は前年比2倍と急成長中だ。

さらにアマゾンは2月に、JPモルガン・チェースが発行する「プライム・ビザカード」のクレジットカードを利用して傘下のホールフーズで買い物をすれば、購入額の5%のキャッシュバックが受けられるプログラムを開始し、顧客をエコシステムから逃がさない施策を強化中だ。

類似のサービスとして2017年7月、顧客がデビットカードを使って銀行口座からアマゾンアカウントに商品購入のための資金を移せば、2%のボーナスを付与するサービス「プライム・リロード」を開始した。顧客が商品購入の際にクレジットカードやデビットカードを使うことで金融機関に売上の一部が渡るのを阻止している。

このようにしてアマゾンは、提携先のJPモルガン・チェースを中心に、自社の顧客向け金融サービスも併せて、顧客囲い込みとデータ取得を新しいレベルに引き上げようとしている。

アマゾンの真のライバルは「中国IT大手」か?

アマゾンが金融進出を狙う理由は、消費者の生活のすべての領域で支配的な地位を占めることだ。しかし、その本当のライバルは誰なのだろうか。米国内では銀商分離のため、ウォルマートなどの競合はいずれも金融への本格進出は果たせておらず、直近の脅威ではない。

ところが、米トランプ政権の高官が、「銀行業と商業の分離を撤廃することが、米国が金融において他国に対する優位を確立する前提条件になる」との注目すべき発言を昨秋に行っている。米小売業の本当のライバルは、ITや小売りで世界的に台頭する中国であると示唆したものだと解釈されている。「敵は本能寺にあり」ならぬ、「敵は中国にあり」だ。

たとえば、アリババのマネー・マーケット・ファンド(MMF)投資商品である余額宝の預かり資産額は、2110億ドル(約23兆3000億円)にまで膨れ上がっている。余額宝は、世界最大級のスマホ決済サービス「アリペイ」を使い、簡単に資金をMMFに移動できる「フィンテック」の利便性がウリだ。

こうした分野で将来、中国競合と勝負するには、顧客囲い込みとデータ取得の強化が至上課題となる。JPモルガン・チェースとの提携は、その一歩なのである。その先には、JPモルガン・チェースのノウハウを活かしたアマゾン版のスマホ決済サービスや「アマゾンMMF投資商品」があるのかもしれない。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)