「ヤクルトおばさん」をご存知だろうか。筆者が幼い頃はヤクルトを販売する女性をそう呼んでいた。彼女たちの多くは個人事業主なのだが、筆者が住んでいた地域を担当する「ヤクルトおばさん」の販売力たるや相当なものだった。決して大げさな話ではなく、地域の誰もが朝一番でヤクルトを飲むのが当たり前だった。正式名称は「ヤクルトレディ」であるが、彼女たちひとり一人の活躍がヤクルト本社 <2267> の業績に大いに寄与しているのは言うまでもない。

注目されるのは、先週の株式市場でヤクルト本社(以下、ヤクルト)が大商いに沸き、売買代金ランキングでトヨタ自動車 <7203> を抜いて上位に躍り出たことだ。今回はその背景を詳しくみてみよう。

ヤクルトが人気爆発!売買代金でトヨタを抜く

ヤクルト,株価
(画像=ZUU online編集部)

3月13日、ヤクルト株の出来高は879万株の大商いとなった。売買代金は671億円で、東証1部のランキングで任天堂 <7974> に次ぐ2位となった。筆者は株式市場に約30年携わっているが、これまでヤクルトの売買代金がトヨタや三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> を上回った記憶はない。

ちなみに、13日のヤクルトの株価は60円(0.8%)高、翌14日も100円(1.3%)高の7740円と続伸した。2月15日の年初来安値7220円からの上昇率は7%に達しており、商いを伴いながら着実に下値を切り上げている。

大商いの背景にはフランスの食品メーカー・ダノンの存在がある。長らくヤクルトの筆頭株主であったダノンが、2月に大量の売り出しを行いその影響からヤクルト株は先の年初来安値に急落した。売出株数は約2200万株(約2000億円)で、その受渡期日が3月13日だったのだ。いわゆる需給悪化懸念で株価は一時的に急落する場面も見られたが、それもほぼ一巡し底入れから水準切り上げに変化したものと考えられる。市場ではダノンの株式売却について「むしろダノンから解放された」と歓迎する向きもあり、安値でヤクルト株を買い仕込んだ投資家もいたようだ。

ダノンの恋の物語? ヤクルトに想い届かず?

先に述べた通り、ダノンはフランスの食品メーカーだ。「ダノン」や「プチダノン」といったヨーグルトを主力とする同社は、ヤクルトの発行済み株式の約21%を保有していた。

ダノンが日本市場に参入したのは1980年のこと。2000年になると乳酸菌技術で定評のあったヤクルト株を5%取得し、2003年にはさらなる関係強化を求め持株比率を20%まで高めた。恐らく、ダノンの狙いはM&Aでヤクルトを傘下に入れたかったのかもしれない。

2004年に両社は「戦略的業務提携」を行っている。とはいえ、ヤクルトはダノン株を持ち合いしたわけではないので、筆者にはダノンの一方的な「片想い」のように見えていた。ヤクルトは経営の自由性がなくなるとの考えから、ダノンと友好的にしながらも一定の距離を保ちたかったのだろう。結局、ダノンの想いは届かなかったようで、2013年に戦略的提携を解消している。

需給悪化は一時的、むしろ「買いチャンス」のケースも

そして、今年2月14日、ついにダノンが保有するヤクルト株の売り出しが決定した。同社が保有するヤクルト株約3500万株のうち約2200万株の売り出しを発表したのだ。筆頭株主であることに変わりはないが、ヤクルト株の保有比率は約21%から約7%にまで縮小することになる。

売却はダノンからの提案だったようだ。ダノンは2016年に米有機食品メーカーを約1兆円で買収しており、その影響からバランスシートが悪化、リストラの必要性から今回の売却に踏み切ったと見られている。

2月14日の発表後、ヤクルトの株価は14日の引け値7740円から翌15日には7220円まで6.8%安と急落した。ヤクルトに限らず、今回のような大型ファイナンスによる需給悪化懸念から急落することは株式市場では珍しいことではない。ただ、これはあくまでも目先の需給悪化による一過性の現象であり、むしろ値決めや払い込みのタイミングが「買いチャンス」になるケースも多い。ヤクルトも例外ではなく、先週の大商いはそうした経験則に基づいた買いも一因となっていたのだろう。

そして、もう一つ。ヤクルトは需給悪化の対策として、発行済み株数の約3%、最大360億円の「自社株買い」も同時に発表していた。先週の大商いでは、同社の自社株買いも入っていた可能性も高そうだ。同社が取得した株は消却する予定だ。

日本から世界、新たな成長ステージへ

ともあれ、ダノンの売却で一時的な波乱に見舞われたヤクルト株であるが、今後はむしろ経営の自由度が高まる可能性もある。先週の大商いはヤクルトが「ダノンの片想い」から解放され真のグローバル企業としての成長期待も織り込まれているのだろう。

ちなみに、2017年3月期のヤクルトの業績をみると国内飲料・食品売上は2.6%増の2041億円。海外売上は7.6%減の1464億円だった。海外の不振は円高の影響もあったと考えられる。ただ、食品業界のご多分に漏れず、長期的にみると日本国内は人口減で成長は限定的とならざるをえない。そうなると新たな収益の源泉として、海外展開が極めて重要となる。

注目されるのは2018年3月期の業績で海外状況が改善していることだ。第3四半期までの国内の飲料・食品売上は1598億円と2.7%増ながら、海外は14.9%増の1286億円に転じているのだ。この調子でいくとあと数年で海外の売り上げが国内を上回るかもしれない。同じくセクター別の営業利益をみると飲料・食品では国内が139億円、海外は348億円で、海外の利益が国内の倍以上となっている。営業利益率も国内が8.7%なのに対し、海外は27.1%と高採算だ。

海外売上の約3分の2を占めているのがアジア・オセアニア向け。本数ベースで、主力の中国が22%増、インドネシアが5%増と好調だ。筆者が幼い頃に毎日飲んでいたヤクルトはいま、各国のヤクルトレディを通じてアジアの人たちにも広く浸透しているようだ。(ZUU online 編集部)