1990年代初頭のバブル崩壊以来、日本経済は長らく景気停滞とデフレに悩まされてきた。いわゆる「失われた20年」である。だが、デフレといっても悪いことばかりではない。たとえば筆者にとってデフレの恩恵といえるのが、1000円で酔っ払える「1000ベロ」のお店が増えたこと、そして「100円ショップ(100均)」の普及だ。

「1000ベロ」も「100均」もバブル期にはとても考えられなかったビジネスモデルであったが、いまや両者とも筆者の生活になくてはならない存在となっている。どんなに時代が変わろうとも「1000ベロ」と「100均」は存続して欲しい。心の底からそう願わずにはいられない。

気掛かりなのは100均業界の最大手「ザ・ダイソー」を展開する大創産業が上場準備に入ったと報じられる一方で、同じく業界第2位のセリア <2782> の既存店売上高がマイナスに転じていることだ。筆者がこよなく愛する「100均業界」に何が起きているのだろうか?

「500円で30分楽しめる」レジャーランド

大創産業,上場
(画像=ZUU online 編集部)

先に述べた通り、大創産業はザ・ダイソー(以下、ダイソー)を展開する「100均業界」の最大手だ。2017年3月期における同社の売上高は4200億円で、店舗数は国内3150店、海外1900店に達する。

ちなみに、2001年3月期の大創産業の売上は2020億円、国内店舗数は約2000店だった。つまり、この16年で売上を2倍以上、国内店舗は1000店以上も増加しているのだ。ダイソーのビジネスモデルは、まさに「デフレの勝ち組」を象徴していると言えるだろう。

ダイソーが積極的にチェーン店展開を始めたのは1991年のこと。「主婦が500円で30分楽しめるレジャーランド」というテーマでお店を演出した。おりしも当時はバブル崩壊が始まった時期、消費者の財布のヒモが固くなりがちな情勢で「安さ」は強力な武器となった。もちろん、ダイソーの魅力は安さだけではない。商品のクオリティの高さはもちろん、品揃えも年々充実する中で多くの人の支持を集めることとなった。

セリアの時価総額は高島屋を超える

現在、「100均」の大手は4社ある。2016年度の売上でみると前述の大創産業がトップで4200億円(2017年3月期)、2位のセリアが1453億円(2017年3月期)、3位のキャンドゥ <2698> が680億円(2016年11月期)、4位のワッツ <2735> が461億円(2016年8月期)となっている。大手4社の売上で約6800億円。4社ベースに占めるダイソーの市場シェアは約62%と圧倒的で、次いで同21%のセリアが追いかける情勢となっている。

とはいえ、セリアの成長も目覚しいものがある。同社の売上は決算期変更があった2001年3月期以降16期連続の増収となっている。営業利益はリーマンショック時に減益となったものの、その後は8期連続の増益だ。2000年9月期の売上204億円から2017年3月期には1453億円まで7倍に拡大しており、こちらも「デフレの勝ち組」と呼ぶにふさわしい成長ぶりだ。

「デフレの勝ち組」は株式市場でも人気銘柄となった。「100均」のセリアのほか、アパレルではしまむら <8227> 、ファーストリテイリング <9983> 、ディスカウントストアではドンキホーテホールディングス <7532> 、外食では吉野家ホールディングス <9861> などを挙げることができる。どれも一般消費者に馴染みの企業ばかりだ。

一方で「デフレの負け組」も存在する。代表的なのが百貨店だ。2017年の百貨店売上高は約5兆9500億円で市場規模としては「100均」を大きく上回っている。しかし、時価総額でみるとセリアは約4100億円で、高島屋 <8233> の約3900億円やエイチ・ツー・オー リテイリング <8242> の約2600億円を追い抜いているのだ。市場関係者の多くが百貨店の高島屋よりも「100均」のセリアを将来有望な投資先として評価していたのだろう。

「デフレ脱却」に潮目が変わりつつある?

そんな「デフレの勝ち組」のセリアであるが、筆者が気にかけているのは、ここにきて既存店売上が失速していることだ。

セリアの既存店売上は2017年10月に前年同月比0.7%減のマイナスに転じた。単月でのマイナスとしては2016年2月以来、11カ月ぶりのことである。当初は天候要因など一過性の現象と思われたが、今年1月には1.6%減と再びマイナスに転じており、今下期(10〜1月までの4カ月)でも0.1%減に転落している。今上期(4〜9月)が3.3%増だったことを考えると減速傾向は明白だ。

今下期については2、3月が残されているが、ここでプラスを回復できなければ、半期ベースで2015年3月期下期(10〜3月)以来3年ぶりのマイナスとなる。一方、2017年の百貨店売上は既存店ベースで0.1%増となり3年ぶりに前年を上回っている。ひょっとしたらデフレの終焉が近づき消費形態に変化が出始めたのかも知れない。

日経平均が一時2万4000円台を付けたのは記憶に新しいところであるが、これは1991年以来26年ぶりの高値でもある。1991年といえば、ダイソーがチェーン店展開を始めた頃だ。これは、ただの偶然なのだろうか。それとも、日本経済の潮目がデフレ脱却に変わりつつあるのだろうか。

ダイソーが「100均業界・新時代」のカタリストに?

もちろん、日本経済を長年苦しめてきたデフレからの脱却が本当に実現するのであれば、喜ばしいことである。だが、同時にそれはデフレの勝ち組として成長を続けてきた「100均業界」が過渡期を迎えることを意味する。そうした状況に活路を見出す一つの戦略として筆者が注目しているのが海外展開だ。

先に述べた通り、ダイソーの海外店舗数はすでに1900店に達している。先日、筆者がシンガポールを訪れたとき、ショッピングモールのダイソーが驚くほどの賑わいを見せていたのを忘れることができない。あくまで筆者の印象であるが、「100均」の海外での成長余力は十分高いと感じられる経験だった。「コト消費」としてのレジャーランド「100均」の海外市場は大きなポテンシャルを秘めているように思うのだ。

昨年11月、ダイソーを運営する大創産業が株式上場の準備を進めているとの報道があった。矢野博丈社長が日経ビジネスのインタビューに応じたものだった。同社はこれまで非上場を選択していたが、海外展開の積極化で上場を視野に入れ始めたようだ。もし、大創産業の上場が実現するようであれば海外戦略とあわせて「100均業界・新時代」のカタリストになるかも知れない。

平田和生(ひらたかずお)
慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。