日本でも知名度の高い、中国ビール業界大手・青島(チンタオ)ビールは、昨年末に続き5月末にも再度値上げすると発表した。半年で2度の値上げとは、これまでになかったことだ。中国のビール業界は、どうなっているのだろうか。多様化するアルコール飲料市場で生き残れるのだろうか。経済サイト「界面」「中商情報網」などが伝えている。(1元=17.21日本円)
中国人とビール
中国国際啤酒(ビール)網によると。2017年、一人当たりビール消費量の最も多かったのはチェコの137.4リットル(L)で、2位ポーランド98.1L、3位ドイツ96.0リットルと続く。米国は74.9Lで12位。これに対して中国は35.8Lである。この資料に日本の記載はなかった
別資料の2015年のデータでは、ドイツ109.6L、米国76.6L、日本47.7L、中国34.7Lとなっている。
どうやら中国人のビール消費量は、日本人ほどではなさそうだ。ただし地域差は大きい。国産最大手の「青島ビール」は山東省、二番手の「燕京ビール」は北京といずれも北方に位置している。
北方人は大柄で酒に強い。上海より南方では、酒の苦手な中国人も存在するが、北方ではまずお目にかからない。そして日本同様「とりあえずビール」から入り、みんなそろって白酒などより強い酒へ向かう。南方は、紹興酒やワインなど、好きなものをそれぞれ楽しむ“大人”の傾向だ。
上場7社と外資系4社
中国にはA株市場(上海または深セン)に上場しているビール会社が7社ある。(2017年業績 売上/利益)
7位 西蔵発展(ラサ市) 3億6155万元/952万元
6位 惠泉啤酒(泉州市) 5億6903万元/2418万元
5位 蘭州黄河(蘭州市) 5億9612万元/1624万元
4位 重慶啤酒(重慶市) 31億7552万元/3億2946万元
3位 珠江啤酒(広州市) 37億6361万元/1億8536万元
2位 燕京啤酒(北京市) 111億9558万元/1億6135万元
1位 青島啤酒(青島市) 262億7705万元/12億6302万元
という順になっている。これに加えて外資系大手4社が活動している。こちらは中国市場非上場のため2016年の資料である。4社のうち、外資系3位のカールスバーグと4位ハイネケンの2社は、シェアが低く、ここでは言及しない。
2位 百威英博(アンハイザー・ブッシュ・インベブ/ベルギー)売上高資料はないが、中国高級ビール市場の55%を占めると見られる 。 1位 華潤雪花(北京市)SABミラー(現在はアンハイザー・ブッシュ・インベブと合併)系、286億9400万元、14億1900万元
外資系2社を加えた上位4社の2016年出荷ベースシェアは、
1位 華潤雪花 26.0% 2位 青島啤酒 17.6% 3位 百威英博 15.8% 4位 燕京啤酒 10.2%
とされている。利益水準では10億元以上の2トップが頭一つ抜けている。
値上げは浸透するのか?
2018年の年初から大手4社を含むビール各社は、次々に5~10%の値上げを表明した。青島啤酒はこの半年で2回目である。業界ウオッチャーは、夏の最盛期を前に、値上げを定着させたいからと推測している。
中国ビール業界は、内憂外患に覆われている。まず原料の大麦価格が大きく上昇した。米国農務省のデータでは、北アジア地区の需要激増と減産のため、大麦価格はここ3年で最も高い。中国のビール用大麦原料は、85%が輸入である。最大の輸入先、オーストラリアの減産が響いている。日本同様自給しているわけではないのだ。
また包装も大問題である。環境負荷のかからない高コスト素材を求められている。また保管スペースの環境整備と維持にも莫大なコストがかかる。これらは製造原価の30%にも達する。経営に大きな間接的ダメージを与えているのだ。
しかし本当に値上げしても持ちこたえられるのだろうか。中国のビール業界は、消費者離れに直面している。消費生活のグレードアップに伴い、消費者群像は変化し、これまでの支持基盤は揺らいでいるのだ。
一方で芽台酒など伝統的な白酒は、昨年大きく売上を伸ばした。またワイン、ウイスキー、ブランデーなど新しい選択肢は増える一方である。
青島啤酒はその体力からいって、値上げをこらえ、下位メーカーの自滅を早める戦略もあったはずだ。しかしその道は採らず。業界の先頭に立って、値上げの定着を図ることにした。王道だが、うまくいくかどうかは分からない。すべては今年の夏にかかっている。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)