今年1~3月期の米企業業績は、事前予想を上回る好決算で終わろうとしている。しかし、肝心の株価は年初付近の水準を行ったり来たりと方向が定まっていない。「米中貿易戦争への懸念も和らいでいるのに…」ウォール街の市場関係者からはため息まじりの声も聞かれる。現在、米国株の上値を阻んでいるのは何か? 今回は新たに浮上している2つのリスク要因と、ウォール街で人気のトレード戦略も紹介したい。

5月のファンドマネジャー調査で浮上した「リスク要因」

米国株,見通し
(画像=PIXTA)

BAML(バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ)による5月のファンドマネジャー調査によると、最も警戒しているリスク要因として「FRB(連邦準備制度理事会)が金利を上げすぎること」がTOPに浮上、「米中貿易戦争」は2位に後退している。さらに「原油価格100ドル越え」と「信用収縮」も新たなリスク要因として浮上しており、この2つが株価を抑制している可能性がありそうだ。

まず原油価格については、先週5月15日現在で1バレル当たり70ドル台と3年ぶりの高値圏を推移している。IEA(国際エネルギー機関)は16日に公表したリポートで2018年の世界石油需要の見通しを下方修正しているが、原油価格が昨年6月以降で約75%も上昇したことから、「顕著な価格の上昇が需要に影響しないほうがおかしい」と述べており、原油価格の急激な上昇に対する懸念をにじませている。

「原油100ドル越え」なら減税効果が吹き飛ぶ?

BAMLは2019年には原油価格が100ドルに達すると予想しており、これが現実のものとなれば、ガソリン価格の上昇を通じて、米個人消費に甚大な悪影響を及ぼす恐れがあると指摘している。

ガソリン価格は5月14日現在、ガロン当たり2.87ドルと1年前と比べ0.5ドル上昇しており、3ドル大台に迫ろうとしている。それどころか、BAMLの予想通り原油価格が100ドルを越えるようであれば、ガソリン価格は3.50ドルを突破する可能性が濃厚となる。

一方、モルガン・スタンレーの試算によると、2018年の平均ガソリン価格が2.96ドルとなった場合、本来は他に消費されるはずだった380億ドルがガソリンに奪われるとしている。この金額はトランプ政権による減税効果の約3分の1に相当する。つまり、前述のBAMLの予想を加味すると、減税効果が吹き飛ぶ恐れもないとはいえない。このため、原油高への警戒は急速な高まりを見せている。

インフレ加速で「利上げスピード」を後押し?

ところで、原油価格の上昇は「FRBによる過度な金融引き締め懸念」とも密接に結びついている。原油とFRBを結びつけているもの、それはインフレだ。

ドイツ銀行のエコノミストは4月、CNBCとのインタビューで「インフレがすべてのリスクの根源」であるとし、投資判断に際しては貿易戦争や地政学的リスクより重要なポイントだと述べている。実際、FRBがインフレ指標として重視しているPCE(個人消費支出)物価指数は3月に目標である2.0%に到達しており、2.0%から上振れるようだと利上げペースの加速を検討せざるを得ないだろう。

FRBの利上げ回数については、年内にあと2回か3回かで見方が分かれているが、原油価格上昇の影響でインフレ圧力が強まるようだと、4回、5回と利上げスピードを加速させることも絵空事とは言い切れない情勢である。

サブプライム層の自動車ローン遅延率も深刻化

ちなみに、BAMLの調査によると、投資家の3人に1人が企業のレバレッジ(債務比率)は高過ぎると判断している。また、今後1年で企業利益が増えると考えている投資家はわずか10%にとどまっており、債務負担が重しとなることが警戒されている。

加えて、サブプラム層の自動車ローン遅延率の上昇も気になるところだ。格付け会社フィッチの調べによると、3月のサブプライム層の60日以上の返済遅延率は5.8%と1996年以来の高水準となり、5.0%程度だった2008年の金融危機の水準を上回った。米自動車販売は低迷が長期化しているが、金融機関がサブプライム層への貸出を減少させていることも不振の一因となっているのだろう。

BAMLが推奨するロングショート戦略とは?

BAMLの調査によると、今後12カ月で世界経済が加速するとの見方はネットでわずか1%となっており、これは2016年2月以来の低水準である。ただし、投資家の75%は株価はまだピークを付けておらず、実際にピークを付けるのは2019年より先になると考えている。また、10年債利回りについては「3.6%」が株から債券への資金シフトのトリガーになると見ているようだ。

ちなみに、人気の高いトレード戦略の第1位は「米中のハイテク株への投資」であり、2番人気は「米国債のショート(売り)」となっている。BAMLのストラテジストは「米国債への売りが一段と激しさを増しており、(心理的な節目とされた)3%を突破してもさらに売りポジションを積み増しているようだ」と述べている。

しかし、その一方で「元祖債券王」のビル・グロス氏は債券の弱気相場が続くことに懐疑的で、米景気が持たないことから「10年債利回りが3.25%を越えることはないだろう」との見解を示している。グロス氏は年内の10年債利回りは2.80%から3.10%もしくは3.15%のレンジ内で動くと予想している。

そのほか、「新興国株から投資資金の流出」も気になるところだ。BAMLによると新興国株式への投資は2016年11月以来の大きな落ち込みとなっており、投資家が「ドル高に敏感な資産クラス」を避ける傾向が顕著となっている。すなわち、ドル高は新興国通貨安とともに、新興国からの資金流出も招く要因なのだ。実際、ドルの上昇で新興国通貨が軒並み安となっており、その影響で新興国株式も大幅安となっている。

最後にBAMLは現在の流れとは反対に投資する「逆張り戦略」の一例として、債券価格の下落による金利上昇を重視するのなら「金融セクターを売り、公益を買う」ロングショート戦略を推奨していることも付け加えておきたい。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)