(本記事は、水瀬ケンイチ氏の著書『お金は寝かせて増やしなさい』=フォレスト出版、2017年12月18日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
【『お金は寝かせて増やしなさい』シリーズ】
(1)ウォール街の大半のプロを打ち負かす「インデックス投資」3つのポイント
(2)7割のアクティブファンドがインデックスに勝てない「皮肉な現実」
(3)貯めてから投資ではなく「貯めながら投資」で万一にも備えよう
(4)株なら「70万倍」、キャッシュなら「20分の1」──株式がもつ仕組みの力
(5)今後も起こる大暴落 相場が好調なときこそ確認したいコトとは?
なにが起きても自分と家族を守るお金「生活防衛資金」
生活防衛資金とは、リストラ・長期入院・災害などなにが起きても、自分と家族の生活をしっかり守るためのお金です。目安としては、「生活費の2年分」を、銀行預金など流動性の高い金融商品で確保することが望ましいと考えています。
「生活防衛資金」とは、いかついネーミングですが、これは、2000年に投資自体を始めた頃に読んだ本『投資戦略の発想法──ゆっくり確実に金持ちになろう』(木村剛著)で述べられていた考え方です。
「世の中でなにが起きようが、会社が倒産しようが、クビになろうが、絶対に自分と家族の生活を守るという一点をベースにして、投資戦略を考えるべきなのです」という考え方に強く賛同するとともに、「職を失うというリスクに対しては、最低2年はみておきたい」という目安を妥当だと考えたため、自分の投資戦略として採用したものです。
世の中の投資本でも、生活防衛資金にあたる余裕資金を持つべきだという話はよく出ています。ただし、金額に関しては、給料の3カ月分とか半年分とか1年分とか、まちまちです。
しかし、2011年に実際に起きた東日本大震災のことを思い出すと、まず避難所に避難しますが、生活の再建には、食料の確保に始まり、けがの治療、居住地の確保、仕事への復帰など、いろいろな段階を踏む必要がありました。生活の再建に1年を超える長期化を余儀なくされる場合も容易に想像できます。
もちろん、国や自治体などのサポートもあるでしょうし、状況は人それぞれでしょうから、一概には言えないとは思います。もし自分だったらと考えると、自分と家族の生活を立て直すのに、少なくとも給料の3カ月分や半年分では心もとないと感じました。
少な目の生活防衛資金でよいという意見には、「いざというときは投資商品を躊躇なく売却して生活費にあてればすむこと」という理由が付いている場合があります。
これはリストラや長期入院など個人的問題には有効だと思います。
でも、大災害の場合、着の身着のまま避難所に逃げてきた人たちにとって、電気やガスといったライフラインがダメージを受け、電話も通じないようななか、証券会社の株や投資信託を売却して、その資金を銀行口座に送金して、それをどこかの金融機関窓口から引き出すというのは、現実的ではありません。
これは個人的な印象ですが、金融業界にしがらみが多い専門家ほど、必要な余裕資金を少ししか見積もらない傾向があるように思います。金融業界側からすれば、個人投資家が生活防衛資金を多く貯めだすと、株式や投信などの金融商品にとりこめる資金が少なくなってしまうことになりますので、無理もない話だと思います。
でも、個人にとって大切なのは自分と家族の生活です。金融業界側の意向はこの際放っておいて、安全サイドで考えていきたいものです。
では、生活費の2年分が貯まらないと一切投資を始めてはいけないのかというと、そんなことはありません。「生活防衛資金を貯めながら投資をすればよい」のです。
たとえば、毎月の収入から、2万円投資できる方であれば、1万円を生活防衛資金の預貯金に、残りの1万円をインデックスファンドの積み立てに回すといった感じです。
ただし、本当は貯めておくべき生活防衛資金が十分にないなかでの投資となるので、自分自身のリスクに対する耐性も半減していると考えるべきでしょう。
ですから、生活防衛資金を貯めながらの投資は、自分が思っているよりもずっと保守的に考えて、できるだけ安全サイドに倒した内容にすることを心がけるとよいと思います。
100年に一度の金融危機のなかでもぐっすり眠ることができた理由
さて、誰もが耳の痛い(?)生活防衛資金の話が続きましたが、ご安心ください。
朗報が2つあります。
ひとつは、生活防衛資金は「年収」ではなく「生活費」の2年分です。節約して生活費を下げれば、必要な生活防衛資金もぐっと下がるということです。
たとえば、月20万円で暮らしている世帯が必要な生活防衛資金は480万円(20万円×24ヵ月=480万円)にもなりますが、節約して月15万円で暮らせるようになれば、それが360万円(15万円×24ヵ月=360万円)ですむようになります。
節約の力は偉大ですね!
もうひとつは、私が実際に資産運用をしていて実感したことなのですが、生活防衛資金は、私たちの生活を守ってくれるだけでなく、心の安定も守ってくれるという副次的効果があることです。
実際、2008年のリーマン・ショックに端を発した「100年に一度」と言われた世界金融危機のときでさえ、市場の阿鼻叫喚のなかで私がなに食わぬ顔で夜ぐっすり眠れたのは、たっぷりと確保してあった生活防衛資金のおかげだと本当に思います。
むしろ、普段の生活のなかでは、こちらの副次的効果の方が生活防衛資金の主目的であると言っても過言ではないくらいです。
水瀬ケンイチ(みなせ・けんいち)
1973年、東京都生まれ。都内IT企業会社員にして下町の個人投資家。2005年より投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」を執筆、現在ではインデックス投資家のバイブル的ブログに。日本経済新聞やマネー誌などに数多く取り上げられる。著書『全面改訂 ほったらかし投資術』(朝日新書・山崎元氏との共著)。