高給を打ち出せば、人は必ずそれに惹きつけられる。これは世界中変わらない。しかしそれでも流動性の高いのが、ハイテク、IT業界である。先ごろ米国Business Insiderは、シリコンバレーの著名13大企業の勤続年数データを発表した。それによれば平均は3.65年だった。最も長いシスコシステムズが7.8年、最も短いUberは1.8年だった。

中国ではどうなっているのだろうか。経済サイト「界面」の記事から探ってみよう。

有力各社の勤続年数

中国経済,IT業界,給与
(画像=Artem Poselenov / Shutterstock.com)

領英(LinkedIn)のデータによれば、2017年の中国インターネット業界平均在職年数は、わずか1.47年である。そして情報技術サービス2.33年、電信業2.6年となっている。これでは具体的な企業名がなく分かりにくい。そのため記事では別資料をもとに有力31社のデータをまとめている。

(社歴/従業員平均在籍年数)

電信三大運営商(日本の3大キャリアに相当)

中国聯通 23.8年/4.7年
中国移動 20.5年/4.4年
中国電信 23.0年/4.1年

通信機器メーカー

中興(ZTE)33年/4.1年
ファーウェイ 30.6年/4.0年
OPPO 14年/2.3年
VIVO 9.0年/2.0年
小米(シャオミ)10.1年/1.72年

IT巨頭「BATJ」

アリババ 19.1年/2.47年
騰訊(テンセント)19.5年/2.28年 
百度(バイドゥ)18.4年/2.19年
京東(JD)19.9年/1.86年

その他有力IT大手

捜狐 11.8年/2.26年
新浪 19.5年/2.18年
今日頭条 6.2年/1.04年

ネット放送

優酷 12.6年/2.38年
楽視 6.7年/1.95年
愛奇芸 8.3年/1.77年

配車アプリ、フードデリバリーサービス

美団点評 8.3年/1.62年
餓了麼 9.1年/1.46年
滴滴出行 5.9年/1.41年

シェアサイクル

ofo 4.0年/0.99年
摩拜(mobike) 3.3年/0.92年

中国企業はカリスマによるトップダウン経営

米国データ対象の13社を見ると、ヒューレット・パッカードの創業は1939年、アップルは1976年、オラクルは1977年、グーグルは1998年、最も新しいUberでも2009年である。

中国データ対象の31社では、23年前に改組された電信運営商3社が実質的に一番古い。元になった会社が存在していたからだ。それ以外で最も古い中興(ZTE)は1985年、ファーウエイは1987年の創業である。IT業界を引っ張るBATJは、ほぼグーグルと同期だ。それ以外はもっと若い企業ばかりである。

巨頭の在籍年数はあまり変わらない。グーグル3.2年、アリババ2.47年、騰訊2.28年である。いずれも世界の株式時価総額トップ10企業である。しかし従業員の忠誠心は、あまり高いとは言えないようだ。

BATJに続くとされるユニコーン企業の代表が、TMDと称される、今日頭条、美団点評、滴滴出行の3社である。それぞれ在籍年数は、美団点評1.62年、滴滴出行1.41年、今日頭条1.06年と極端に短い。シェアサイクルに至っては、1年にも満たない。従業員の3分の2は、1年未満の新人というケースもまれではない。

この状況を変え、社員の忠誠心を高めるにはどうしたらいいのか。ネット通販2位の京東(JD)には、“三五原則”がある。これは5年間に3つの職に付くことはできない、というものだ。同一職務は最低2年間こなす必要がある。一部職種は3年以上の経験が“卒業”の条件となっている。従業員へ会社への忠誠を求める制度だが、その実、京東の平均在職年数は1.86年に過ぎない。逆効果になっているのではないだろうか。

このような従業員の高い流動性は、日本ではちょっと考えにくい。人の和は明らかに不足している。それでも中国のIT業界は、日本以上のスピードで、次々に新機軸を打ち出している。これはカリスマ創業者たちのリーダーシップによるところが大きいのだろう。上意下達のスピード経営である。従業員は優秀だが、カリスマ不在の日本企業のリーダーシップとは真逆、とは言いすぎだろうか。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)