米国でクレジットカードのローン金利が急上昇している。クレジットカード・ドッドコムによると、7月18日現在のクレジットカードのローン金利は全国平均で16.96%となり、2007年以降で最高値を更新した。6月の米利上げをきっかけにこの1カ月間でシティ・バンク、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、バークレイズといった主要行が軒並みカードローン金利を引き上げたことが背景にある。

カードローンの遅延率も上昇

クレジットカード,米国
(画像=PIXTA)

カードローン金利の上昇を主導しているのはFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げにあることは明らかだ。カードローン金利は2010年4月に14.70%まで上昇したあとほぼ15%以下で横ばいの動きとなっていたが、FRBが約10年ぶりの利上げに踏み切った2015年12月に15%ラインを突破、その後も利上げに歩調を合わせて上昇を続けている。FRBは2015年12月から計7回の利上げで金利を合計1.75%引き上げているが、ほぼ同じだけカードローン金利も上昇している。

7月17日の議会証言では、パウエルFRB議長が景気の先行きに対して楽観的な見通しを示したことから、年内にあと2回、9月と12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でそれぞれ0.25%ずつの利上げが実施される可能性が高まっている。したがって、カードローン金利も年末までにさらに0.5%の金利上乗せとなりそうな情勢だ。

ウォール街の市場関係者が懸念しているのは「金利の上昇に伴ってカードローンの遅延率も上昇している」ことだ。今年1~3月期の90日以上の深刻なカードローンの遅延率は8.01%となり2016年7~9月期の7.08%から拡大傾向が続いている。1~3月期は昨年10~12月期の7.55%から大きく跳ね上がっており、状況が目に見えて悪化している様子がうかがえる。年末までにさらに金利が上昇すれば、遅延率の悪化に拍車が掛かる恐れがある。

カードローンの遅延率上昇は「炭鉱のカナリア」

ところで、FRBが5月に公表した「Report on the Economic Well-Being of U.S. Household in 2017」によると、成人のうち22%が何らかの支払いを遅延していることが明らかとなった。支払い遅延の内訳(※複数回答含む)を見ると、クレジットカードローンの全額もしくは一部の支払いができないと答えた人が49%と最も多く、次いで電話代(27%)、電気・ガス料金(26%)、住宅ローン・家賃(17%)、自動車ローン(14%)、学生ローン(10%)と続いておりクレジットカードの支払い遅延が他を大きく引き離している状況を浮き彫りにしている。

ウォール街の市場関係者は上記について「見方を変えると、このデータは『最初に遅延が始まるのはクレジットカードから』だということを示唆している」とコメントしている。

昔、炭鉱で働く労働者はカゴに入れたカナリアを持って坑道に入ったという。坑道内で有毒ガスが発生するとカナリアがいち早く危険を察知してさえずりが止まるからだ。転じて金融市場では何らかの危機が迫っている前兆を「炭鉱のカナリア」と呼ぶことが多い。カードローンの遅延率上昇は文字通り「炭鉱のカナリア」である可能性は否定できない。

カードローンが拡大しても消費は伸びず

5月の消費者信用残高は年率換算で前月比7.6%増と大幅な伸びとなった。背景にはクレジットカードのローンが11.4%増と大幅に伸びたことがある。ただ、5月の米個人消費は前月比0.2%増と事前予想(0.4%増)を下回っており、借入れを拡大した割に消費そのものは大して伸びていない点が気掛かりだ。インフレ圧力が強まっていることから、5月の個人消費は実質では前月比横ばいであり「金額は増えているが量は増えていない」のが実情なのかもしれない。

米景気に「冷や水を浴びせる」危険性も?

ところで、7月18日現在のGDPナウによると4~6月期の米GDP成長率は+4.5%と予想されており、これに近い数字となれば9月のFOMCの利上げに向けて青信号が灯ることになる。

とはいえ、パウエル議長が議会証言で改めて関税合戦に懸念を示したことからもうかがえるように、貿易摩擦の実体経済への影響が数字となって現れるまでにはタイムラグを要する。また、10年債利回りから2年債利回りを差し引いた「長短金利差」は2月上旬の0.78%から3月と6月の2回の利上げを経て7月17日には0.24%にまで縮小しており、9月に利上げが実施された場合には逆転する可能性すらある。ウォール街では「長短金利の逆転は景気後退の前兆」と懸念する向きも多い。

米利上げが継続するようであれば、クレジットカードのローン金利と遅延率のさらなる上昇を招き、結果として米景気に冷や水を浴びせることにもなりかねない。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)