地理的に近い日本は大きなチャンス
今後の人口動態などから主要地域の名目GDP(国内総生産)を予測して、今後の世界経済の構造変化を確認した。すると、第一の特徴は2030年にかけて名目GDPの規模で中国が米国を、インドとASEANが日本を逆転する可能性がある。
そして第二は、アジアを中心としたインフラブームと世界の経済連携が世界経済をけん引することが予想される。
名目GDPのシェアはあくまで相対的な経済規模の割合を示したものにすぎず、個別の国や地域の市場性という意味での経済成長率を示したものではない。実際、世界最大の経済大国である米国と中国を比較すると、実際の経済成長率については、例えば、①米国の潜在成長率は高々2%程度である、②中国経済は成長率が減速するとはいえ2020年代後半でも4%程度の成長を維持している可能性がある、等である。
資料1 主要地域の名目GDPとそのシェアの予測
世界経済の成長センターはアジア
一方、IMFの経済成長率予測と国連の人口予測通りに今後の世界が推移したと仮定して、経済成長率と人口増加数の上位10か国をピックアップした。なお、同分析では、経済成長率は2016-2022年の平均、人口予測については2015年から2030にかけての増加数とした。実際のランキングを検討すると、三つのポイントが挙げられる。
第一に、2022年までの高成長国ランキングを見ると、アジア各国が上位を独占することになる。この予測に従えば、今後の世界経済の成長センターはアジアになる可能性が高いと言えよう。
第二に、人口動態的に見ても、インドやパキスタン、中国を筆頭に、アジア諸国がけん引することがわかる。しかし、そうした中でも2位にナイジェリア、5位にエチオピア、8位にエジプト、10位にウガンダがランクインしており、人口動態的には長期的にアフリカも成長ポテンシャルが高いという見通しが立つ。
そして第三に、世界最大の経済大国の米国についてである。一般に経済が成熟した先進国はキャッチアップの余地が少ない。このため先進国の経済成長率は相対的に低くなりがちであり、更に経済が成熟して人口ボーナス指数がピークアウトすれば、のちに生産年齢人口の伸びも鈍化し、経済成長率の下押し圧力が高まる。
先に指摘したように、米国は経済規模の観点から、2030年にかけて中国に追い抜かれる可能性が高い。しかし、一方で今後も移民の増加などにより人口の増加を維持する可能性も高い。このため、米国は人口増加数でも引き続き上位に位置し、世界経済における優位性を維持することになろう。
資料2 経済成長率と人口増加幅予測ランキング
期待されるアジアのインフラ投資
こうした中、今後の世界経済の成長のエンジンを確認するという意味で、アジアのインフラ需要が期待されている。そこで以下では、2030年にかけてアジアのインフラ投資がどの程度期待され、地域や分野別ではどういう傾向があるかを見てみよう。
実際にそうした予測を、アジア開発銀行が2017年にアジアのインフラ需要予測を公表しており、地域別や分野別の予測も公表している。これによれば、アジアのインフラ需要は2016年から2030年にかけて累計で26兆ドルにも上ると予想されている。
さらに、その推移をみると、2015年時点では0.9兆ドルとなっているのが、2016-2020年にかけては年平均1.3兆ドル、2021-2030年に至っては年平均1.9兆ドルの予測となっている。従って、アジアのインフラ投資は2016-2030年にかけて世界の名目GDPの4~7%の水準で推移することになる。また地域別・分野別で見れば、特に東アジアや南アジアの電力や交通・運輸関連の需要拡大が期待されることが見込まれる。
以上より、今後は世界経済におけるアジアの存在感が高まる可能性が高く、いかにこの需要を取り込むことができるか否かが、長期的な日本経済の今後を左右するといえよう。
資料3 アジアのインフラ需要予測
永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。