外国人受け入れによる労働力とマーケットの確保を

変える力,東日本大震災5年
(画像=PHP総研 熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員))

永久:日本国中同じような課題だらけですよね。地域を経営できる人がどれだけ多くいるか。それが日本全国の地域の課題でもあります。

熊谷:その意味で、被災地の課題が日本社会の課題の縮図と言われるのは正しいんですよね。

永久:正しいんですけど、被災地の場合はまったく新しいことをやれるチャンスでもあると思っているので、自然発生的に待っているのではなくて、どんどん積極的に仕掛けていくべきだと考えています。

たとえば、すごく突飛な話かもしれませんが、東北地域に住むという条件で、外国からの移民を受け入れるとか。そうすると、マーケットのボリュームは一気に拡大しますよね。もちろん国内で移動してしまうこともあるでしょうが、たとえば東北の地域に5年、10年住むのであれば、補助金とかなにかしらの生活サポートを提供するとか、そうした手を打つことで、一気に環境が変わるんじゃないかなと思います。文化的に摩擦は生じるでしょうか。

熊谷:実は、震災前の東北沿岸部の水産加工業の担い手は、中国からの研修生によるところが大きかったんですね。震災で彼らが帰国してしまって、労働力の確保に困っているところが少なくありません。そういう、これまでの生活の実態を考えれば、地域の中で外国人の受け入れに抵抗があるかと言えば、必ずしもそうではないと思うんですね。

私も震災後に改めて驚かされたんですけど、避難所に行くと海外出身のお嫁さんが非常に多いんです。彼女たちは独自の横のネットワークをつくっていて、丁寧に説明して理解してもらえたら、情報の共有に比較的容易でした。

東北の沿岸部では、彼らがいないとそもそも産業が成り立っていなかったというところがある。そこから今のような話にうまくつなげられるといいんですけどね。外国人の移住によって労働力を確保できれば、ある程度また産業が戻ってくることが見込めるのかとか、その辺りが復興のひとつの鍵のような気がします。

永久:日本に住む外国人が労働力の供給源やマーケットになっているということは、私たちが数字で見るよりもっと大きな規模で実態が進んでいるような気がします。だけど、それがどんどん大きくなっていくと、それまでになかった軋轢が生じてくる可能性もあって、人数が少ないときには仲良くできたのに、多くなってくると衝突が生まれたりもする。

そういう事態に私たち日本人はあまり慣れていないので恐れるんですけど、一定レベルの経済的繁栄や社会保障を維持していくためには、そうしたことも受け入れる覚悟が求められていると、私は感じています。東北の人々にその先陣を切れというのはいささか筋違いなのかもしれないけれど、日本全体として、そういう選択を迫られる場面に直面しているのではないでしょうか。

熊谷:津波が頻繁に来るようなところに住んでいるので、基本的には人の力に頼るよりも、自分たちでなんとかできる幅で生きるしかないという考え方をする人たちが多い地域です。これまで通り自分たちの手の届く範囲内の仕事に閉じこもってしまうのか、この震災を契機に地域の外とつながって、さまざまな交流の中で新しい価値をつくっていくのか、うまくバランスを取りながらやっていけるといいなと。ここから2~3年が、大きな分岐点になると思います。