既存モデルを打ち壊す爆発的な成功を

変える力,東日本大震災5年
(画像=PHP総研)

永久:東北に限ったことではないのですが、農業や漁業をはじめ、目の前の仕事をコツコツやっていれば、何とかやっていける。厳しいときには国から補助金などが出て、一定レベルの生活は保障される、という仕組みの中で我われ日本人の多くは生まれ育ってきているので、そのマインドセットを変えなければうまくいかないのかもしれない。だからこそ、外国から人を呼びこんではどうかというのが、ひとつの提案なんです。彼らのハングリー精神はすごいですから。

熊谷:同感です。新しい産業をつくるには、従来の漁協や農協を打ち負かすくらいのものができてはじめて、成功モデルとして全体の底上げができると思っています。もっと言えば、農協や漁協が自ら生まれ変わって、日本で最先端の経営モデルをつくってほしい。

「葉っぱビジネス」で一躍有名になった徳島県上勝町だって、元をたどれば農協の職員が先頭に立って奮闘したのがスタートなんです。そして農協自身が、ベースモデルを作り変えてしまった。同じようなレベルの変革が三陸の漁協でも起きなければ、復興は難しいと思います。復興というと、元に戻す話になりがちなんですが、そうではなくて、まったく違う業態に変化して、いままでとはまったく違う発想でお金を稼げる仕組みをつくり出さないことには、人も売上も戻らないと思います。

その意味では、桃浦には期待していたんですが、なかなか他地域を刺激するところまでは至っていない。ちょっとした成功モデルではなくて、上勝町のような爆発的な成功がどこかに生まれて既存のモデルを打ち壊さない限りは、農協や漁協に守られる範囲内でやっていればどうにかなるという意識から抜け出すことはできないと思います。

永久:その爆発的な成功をどうやったら誘発できるのかというのが、悩ましいところですよね。国から出ているさまざまな補助を急に止めてしまうと立ち行かなくなるところが多いでしょうから、期限を決めて徐々に減らしていく。減っていく部分に関しては、自分たちで工夫してがんばってくださいねというやり方はすぐに思いつくんですけど、それで本当にがんばれる企業がどのくらいあるのか。産業や企業がただ死んでいくだけにもなりそうで、難しいところですよね。

熊谷:行政の側として復興にあたった身からすると、これは痛切な反省なんですが、復興予算を他の復興まがいの事業に使われないようにと、いろんな縛りをかけすぎてしまった。「この目的でこの内容なら使えるけど、他には使っちゃだめ」という境目にこだわりすぎて、結果として地域の中で生きた使い方のできるお金にならなかった。

復興交付金に関しても、一定のボリュームの予算を渡すから地域の裁量で好きに使ってくださいというのが本来の発想だったはずなのに、「復興に直接貢献すること」「その定義はこれ」とたがをガチガチにはめてしまった。そのために自由な身動きがとれなくなってしまって、何に使うかではなく、間違いない使い方から相手や目的を考えるような本末転倒なところがあちこちに見られます。このままでは、新しい発想や爆発的な成功を生み出す原資には、到底なれないと思います。

永久:補助金などの交付にあたって、細かく口を出し過ぎたのが大間違いだったということですね。以前一括交付金というものがありましたが、あの発想を応用して、なにに使ってもいいけれど、一定の成果は追及するというか、結果に対する責任は問うというような仕組みも必要なんだろうと思います。

その場合も、結局は人なんですよね。そういう取り組みに対する気持ちやパワーを維持できる人。被災地について言えば、生産の三要素のうち、土地はある。資本と労働は微妙ですよね。だから、お金と人を世界中から集めたらどうか、それが打開策の根本になるんじゃないか、と私は思います。

熊谷:そういうところに踏み出す地域がどこか出てきたら、また変わってくるかもしれないですね。

永久:そうした人口や資金の流動性を高めるような環境設定を、国はやるべきではないでしょうか。

熊谷:これも被災地に限った話ではないんですけど、日本はストックベースで評価する傾向がありますよね。ストックではあまり価値を生んでいないとしても、フローの部分でいろんなものが動くことで必要なお金が生み出されるような社会の仕組み、地域経済の仕組みを考えなければならないと思います。人口がこれだけ細ってきた中で考えられる対策は、どれだけ流動性を高めて、その中からどれだけの価値を拾うかだと思うんです。

岩手はもともと過疎化が進んでいたので、震災前と比べても人口は2割程度しか減っていないんですが、女川は4割くらい減っているんですよ。一方で仙台は増えている。

永久:震災によって人口集約が進んだということですよね。

熊谷:そうです。そう考えると、沿岸部の過疎化の進行度合いというのは、宮城がもっとも深刻なんですね。ただ、女川は原発があるのでお金は潤沢なんです。そして人口が減った分、一人あたりに使えるお金は増えている。だから、人口減少への危惧はもちろんある一方で、やれることはなんでもやろうという前向きな空気を感じます。ああいうところから新しい取り組みがたくさん出てくるのかなという期待を、女川には持っています。

永久:5年も経つといろんなものができあがってきた分、また新しくビジョンをつくるということも難しいとは思いますが、そのためには有能な経営者や政治的リーダーといった存在が必要ですね。それをなかなか見いだせないのが最大の課題ですが、それは自然に出てくるものではないので、そうした人材を育てていかなければならないと思います。むしろ、復興の希望はそうしたところにあると言えるのかもしれません。本日はありがとうございました。

(『政策シンクタンクPHP総研』より転載 2016年05月06日公開)