会話の目的は「5つの変化」にあった!
会話には毎回、特定の目的があります。そして、どんな目的にもその上位目的があります。
それを踏まえた上で、会話の目的はその都度異なったとしても、共通しているのは「変化を起こす」ことです。会話をすることによって、それ以前の状態から、なんらかの「変化を起こす」――多くの場合は、「望ましい変化を起こす」ことが目的となります。
変化を起こすということは、変化前と変化後の状態があるはずです。
この「状態の変化」は、次の5つの要素に大別することができます。
<1 感情の変化>
会話を通じて感情に変化が及びます。お客様のクレームに対して、誠実に対応し、丁寧な説明をすることによって、怒りの感情が鎮静化するということもあるでしょう。逆に、失礼なことを言ってしまって、お客様を怒らせてしまうこともあります。
誰にも言えない悩みを抱えた人が初めてカウンセラーに心の内を語れたとき、重荷を下ろせたような解放感を持つことがあります。
逆に、人格を否定されるような叱り方をされれば、怒りの感情がわき起こるでしょうし、誰かの裏切りを聞かされて悲しくなることもあるでしょう。
会話を通じて、相手や自分に感情の変化を起こす。これが目的の1つです。
〈2 思考の変化〉
会話は情報のやり取りでもあります。情報が追加されたり訂正されたりすることによって、私たちの思考は変化します。
Aという製品が故障したので、カスタマーサービスセンターに電話をかけたお客様がいたとしましょう。そのお客様は製品Aを欠陥製品だと非難します。
サービスセンターの担当者は製品の利用状況を確認し、本来の製品の耐久性と品質の基準と品質管理体制について説明し、今回の場合、お客様側の使用方法に間違いがあったことを丁寧に説明しました。
そのお客様は、たしかにその製品Aを別の用途に使おうとしていたことを勘案すると、自分に非があるということを理解します。故障は不本意であるものの、自分の責任であるため仕方ないと理解したとするならば、「製品Aは欠陥商品である」という思い込みは修正されたことになります。
この場合、思考の内容が変化したということができるでしょう。会話は情報のやり取りであるという側面があり、この点において、思考の変化も会話の目的の1つに数えられるのです。
〈3 行動の変化〉
会話によって思考が変化すれば、判断も行動も変化します。
現実を動かすためには、行動を変化させなければなりません。あらゆる会話は、少なくとも結果的に、相手の行動を変化させます。その変化が本意のものなのか、不本意であるかの違いはあってもです。ほとんどのビジネス・ミーティングは、行動の変化を目的としています。
どんなによいアイデアも、実際に試してみないと現実は変わりません。思考を現実に変えるための唯一の方法が、行動なのです。
現実を変化させたいと思うならば、会話の力点をお互いの行動の変化に置かなければなりません。
〈4 関係の変化〉
名前を知らないご近所さんだったけれど、毎朝挨拶をしているうちに、少しずつ打ちとけていく、なんてことがありますね。
挨拶をしただけでもそうなのですから、会話をしたら、会話の前と後とでは関係がもっと大きく変化します。
初対面の人と挨拶して会話するとすれば、見知らぬ関係から、初対面の挨拶を交わした関係へと変化します。会話を重ねるにつれて、距離が縮まり、やがてなんでも言い合える関係になるということもあります。ビジネスにおいては、より協力し合える関係を構築するためにミーティングを重ねていきます。
会話によって、大なり小なり、お互いの関係に変化が生まれます。
ですから、会話する相手との関係にどんな変化を起こしたいかということも、会話の目的の1つです。
〈5 気分の変化〉
会話をする前と後とでは、「感情」「思考」「行動」「関係」においてなんらかの変化が起こります。
これらが私たちのエネルギー、つまり「気」の状態に変化を起こします。それが、気分の変化です。感情や思考、行動、関係が変わることで、落ち込んでいた人が元気になることもあれば、元気だった人がしょんぼりしてしまうこともあります。
たとえば、ボーナスの査定面談で、上司と部下が話しているとしましょう。部下は、今回は頑張ったからボーナスもいいのではないかと思っているとします。
ところが上司から聞かされたのは、今期は全社的に業績不振で、その数字が個人業績にも反映されるという事実。
「君の頑張りはわかる。だから点数はこんなに高い。ところが全社業績の係数を掛けると、このような金額になる」
その数字を見て、部下は予想が裏切られてがっかりする。結果として気分が下がる。
このようなシーンはよくあることですね。極端な例かもしれませんが、すべての会話において、会話の前と後では気分に変化が見られます。
会話をすることによってあらゆる要素に変化が起こり、結果としてそれらが総合されて、相手と自分に気分の変化がもたらされるのです。総合的な気分の変化を生むということが、会話の大きな目的だといえます。