シンカー: 今年の前半までは、米国のフラットなイールドカーブが景気後退を予期しているのではないかとの意見が多かった。FEDの利上げにより上昇してきた2年金利と低位安定してきた10年金利の逆転がリスクとして指摘された。しかし、米国の景気動向は財政出動もあり堅調で、インフレ圧力も高まってきたことで、実際に起こったことは10年金利の上昇で、イールドカーブのフラット化には歯止めがかかった。そして、その10年金利の上昇が景気動向を冷やすのではないかという新たな懸念が生まれ、株式市場は調整した。言い換えれば、景気動向が堅調であることの裏返しであり、実際に景気後退が起こるには、サイクルはもう一度回らなければならないと考えられる。景気動向が堅調で、インフレ圧力が根強いと判断したFEDが金融引き締めへの方向性をより強くし、今度こそは2年金利と10年金利の逆転が生まれる展開となり、そこから1年程度で景気後退となるというサイクルである。FEDの利上げはまだ緩やかで、中立金利を大きく超えての引き締めは予期されておらず、そのサイクルが回り景気後退になるには、まだまだ時間がかかることが明らかになったのだと考えられる。株式市場も、これまでの過度な低金利の前提が修正された後、堅調な景気動向を反映して持ち直していくだろう。
最新のSGグローバル・レポートと要約
●米国経済(10/12):CPI上昇が減速
米国の9月インフレ率は見込みより弱く、CPI(消費者物価指数)上昇率(前月比)は「総合」「コア」ともに0.1%に留まった。「コア」CPIは、中古車価格の急低下(算出手法の変更が理由の大半)に抑制された。中古車価格は、10月には回復すると見込まれる。中古車を除くと「コア」CPI上昇率は発表よりも高い数字になるが、最大のけん引役である住居費が9月には減速していた。また「コア」CPI上昇の3分の1は、指数に占めるウエイトが合計で約4.0%に過ぎない2品目からもたらされていた。短く言うと、インフレ圧力が形成されつつあるという兆しは、ほぼ全く見えない。
●欧州経済(10/15):イタリア:予算案はEUルールに不適合も、制裁は考えづらい
予算案を欧州委員会に提出する期日の月曜日(15日)を前に、弊社は先週発表されたイタリアの経済財政計画(最新のDEF)の詳しい見直しや、自身の経済予測の更新を行いたい。政府の景気見通しが楽観的であることを無視しても、財政赤字や政府債務の政府見通しは非現実的だと弊社はみている。具体的ではない支出削減や税収に頼っているほか、最近の金利スプレッド拡大による財政コスト増加が完全には考慮されていないと見込まれる。総じて言うと、弊社は2019年のGDP成長率を1.2%、財政赤字はGDP比2.8%(に拡大する)と予測している。政府債務のGDP比は、2019年はほぼ変わらないが、2020年には望ましくない雪だるま効果を背景に、再び上昇トレンドに入ると見込まれる。
イタリアの予算が、(財政赤字3%を除き)EUの財政ルールを破ることは明らかだ。だが欧州委員会は、予算修正は要求せず是正策を追求するとみられる。また最終的に制裁につながる報告書は準備するが、2020年までに発表することは無い見込みだ。最後に、連立政権が崩壊するリスクは(消滅はしていないが)低下した。とはいえ、来春以降には再浮上するとみられる。
●欧州経済(10/11):ドイツ:政治・経済面の安定性を揺るがす要因が浮上
先週にECBのドラギ総裁が、コアインフレ見通しを「比較的力強い」と表現したことは驚きであった。直近のスタッフ予測も強弱入り混じっており、原油価格とコアインフレ率見通しを引下げたにもかかわらず、総合インフレ率は据え置いた。では、フィリップス曲線に対する疑問が長期間消えないにもかかわらず、(ドラギ総裁の考える)コアインフレ率見通しが力強い理由は何だろうか。弊社は、純粋なインフレ懸念が利上げサイクル開始につながるというよりは、金融政策を実体経済の状況に近づけて非伝統的な政策を終わらせることを急ぐべき、という感触を持っている。その結果、来年は金利パス(非常にフラットな動きが依然として見込まれている)が焦点になるだろう。だが出発点が低いことから、短期金利に対してタカ派的なトーンが強まる可能性も否定はできない(特に、原油価格上昇が続き、生産能力の制約が深刻化した場合は)。ECBの過去の対応パターンを考えると、ノンコア・インフレ率への反応が金融政策を左右する可能性を、過小評価することはできない。
●南米経済(10/10):ブラジル:「控えめな楽観主義」が必要な時期に
ブラジル大統領選挙の第1回投票ではボウソナロ候補が支持され、月末の第2回投票で勝利する方向が明確になった(第2回投票の結果が二極化する、即ちボウソナロ候補の圧倒的勝利となる可能性もあるが)。議会勢力は上下両院とも非常に細分化された状況が続いており、改革に対し強すぎる期待を持たない、という慎重さを保ちたい。一方、今後数週間で市場が過度に楽観的となりブラジルレアルが大幅に上昇すれば、BCB(ブラジル中銀)は新政権発足まで一息つく余裕が広がる可能性がある。この場合「2019年第2四半期終わりまでに150BPの利上げがある」という短期的な弊社の金利見通しには、明確・大幅な下振れリスクが生じる。
●債券市場(10/15):債券相場の下落は終わっていない
ここ数日間で債券市場の弱気相場に弾みがつき、米国債利回りは直近のピークを更新した。我々が確認した金利上昇要因が引き続き作用している現状を踏まえ、弊社は投資戦略の観点からデュレーション・ショートのスタンスを維持している。欧州中央銀行(ECB)は資産買い取り策の終了を予定し、2019年の金利正常化を目指して準備を進めている。これが今後もベリー・セクター主導の債券売りを後押しする要因となる。そのため、弊社はユーロ圏の債券市場で2年-5年スティープナーを堅持する一方、ロングエンドにおいてはベア・フラット化を想定したポジションをとる。デュレーション・ショートの投資スタンスにとって波乱要因となるのはイタリア情勢だが、世界的なリスク・センチメントの改善は、ショート・ポジションの投資家がついにはタオルを投げ入れて利回りの確保に向かう可能性を高める・・・そう期待したいものだ。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司