金融市場では、自らの運用が市場にも影響を与えてしまうような巨額資金の運用主体を「クジラ」と表現します。世界一の「クジラ」といえば、いまや運用資産総額No.1を誇る日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。その原資は私たちが積立てた国民年金や厚生年金の保険料です。本稿では、GPIFがどんな運用を行っているかについて見ていきましょう。

組み入れ比率の変遷と投資成績

日本の年金ファンドの運用状況
(画像=Alex Staroseltsev_Shutterstock.com)

GPIFは厚生労働省からの委託を受け、年金積立金の管理・運用を行う独立行政法人です。GPIFが運用して得た収益は国庫に納付され、私たち国民に給付される年金の原資になります。つまり、GPIFが好成績を上げてくれることが、国民の老後にとっても極めて重要な意味を持つわけです。GPIFのホームページでは、毎年度の運用実績や資産構成割合の詳細を閲覧できます。2017年度は約7%のプラスで、10兆円の収益を上げることに成功しています。

GPIFが運用を開始したのは2001年度からですが、それから17年間に及ぶトータルの運用収益は年率3.12%、63.4兆円のプラス。リーマンショックに見舞われた2008年度には-7%超、10兆円近い損失を被りました。しかし、アベノミクスが始動した2012年度に約11兆円の運用収益を上げ、その後は2015年度を除いて、一貫して5%を越える収益率を維持しています。

優秀なパフォーマンスの背景には、2014年11月以降、国内債券偏重から株式投資の積極化へと、運用方針を大転換したことが貢献しています。2017年度末の運用比率は、国内債券約27%、国内株式約25%、外国債券約14%、外国株式約23%、短期資金約8%となっており、株価の上昇もあって、株式保有比率が高まっています。

高い株式保有比率が意味することとは

しかし、2008年秋に世界を襲ったリーマンショックのような金融危機が発生すると、株式偏重のポートフォリオでは大損失をこうむるリスクもあります。たとえば、世界第2の資産総額を誇るノルウェーの政府年金基金グローバルGPF-Gの場合、株式運用比率が70%台と高い傾向です。そのため、リーマンショックが直撃した2008年、2009年の2年間は運用成績がマイナス10%前後まで悪化しました。株式保有比率が50%近くに達するGPIFも同じような打撃を被らないとは限りません。

しかし、ノルウェーのGPF-Gをはじめ世界の名だたる年金ファンドは、その後の株高トレンドを追い風に大幅に運用成績が改善。GPF-Gの場合、年金保険料の流入もあってリーマンショックから10年後の2018年には運用残高が約3.5倍まで大躍進しています。

GPIFは資産運用の教科書!?

年金ファンドという宿命上、高齢化がさらに進んで年金の給付額が保険料を上回れば、収益以上の取り崩し、つまり運用元本の目減りも危惧されるところです。GPIFから年金特別会計への納付額は、2017年度には約9,000億円で、GPIFが設立された2006年以降の11年間で約13兆円に達しています。運用成績が良好だったアベノミクス初期の2013年度には約2.1兆円、2014年度には約3.2兆円と巨額の資金を取り崩しています。

いずれにせよ、厚生労働省の管轄下で、プロの金融機関の精鋭たちによって行われているGPIFの運用は、私たち個人投資家の資産運用の参考になるのも事実です。GPIFの国内債券30%、国内株式、海外株式25%、海外債券15%という現在の運用比率は、個人資産のポートフォリオ作りの目安にもなるはず。そういった意味でも、「世界一大きなクジラ」となったGPIFの運用状況から目が離せないのです。

(提供:フィデリティ投信