高金利通貨として知られるトルコ・リラですが、2018年に入って対日本円や対米ドルで過去最安値を更新しつづけています。6月末に再選されたエルドアン大統領は強権的な政治姿勢で米国トランプ大統領との対立を深めたこともあり、7~8月に入って事態は「トルコショック」と言われるほど緊迫化しています。トルコ・リラだけでなく、アルゼンチン・ペソも対米ドルで過去最安値を更新し、ロシア・ルーブルやブラジル・リアルなど新興国の通貨が軒並み急落しています。果たして、トルコ発の新興国危機はいつ収束するのでしょうか?
新興国の通貨安と米国の金利上昇の関係とは?
トルコ・リラの下落は、インフレ率が過去最高の15%超に達したにもかかわらず、物価上昇を抑えるための利上げを行わないなど、エルドアン大統領の経済・金融政策の失敗が一部引き金になっているようですさらに拘束している米国人牧師の解放を巡って、トランプ大統領との対立が激化していることが油に火を注ぐ格好となり、危機に拍車をかけているようです。
8月に入ると、ヨーロッパ中央銀行(ECB)が欧州銀行のトルコ向け融資に懸念を表明したという報道も出て、ユーロや英ポンドなど欧州通貨も対ドルで下落。株式市場も世界的な急落に見舞われました。まさに典型的な「危機の連鎖」が起こっているのが現状です。
トルコショックがどのように収束するかはまだわかりませんが、新興国からマネーが流出して通貨危機が起こる背景には、必ずと言っていいほど米国金利の上昇が影響を及ぼしています。
2008年秋に発生したリーマンショック以降、米国の中央銀行FRB(連邦準備制度理事会)は落ち込んだ米国経済を刺激するために、市中にドル資金を大量供給する量的金融緩和策を続けてきました。
しかし、米国経済の回復が鮮明になり、消費者物価指数や労働者の平均賃金が上昇するなどインフレ傾向が強まったこともあり、2016年1月以降は政策金利の引き上げを進めています。2018年6月には政策金利が2%の大台に乗り、さらに年内1~2回の追加利上げが予想されています。
米国の金利が上昇すると新興国で経済危機が起こるカラクリ
米国で金利が上昇して魅力的な水準になると、世界中のマネーが米ドルに回帰する流れが加速します。するとドル高が進み、新興国の通貨が対ドルで著しく下落して金融危機が起こるというのが新興国の危機の「定番」といえる流れです。
過去にも、1994年のメキシコ危機、1997年のアジア通貨危機、1998年のロシア危機などが起こりましたが、それらの背景として、ドル高による新興国からのマネー流出が要因の一つとして考えられています。
米国で金利が上昇すると、わざわざ新興国に投資しなくても、米国内で投資するだけで魅力的なリターンを上げることができるので、これまで海外に流出していたドルが米国内に還流する動きが出ます。この米国への資金回帰が大規模なものになると、外国為替取引の流動性が乏しく、経常赤字が続いて、経済基盤も脆弱な新興国通貨が、暴落するというわけです。
新興国危機を逆にチャンスに思える発想の転換が必要
ただし、これまで何度も危機を経験してきたということは、逆に言うと、危機から何度も立ち上がってきたということ。いったん米国に還流した投資マネーは、米国経済の好調が続くと再び、ハイリターンを求めて新興国に向かう傾向があります。個人投資家が新興国に直接投資する方法は限られていますし、リスクも高くなります。新興国の株式や債券に投資する投資信託なら、リスク分散の機能も働くので、気軽に新興国に投資することができます。通貨安や経済危機が起こって、新興国の株式や債券が底値まで暴落したあと、上昇に転じる局面は、ある意味、新興国への投資を始めるきっかけになるかもしれません。
(提供:フィデリティ投信)