60歳の定年退職後に、一体、いくらの老後資金が必要かに関心が集まっています。その金額は1億円から3,000万円、中には年金だけで十分という説もあり、さまざまです。「定年後にいくら必要か」という議論に、果たして、答えはあるのでしょうか?
65歳以上夫婦2人世帯の月間平均支出は約25万円
総務省の家計調査によると、世帯主が65歳以上の2人以上の世帯の平均消費支出額は1ヵ月あたり24万9,063円。貯蓄現在高は1世帯あたり2,394万円、中央値は1,484万円になっています(2016年時点)。
老後は年金収入に頼らざるをえないのは間違いないところですが、国民年金を満額受給した場合は夫婦2人で約13万円、厚生年金は、夫が428万円の平均年収で40年間就業し、その間、妻がずっと専業主婦だった場合、約22万円になります(2018年度)。
「老後に年金がいくら必要か」という議論がこれほど活発になった背景には、平均余命がどんどん伸びて、人生100年時代が視野に入ってきたことも大きいでしょう。2016年の簡易生命表によると、現時点で65歳の人があと何年生きるかを示した平均余命は男性84.55歳、女性89.38歳です。
医療の発達や健康志向の定着で、早死にするのと同じぐらい、長生きして生活費が枯渇してしまうリスクが意識されるようになっています。
老後にいくら必要かより60歳以降も働けるかが重要
ただ、「自分が何歳まで生きるか」は誰も正確にわからないなど、「定年後にいくら必要か」という議論にはさまざまな「変数」が関係していて、一概に「いくら必要」とは言えないのが現実でしょう。
これらの議論に決定的に抜け落ちている点を挙げるとするなら、
・ 定年後、無職になっても資産運用を続けることで、年金収入以外の投資収入が見込めること、
・ 60歳の定年退職後もなるべく長く働いてお金を稼ぐことができれば、老後資金が枯渇するリスクを回避できる、
という2点です。
高齢者向け人材派遣事業が今後どんどん伸びる
特に、少子高齢化で労働人口が不足している日本では、「60歳定年後は無職」という常識が崩れ、「高齢者でも働きやすい社会」が実現する可能性が高まっています。実際、「第四新卒」と銘打って50歳代の幹部候補社員を募集する会社が話題を集めたり、50歳以上の高齢者向けに特化した人材派遣会社が急成長を遂げるなど、60歳以上でも働く意思のある「アクティブシニア層」の人材活用は今後も一段と普及していきそうです。
また、定年退職した60歳以上の人を対象にした起業支援ビジネスも広がりつつあり、厚生労働省では60歳以上の起業家が雇用創設措置に要した費用に対して上限200万円の生涯現役起業支援助成金を援助するなど、高齢者の起業を後押しする政策を続けています。
そう考えると、億単位のお金を稼いでアーリーリタイヤする人はともかく、今後は「60歳で引退」という大前提自体が時代遅れになり、月5万円でも10万円でも稼ぐ高齢者がマジョリティになりそうです。
定年退職後も働きつづけるには、には健康でなくてはなりません。健康上の理由で日常生活が制限されることなく過ごせる「健康寿命」は男性約72歳、女性約75歳となっており、平均余命に比べると10年以上短くなっています。
この健康寿命をいかに上げるか、その気になればまだまだ働ける期間をどれだけ伸ばせるかが、なにかと不安の多い老後の生活にとって、重要な要素といえるのでしょう。
(提供:フィデリティ投信)