シンカー:今後2年の米国の政治動向を予想するためにも、世界中の中間選挙への注目は高い。直近の世論調査を見ると、議会下院では民主党優勢が伝えられる一方で、上院は共和党が過半数を維持するとの見方がコンセンサスのようだ。しかし、ここに来て、共和党支持が拡大しているなど、選挙結果を予想できない状態が続いている。一方、経済パフォーマンスは一部のデータでは弱さが見え始めているが、グローバルに中央銀行が金融緩和政策の巻き戻しを継続するのに十分な力強さを維持しているようだ。今週金曜日のFOMCでは政策の現状維持が決定され、発表文に大幅な修正は無いだろう。10月の米雇用統計では、引き続き、米国の労働市場がタイト化していることが確認され、米国経済の景気拡大モメンタムは残っていることが確認された。ただ、労働市場がタイト化しても、インフレが大幅に加速する兆候は見られない。また、一部の国ではインフレが一時的に減速していることも確認されている。中央銀行はインフレが加速しない中、現在の景気拡大局面をできるだけ長期化させ、急激な利上げによる景気減速を避けるためにも、緩やかな利上げを続けていきたいようだ。ただ、景気拡大が長期化するにつれ、インフレ加速圧力は強まることになるだろう。今後、インフレが加速し始め、中央銀行のターゲットを上回り始めた時に中央銀行関係者の利上げに対する見方がどう変わってくるかが注目だろう

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●米国経済(11/1)インフレ過熱見通しへの反論

FRBのリチャード・クラリダ副総裁は先週の講演で、同氏自身の目標(弊社推定では3.0%)を超える利上げを提唱するようになるには、実績、期待ともにインフレ率が持続的に上昇することが必要、という考えを示した。クラリダ氏は、インフレ率が足元の水準付近に留まる可能性がある理由を数点述べると共に、期待インフレは(今後の)インフレ過熱を意味する水準ではないと示唆した。今回のレポートで、クラリダ氏の主張の一部を検討したい。弊社も、(関税の影響を除く)基調的なインフレがFRB目標の2.0%を十分に上回り、FFレートを引締め的な領域に引上げることが正当化されることは無い、という見方に同意する。また「FRBが、2019年6月にFFレートの誘導目標(上限)が3.0%に達した時点で利上げを休止する」という見通しも継続する。

●英国経済(11/2):BoEがタカ派色をわずかに強める

英国BOEのMPC(金融政策委員会)は、全会一致で政策金利据え置きを決定した。一方で、限定的かつ緩やかな引締めを追求する意向だと繰り返した。GDP成長率の予測は、2018年第3四半期(Q3)の力強さを反映して少し上方修正された。MPCは、GDPギャップが現在は解消したと述べている。ただ、8月インフレ報告の予測表で、(「非常に小さいスラックがある」という文言付きだったが)それは既に示されていた。それより納得できるのは、MPCが、労働市場はついにインフレ圧力の源泉となり始めた、という見方を強めていることだ。もしブレグジット(を巡る問題)が無ければ、BOEは直ちに利上げを実施していると、弊社は考えている。

マクロ経済予測は見込み通り大きく変更されたが、その作業は秋季財政報告が明らかになる前に完了していた。このため他の条件が同じならば、次回には(秋季財政報告に含まれた)景気刺激策を反映して、GDP成長率予測の引上げが見込まれる。だが、その時(来年2月)までにはブレグジット交渉の行方がかなり見えているはずで、予測にも大きく影響するだろう。

ブレグジットは依然として全てのものに影響しており、記者会見でも交渉が不成立(ノーディール)に終わった場合に考えられる政策対応について、質問が相次いだ。カーニー総裁の答えは長く曖昧なものだったが、それに関係無く弊社は、「ノーディールの場合は需要が壊滅的に減少、それに対応して緩和策が採られる」という(強く確信している)見方を継続する。

●豪州経済(11/5):RBA予測に発射台効果が生じるが、下方リスクが増えた

豪州GDP成長率のRBA(豪準備銀行)予測は、すでに(各種の予測の中で)最も強気だが、第2四半期(Q2)が予想外に力強くQ3も堅調さが続いた兆しが出ているため、さらに押上げられる見込みだ。だが、2018年末(Q4や2018年通年)よりも後の予測は変わらないとみられる(貿易を巡る緊張の高まりや、欧州の景気減速が背景)。同様に、豪州の失業率も見込みより遥かに急速に低下してきた。しかし、中期的な下方リスク要因の増加や、インフレが再び減速していることから、RBAは、しばらく政策を据え置くというシグナルを出すとみられる。

●債券市場(11/5):「大局」を読む

債券市場の弱気派にとって10月は試練の時だった。株式相場の大幅な調整や、グローバルな製造業調査結果の悪化、そしてユーロ圏の国内総生産(GDP)の物足りない数字は、債券投資家がショート・ポジションをカバーする理由となった。ファンダメンタルズの悪化はやがて、弊社の金利見通しに影響を及ぼしてくる可能性もある。しかし、全体を見渡して大局を読めば、経済パフォーマンスは中央銀行が金融緩和政策の巻き戻しを継続するのに十分な力強さを維持している。加えて、市場の取引が減少する12月を前に、発行体が資金調達を急ぐことから、11月中は債券の供給圧力が強まってくるはずだ。米国の金利は引き続きレンジ内で推移するとみられる一方、ユーロ圏では金利上昇の方向に流れが向かっている。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司