「将来子どもを海外の医学部に留学させたい」と考えている医師は、少なくないでしょう。とはいえ、世界中に何千とある医学部の中から志望校を決めるのは簡単ではありませんし、学費も気になるところです。そこで教育水準で高評価を受けている欧米の医学部とともに、各国の医学部の特徴や学費などをご紹介します。

米国--エリート医学部多数、学費の高さが難点?

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(写真=Africa Studio/Shutterstock.com)

エリート大学がずらりと肩を並べる米国。英国の大学評価機関クアクアレリ・シモンズが毎年発表する「QS世界の医学部ランキング500」でトップ10に選ばれているのは6校で、ハーバード大学、スタンフォード大学、ジョンズ・ホプキンズ大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、マサチューセッツ工科大学、イェール大学です。このランキングは、各校の学術関係者・雇用者からの評判、論文の引用数などを評価したものです。

米国は世界的にもレベルの高い医学部が多いですが、高額な学費が難点です。USニュースの調査によると、私立メディカルスクール52校の2017~2018年の学費及び手数料は平均5.5万ドル(約624万円)。

米国のメディカルスクールは4年制なので、単純に計算して22万ドル(約2,488万円)必要です。ハーバード大学医学大学院は全日制で年間6.0万ドル(約678万円)、スタンフォード大学医学部は5.6万ドル(約635万円)。学費が手頃とされるウェストバージニア・オステオパシー医科大学でも、留学生は年間5.3万ドル(約601万円)を支払わなければなりません。

注意しておきたいのは、米国のメディカルスクールは日本の医学大学院にあたるので、4年制の大学で大学学士号を取得し、MCAT(Medical College Admission Test)と呼ばれる医学大学入学テストにパスしなくてはなりません。つまり、4年分の大学の費用も別途必要ということです。さらにメディカルスクール卒業後は、3~7年をトレーニングに費やすため、医師としてのキャリアをスタートするまでに10年以上かかるのも特徴です。

しかし「高額な学費が米国における医療ケアの成長の妨げになる」として、2018年から授業料を免除する奨学金制度を開始したニューヨーク大学医学部のような大学もあります。

米国は高額な学費と学習・トレーニング期間の長さにも関わらず、医学生に最も豊富なカリキュラムや医療分野での経験を積極的に提供している国を、世界中の消費者が評価した「医学を学ぶのにベストな国ランキング(投票サイト、ランカー)」では8位です。

英国--2020年から留学生の学費値上げ

英国は同QSランキングで、名門オックスフォード大学とケンブリッジ大学が2位、3位に輝きました。両校とも学士取得までに6年かかります。2019年度の留学生の学費はオックスフォード大学が3.7万ポンド(約550万円)、ケンブリッジ大学は5.3万ポンド(約781万円)。卒業までにそれぞれ22.2万ポンド(約3,297万円)、31.8万ポンド(約4,723万円)かかる計算です。

これまで英国政府が医学校の留学生にも提供していた臨床実習への公的資金が2020年以降打ち切られるため、留学生は4~6年生にかけて臨床実習費用を全額負担することになります。臨床実習費用は現時点で年間2万ポンド(約297万円)なので、これが上乗せされると学費はさらに上がってしまいます。

英国は、「医学を学ぶのにベストな国ランキング」では2位でした。

ドイツ--留学生でも学費が無料

「医学を学ぶのにベストな国ランキング」で1位のドイツには、有名な医学部がたくさんあります。英国のタイムズ・ハイヤー・エデュケーションが2018年に発表した「世界の大学ランキング」の欧州大陸医学部ベスト10で1位に輝いたルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンを筆頭に、ミュンヘン工科大学、フンボルト大学ベルリン、アーヘン工科大学の4校がトップ10にランクインしています。

世界トップレベルの医学に加え、学費が無料という点がドイツの医学部に留学する最大のメリットでしょう。ただしバーデン=ヴュルテンベルク州の大学に留学する場合、最初の学位は1学期につき1,500ユーロ、2個以上の学位は1学期650ユーロの学費を納めます。1年につき2学期しかないので、6年間で7,800~1万8,000ユーロ(約103~238万円)あれば医師免許を取得できます。

オランダ--教育だけではなく、生活環境にも恵まれている

オランダの大学は、国際的にも教育環境が高く評価されています。生活環境の良さを評価した数々のランキングでも上位の常連です。一人当たりのGDPは世界18位と日本よりも高く、経済的にも精神的にも恵まれた環境で医学を学べることが特徴です(国連2018年データ)。

「世界の大学ランキング」の欧州大陸医学部ベスト10にはアムステルダム大学、ライデン大学、ユトレヒト大学、エラスムス・ロッテルダム大学、フローニンゲン大学と、5校もランクインしています。

ドイツのように学費が無料というわけではありませんが、Bachelor’s in Medicine(医学学士)及びMaster's in Medicine(医学修士)を目指す非EU圏の留学生の2018~2019年の学費は年間2万~2万3,000ユーロ(約265万~304万円)。6年制なので、12万~13万8,000ユーロ(約1,587万~1,825万円)と、米国や英国よりも低めに設定されています。

入学資格として、オランダの学士号あるいは修士号を取得していることが求められるので、その分余裕をもって予算を算出しましょう。

スウェーデン、ベルギーの医学部も高評価

欧州圏は他にもスウェーデンのカロリンスカ研究所(別名カロリンスカ医科大学)や、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学など、レベルの高い医学部がたくさんあります。

研修期間も含め、医師としてのキャリアを始めるまでに欧州では6~7年、米国では10年ほどかかるそうです。医学部入学までの道のりも含め、「米国の医学部留学は難易度が高くお金もかかる」という印象ですが、それだけの努力は高額な給与でしっかりと報われるようです。(アレン琴子、英国在住のフリーライター / d.folio