「東京2020オリンピック・パラリンピック」開幕まで1000日を迎えたのを機に、東京の各地で「1000 Days to GO !」イベントが開催されました。それらがメディアで報道されたことを知っている人は多いでしょう。今後、日本全国において徐々に盛り上がりを感じることが多くなりそうですが、経済もその一つといえます。「五輪効果」という言葉があり、株価が上がるというアノマリー(裏付けのない現象・傾向)があるといわれています。これから過去の開催国を例にあげながら、日本の経済がどうなっていく可能性があるのか見ていきましょう。

東京2020オリンピック決定後の株式市場はどうだった?

景気
(画像=PIXTA)

まずは、過去の開催国株価を見る前に、東京2020オリンピックが決まった日の感動と、その後の東京株式市場のリアクションを思い出してみましょう。

東京2020オリンピックが決まったのは、2013年9月7日にブエノスアイレスで開かれたIOC総会でした。東京のほかにマドリード、イスタンブールが立候補しており、イスタンブールとの決選投票で日本が勝利したのは現地時間午後5時過ぎ。日本時間では9月8日(日)の早朝午前5時過ぎでした。東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員の滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」プレゼンテーションや、勝利後の歓喜と興奮を今でも鮮明に覚えている人も多いことでしょう。

事前予想ではイスラム圏初の開催となるイスタンブールが有利との見方が報道されていたことから、東京の勝利はサプライズとして、より一層、祝賀ムードを後押ししたといってもいいでしょう。週明け9日(月)の日経平均株価は、オリンピック開催が決まる前週末比344円(2.5%)高の1万4,141円と急騰しました。東証1部の売買代金も、それまで20日連続で活況の目安とされる2兆円を割っていましたが、当日の売買代金は2兆1,000億円まで膨らみました。

上げ相場を牽引したのは、特に建設や不動産セクターでした。首都圏での受注割合が高いゼネコン大手の大成建設は13%高となり、またオリンピック関連銘柄として、スポーツ関連商品、空運、電鉄、ホテル、広告、警備会社などの株も買われました。

オリンピック開催で株価が上がるというアノマリーは本当か?

オリンピックの経済波及効果は大きいといわれています。東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会は2013年、経済波及効果は2兆9,600億円で15万人の雇用を創出すると試算しました。さらに2017年3月、東京都のオリンピック・パラリンピック準備局が再試算した結果では、2013年からオリンピック後10年の2030年までの経済波及効果は、東京都で約20兆円、全国で約32兆円とされています。雇用創出数は東京都で約130万人、全国で約194万人と試算。インバウンド(訪日外国人旅行者)需要の増大も見込めるため、日本の景気に与える影響はより大きいことが予想されます。

とはいえ、「五輪効果」という言葉はあるものの、その予想は本当なのでしょうか。これまでのオリンピック開催国の株価でその影響を見てみましょう。

2000年開催のシドニーの場合、1993年の決定後から開催年までオーストラリア株は約8割も株価が上がりました。しかし、開催後は下げトレンドに転じています。

2004年開催のアテネの場合は、1997年の決定から1999年にかけて株価は急騰し約4倍になったものの、その後は2002年まで下げトレンドとなりました。これはオリンピックによる財政難が表面化したためといわれています。また、世界的なITバブルとITバブル崩壊の影響もあったと考えられています。

さらに2008年開催の北京の場合は、2001年の決定後から2005年まで、株価は次第に安くなって約半値になったあとに反発し、2006年から2007年にかけて底値から5倍に急騰しました。ただし、2007年をピークに開催年の2008年まで株価は大きく動いて3分の1になってしまいました。 これは中国の資源バブルとその崩壊の影響と見られています。

2012年開催のロンドンでは、2005年の決定後から2007年までは右肩上がりで約3割上げました。しかし、2008年から2009年にかけて急落。その後、オリンピック開催まで再び右肩上がりとなり、4割ほど株価を上げました。一時、株価は急落してしまいますが、主に2008年に起きたリーマンショックの影響と考えられています。

2016年開催のリオデジャネイロでは、2009年に決定後、2010年まで約2倍に急騰しますが、2010年後半をピークに開催年まで相場は次第に下がり、約4割下落しました。しかし、開催後に株価は反転しました。

オリンピック開催国決定から開催までは7年間あります。ここからアノマリーを抽出してみると、決定直後数ヵ月株価が上がるというアノマリーはやや通用しますが、必ずしも開催国の株価が右肩上がりになるというわけではないようです。

東京2020オリンピック・パラリンピックはどうなるといえるか?

2013年9月の開催決定後から、日経平均株価は2015年6月の2万952円までほぼ一貫して上がりました。上昇率は5割を超えたのです。もっともこの間、アベノミクスと日銀による異次元の金融緩和政策の影響も大きかったといえますが、2013年4月の大規模な金融緩和開始後のオリンピック誘致成功自体も、経済対策の一つと考えられます。しかしその後、2015年6月をピークに、2016年6月の1万4,864円まで株価は1年ほど上昇と下落を繰り返して調整します。そして再び上げに転じ、2017年11月に2万3,382円のバブル崩壊後の戻り高値更新まで株価は上昇しました。

この株式ラリーはシドニーやロンドン(リーマンショック期間以外)のようにオリンピックまで続くのでしょうか。それともアテネや北京、リオのように開催前に、上昇と下落を繰り返して調整になるのでしょうか。景気の良さを肌で感じられない私たちにとっては、「五輪効果」の恩恵を期待したいところです。

(提供:フィデリティ投信