シンカー:賃金上昇などを背景にサービス価格には引き続き上昇圧力がかかっているとみられる。一方で、冬のボーナスの増加などによる消費者心理の改善を背景に、2019年10月の消費税率引き上げ前の最後の年末商戦として、テレビや白物家電などの耐久消費財を中心にセールによる販促が行われたようだ。両者がバランスする形で、11月の消費者物価指数(除くエネルギーと生鮮食品)の前月比には変化はなかったとみられる。目先は消費者物価指数の上昇幅が順調に拡大していくことにはならないとみられる。エネルギー価格の下落の影響が本格的に現れ始め、携帯電話料金の引き下げや幼児教育無償化などのテクニカルな下落圧力が予想される。2019年には消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年同月比は1%前後の推移となり、加速感が無い状況がしばらく続く可能性が高い。テクニカルな下落圧力は、瞬間的に消費者物価指数を押し下げるが、家計の名目所得が拡大している中、実質所得の更なる増加となり、他の需要が増加し、一般物価の基調への影響は小さくなる。そして、マクロの需要超過の形が継続しているのであれば、特殊要因の影響が剥げ落ちた翌年に、前年比の物価上昇率は大きく跳ね上がることになろう。2019年は賃金上昇が強くなる中で物価が伸び悩むことで、実質所得の増加通じて、実質GDP成長率はマーケットの予想以上に強くなる可能性があると考える。特殊要因による変動とマクロ的な需給ギャップのプラスの状態の拡大が予想される2019年を経て、2020年の物価上昇率の基調(除く消費税)は前年比+1.5%に到達すると予想する。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

11月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.9%と、10月の同+1.0%から上昇幅が縮小した。

季節調整済前月比は0.0%となり、5ヶ月連続のプラスの後、上昇が止まった。

これまで上昇してきたエネルギー価格が、原油価格の下落などにより、11月からピークアウトがみられることが理由だろう。

11月のコアコア消費者物価指数(除くエネルギーと生鮮食品)も前年同月比+0.3%と、10月の同+0.4%から上昇幅が縮小した。

ただ、季節調整済前月比は0.0%となり、5ヶ月連続で下落は止まっている。

賃金上昇などを背景にサービス価格には引き続き上昇圧力がかかっているとみられる。

一方で、冬のボーナスの増加などによる消費者心理の改善を背景に、2019年10月の消費税率引き上げ前の最後の年末商戦として、テレビや白物家電などの耐久消費財を中心にセールによる販促が行われたようだ。

両者がバランスする形で、前月比には変化はなかったとみられる。

目先は消費者物価指数の上昇幅が順調に拡大していくことにはならないとみられる。

エネルギー価格の下落の影響が本格的に現れ始め、携帯電話料金の引き下げや幼児教育無償化などのテクニカルな下落圧力が予想される。

2019年にはコア消費者物価指数の前年同月比は1%前後の推移となり、加速感が無い状況がしばらく続く可能性が高い。

政府・日銀の2%の物価目標からは再び遠ざかるため、2%の物価安定の目標の実現は困難であり、その達成の後ずれは金融緩和策の副作用を大きくするため、緩和からの出口へのハードルを下げるため、日銀はより現実的な水準へ目標を修正する可能性があるという見方が増えるとみられる。

しかし、政府・日銀は二つの理由で、共同で設定した2%の物価目標を堅持すると考えられる。

一つ目は、テクニカルな下落圧力は、瞬間的に消費者物価指数を押し下げるが、家計の名目所得が拡大している中、実質所得の更なる増加となり、他の需要が増加し、一般物価の基調への影響は小さくなるからだ。

そして、マクロの需要超過の形が継続しているのであれば、特殊要因の影響が剥げ落ちた翌年に、前年比の物価上昇率は大きく跳ね上がることになろう。

天候不順で大きく押し上げられていた生鮮食品価格の下落が始まり、11月の総合消費者物価指数の前年同月比は+0.8%と、10月の同+1.4%から急低下した。

深刻な人手不足の企業はとうとう人材獲得のための賃金競争を始め、名目賃金上昇と物価の伸び悩みは、家計に実質所得が増加している安心感をもたらすであろう。

その安心感と大規模な経済対策が、2019年10月の消費税率引き上げの影響を大きく緩和することになろう。

2019年は賃金上昇が強くなる中で物価が伸び悩むことで、実質所得の増加通じて、実質GDP成長率はマーケットの予想以上に強くなる可能性があると考える。

特殊要因による変動とマクロ的な需給ギャップのプラスの状態の拡大が予想される2019年を経て、2020年の物価上昇率の基調(除く消費税)は前年比+1.5%に到達すると予想する。

二つ目は、2%の物価目標はグローバル・スタンダードであり、その達成のため、円安誘導ではなく、内需を拡大させるための国内要因として日銀は大規模な金融緩和を続けていると、日本政府は貿易赤字を問題視する米国を説得する必要に迫られているからだ。

2%の物価目標を達成できるほどに内需が拡大すれば、外国の商品・サービスの輸入は増加し、円安は金融緩和ではなく国際経常黒字が縮小したことが理由であると主張することができる。

物価目標をより現実的な水準に引き下げれば、日銀が為替目的のために大規模な金融緩和を続けているとの批判を受けるリスクがある。

その結果としての円高への転換は逆風となるため、2%の物価目標を引き下げる政策オプションはほとんどなくなったと考えられる。

来年の大阪で開催されるG20では、経常収支の不均衡が大きな議題となる可能性が高くなっている。

経常黒字の大きい議長国として、内需拡大へのコミットメントを強くしなければならないため、金融緩和の継続は内需拡大のためであるという2%の物価目標の「鉄板」ロジックに穴が開くようなリスクはとれなくなっている。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司