シンカー: マーケットでは、グローバルな景気減速は引き続き意識されているものの、深い景気後退が今すぐにも訪れるという警戒感は薄れてきているようだ。一方、グローバルな政治不安は引き続き強い。政治の不安定感は、景気減速時に経済対策が実施できないことへの不安となって、マーケットのボラティリティーを拡大させる原因となる。選挙が絡むと、政策事情はより複雑になる。米国の景気減速が強くなってきた場合、来年に大統領選挙を抱えるトランプ大統領は財政拡大による景気下支えを模索するだろう。一般的には、ねじれ議会であるため、経済対策の実行が危ぶまれるという解釈となる。しかし、トランプ大統領は実現の成否にかかわらず大規模な経済対策を提案するとみられる。実施できれば景気が下支えされ、大統領選挙を有利に進めることができる。実施できず、景気が腰折れた場合、経済対策を拒否した民主党にその責任を転嫁することができる。その責任転嫁を回避するため、民主党は、景気拡大を加速させるには不十分だが、景気後退を回避するには十分な経済対策に同意する可能性もあるだろう。政策事情がより複雑であれば、マーケットのボラティリティーがやはり抑制できず、政治不安はマーケットの足かせとなるのだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●欧州経済(1/25):ECB理事会:タカ派は引続き穏健なシナリオを望む

24日のECB理事会は、解決策の発見ではなく、景気の現状(立ち位置)とその理由の評価に充てられた。ドラギ総裁は、景気見通しに関して引続きわりと楽観的だったが、景気拡大に関するリスクが下方に動いたことは認めていた。ECB理事会はこのため、足元の景気減速の持続性と、発生する可能性がある景気予測や政策に対するインプリケーションを評価するために、より長い時間を使うとみられる。ドラギ総裁も、ユーロ圏がリセッション入りするリスクは低いと述べながら、政策当局の中に2通りのグループがあると明らかにした。つまり、比較的穏健なシナリオ(※)を見込むグループ(※…中国の景気減速は解決されつつあり、貿易紛争は今後弱まり、ブレグジットのユーロ圏に対するインプリケーションも小さくなる)の一方で、景気減速はすでに長引いておりリスクも依然として高いとみている、別のグループも存在するという。驚くべきことにドラギ総裁は、信用拡大や投資に関するリスクを、過度に懸念していなかったようで、TLTRO(的を絞った長期資金供給オペ)が分断を緩和する上で非常に有効だったこと、および信用基準のタイト化は主にイタリアで発生していることを示した。ドラギ氏はまた、担当委員会で流動性に関する施策を検討しているのかどうかを、明らかにしなかった(早まった市場見込みの形成を恐れたとみられる)。弊社も、景気減速の長期化が決定したわけではなく、ユーロ圏景気のファンダメンタルズは基本的に良好であることには同意したい。だが、産業部門が弱く内需にリスクがあることで、ECBが流動性支援策の実施や、金利フォワードガイダンスの変更(利上げ時期を遅らせると示す)を強いられる可能性があることも認識している。なおTLTROの詳細デザインが難しくなる可能性があり、3月に(実施を)発表した後に、テクニカルな詳細を4月に示すことが必要になるかも知れない。

●欧州経済(1/24):ブレグジット:期日延期に関するFAQ…EUの視点から

ブレグジットの期日が近づく中で、EU基本条約50条(が定めるEU離脱の期日)の延期に関する、EUの視点からみた主な疑問点を検討したい。弊社のみたところ、延期が要請される可能性がますます高くなっている。延期の長さは理由しだいになるとみられる。ブレグジットに関して弊社が想定する基本シナリオは(参照)、現在の離脱協定が(小幅修正で)結局は承認されるというものだ。この場合EUは小幅(最長で3カ月)延期を認めると見込まれる。それよりも長い延期には、英国政府の明確な戦略変更(2回目の国民投票など)が必要になろう。

●英国経済(1/23):ブレグジットを巡る混乱で、利上げは11月に

英国議会はブレグジットの望ましい形を巡る議論が行き詰まっており、ブレグジットは少なくとも数カ月遅れると見込まれる。不確実性が高まることで英国景気の勢いがさらに弱まり、BOEも次回利上げを(弊社従来見込みの5月ではなく)11月まで遅らせるだろう。また5月利上げを見送ることで、遠くない時期に見込まれる米国リセッション(弊社では2020年前半に発生すると予測している)の初期兆候により英国経済がさらに弱まるにつれて、結局はBOEが追加利上げを全く行わない、というリスクも生じる。

●中国経済(1/22):6.5%を下回る成長率が今後は新常態に

中国の2018年第4四半期GDP成長率は6.4%と確認された。これは約10年で最低の水準となる。インフラ投資回復では不動産、輸出、個人消費の弱さを補い切れなかった。低調さは製造業のほかサービス業にも広がっていた。一連の流動性・信用緩和策が信用創造を助け始めているが、信用需要は依然低調で、信用サイクルの決定的な転換点が来たと言うには早過ぎる。中国の2018年第4四半期GDP成長率は6.4%と確認された。これは約10年で最低の水準となる。インフラ投資回復では不動産、輸出、個人消費の弱さを補い切れなかった。低調さは製造業のほかサービス業にも広がっていた。一連の流動性・信用緩和策が信用創造を助け始めているが、信用需要は依然低調で、信用サイクルの決定的な転換点が来たと言うには早過ぎる。

景気見通しは依然として不透明だ。不動産サイクルは明らかに反転しており、米国の関税によるダメージも明確化し始めている。政策担当者は、流動性緩和、目標を定めた信用支援、減税といった、より伝統的な緩和策を約束してきた。景気減速深刻化の回避に最も強力なツールは、依然としてインフラ投資だ。だが以前と同じく、政府はそれに全力を注ぐことを躊躇している、というのが弊社の実感だ。住宅投資の勢いがさらに失われ、労働市場もますます弱くなるならば、政策担当者は、政府の影の債務に対する制限緩和を余儀なくされるだろう。政策当局がビッグバン的な刺激策を避けているため、中国の景気拡大は、今後数カ月は引続き抑制圧力を受け、今年後半がボトムになると見込まれる。このため弊社は、今後は6.5%を下回るGDP成長率が常態となるとみている。また、中国政府がこうした新しい現実を受入れて、2019年GDP成長率目標を6-6.5%に引下げることも、ほぼ確実だと考えている。

●債券市場(1/28):おじけづくな

英国の欧州連合(EU)離脱や貿易交渉をめぐる不透明感の高まりを背景に、世界のセントラルバンカーたちは慎重な姿勢に転じようとしている。米国政府機関の一部閉鎖は本稿執筆時点で5週目に突入しており、不透明感の解消にはほど遠い。米国10年国債の利回りは2.70%に接近し、ドイツ10年国債の利回りも再び0.20%を下回ってきた。債券相場は現在、ファンダメンタルズと比べて割高になっている。アウトライトのロング・ポジションにキャリー収益はほとんど見込めないため、現在の水準では債券市場に対して中立的なスタンスで臨むことにしたい。米国債やドイツ国債の入札で需要が弱いことは、投資家の債券需要の乏しさを裏付けている。グローバルな不透明感が債券利回りを抑制するとみられる一方、スワップションを活用したコンディショナル・トレードで将来の利回り上昇に備え、ユーロ圏周縁国にキャリー収益確保の機会を求めていくことを推奨する。

●アセットアロケーション(1/28):早めに警告が到来

2018年末にかけての金融市場のボラティリティを受け、投資家はアクティブにポートフォリオのリスク水準を適応させた。株式や一部のクレジットセグメントなどのリスク資産は史上最大の純資金流出に見舞われた。それがいかにショッキングに聞こえるとしても、いつものように価格効果が勝ったため、それらの資金流出は全体的なファンド資産減少の要因のごく一部に過ぎない。この後退にもかかわらず、資金流出入の急速な正常化から判断する限り、投資家の選好が抜本的に変化したようには見えない。2018年最後の3ヵ月間に、全株式ファンドの合計運用資産額はピークからボトムまでで1.75兆ドル(15.4%)減少した。これは2008年以降で最大の減少である。しかし、2018年12月26日に底打ちして以降、市場のパフォーマンス改善と共に全株式ファンドの合計運用資産額は6.3%増加している。下左図の赤線の上昇が示す通り資金流出入も正常化しつつあり、最近の資金流出の劇的さを和らげるのに寄与している。運用資産額との比較でみると、最近の資金流出のインパクトははるかに小さく見える。

米国株のフローは年末の混乱で特に大きな打撃を受けた一方、日本株および新興市場株ファンドは純資金流入を維持した(英語レポートの20ページ参照)。グローバルセクターの中では、素材セクターが純資金流入、テクノロジーセクターが大幅な純資金流出となった(33ページ)。株式スタイルの中では、欧州のグロースの資金流出入に変化はなかった一方、米国のグロースは大幅流出となった(37ページ)。サイズに関しては、正常化後のファンドフロー分析(42ページ)に基づくと、大型株ファンドは資金流出が中小型株よりも小幅にとどまった。ここ数四半期にわたり、弊社の市場予想は比較的慎重な部類に属していたため(MAP, BIG PICTURE)、2018年末の市場調整に驚いたとは言えない。今後の見通しとしては、1Qの上値余地は限定的とみる一方、リセッションの接近によって弊社の2019年末のターゲット(S&P 500は2,400)には暗雲が立ち込めている。この点についてさらに詳しくはEQUITY STRATEGY SPECIAL - RECESSION SURVIVAL KIT (24 JANUARY 2018)を参照されたい

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司