シンカー:グローバルな政治不安が続き、マーケットの変動はファンダメンタルズ対比で大きくなりやすい状況が続いている。マーケットの変動は、政府・中央銀行にある程度の景気・マーケットの過熱を許容させているようだ。名目長期金利(抑制する力)を名目GDP成長率(膨張する力)以下に長期間抑制するとともに、インフレ期待の上昇で実質長期金利(名目長期金利-期待インフレ率)は更に低下し、マーケットの期待に働きかけ、株式市場と企業活動が刺激される形は当分の間続きそうだ。長期実質金利が大幅に抑制された状態が続くと、インフレに弱い資産から強い資産への資金シフトが起こり、リスクマネーの拡大が促され、リスク資産価格の更なる上昇につながる。 ここ数年、政治不安などでマーケットが大きく下落した後の復元力となったのも、このリフレの力である。この復元力を見過ごさずに利用し、マーケットの変動を乗り越えることが重要である。
グローバル・レポートの要約
●欧州経済(2/12):欧州議会選挙:リスクでもあり、良い機会でもある
欧州議会選挙(5月23-26日)まで4カ月を切った中で、それにより発生する可能性がある政治的な課題に、今回は注目したい。ポピュリストの波が話題に上っているが、現時点の世論調査によると、反エスタブリッシュ政党の支持は小幅増加に留まる見込みで、EUレベルで勢力を得られない可能性がある。興味深いことに、EU統合派の政治会派が議席シェアを増やす可能性が十分にある。こうした会派がキングメーカーになると見込まれ、政治的力学の重心はEU深化の方向に移るとみられる。このため、EU統合の進展という意味で2018年はプラスとマイナスが入り混じる結果となり、2019年はほとんど進展しない可能性が非常に高いが、2020年とそれ以降には新しいモメンタムが出てくるとみられる。
●欧州経済(2/7):イタリア:2019年成長率は、潜在成長率を下回る見通し
弊社はイタリアの2019年(通年)GDP成長率予測を、先週発表された2018年第4四半期(Q4)のGDPが低調だったことを受けて、従来の0.7%から0.5%に下方修正する。これは、通年のGDP成長率が2014年以降で初めて潜在成長率(弊社推定では0.7%)を下回ることを意味する。ただ弊社は、今後数四半期で景気が回復するともみている。とはいえこの(通年予測の下方修正の)結果、最終的には、2019年財政赤字が政府目標のGDP比2.04%から大きく逸脱(弊社予測は同2.7%)、政府債務のGDP比も引続き上昇して、来年春に欧州委員会からの圧力が再びかかる可能性が高まると見込まれる。
●債券市場(2/12):成否の分かれ目?
貿易協議の高まる不透明感や世界経済統計の悪化に反応して、投資家は安全性の高い債券市場に殺到した。グローバルな経済成長率予測が大幅に下方修正され、インフレが手に負えないほど進行するリスクもないことから、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を当分据え置くとみられる。最近の米サプライマネジメント協会(ISM)の企業景況感サーベイや雇用統計が証明したように、米国の経済データは総じて堅調に推移しているが、FRBの慎重な金融政策運営が債券利回りを狭いレンジに押しとどめるだろう。こうした状況に鑑み、イールドカーブのスティープ化を想定したアウトライトのポジションや、ベア・スティープナーによるコンディショナル・ポジションを保持していくことを推奨する。ドル金利のスワップ・スプレッドは短期的に縮小傾向を維持する可能性が高い。そこで、以下の分析では、スプレッドを左右するテクニカル要因のいくつかを取り上げて論じる。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司