IPO(新規株式公開)で最も多い売り方が「初値売り」だ。IPOを語る場合、多くが初値売りを前提としているといってもよいだろう。初値売りは高い確率で利益を確定できるのが魅力だが、果たしてそこに死角はないのだろうか。
「初値売り」——最もシンプルなIPOの売却方法
IPOで最も多い売り方が「初値売り」だ。IPOを語る場合、多くが初値売りを前提としているといってもよいだろう。
「初値売り」は、その名の通り上場後に始めて付いた株価(初値)で売却することを指しており、IPOの募集価格と初値との差が損益となる。IPOでの騰落率を測る際も、原則は募集価格と初値の差がものさしとなる。
初値売りの方法はシンプルだ。IPOで当選した株式を上場日の寄付前に「成行」で売却注文する。証券会社のシステムによって異なるが、多くの場合、上場当日の早朝から注文を出すことが可能である。初値が決まるには、成行での注文が全て成立する必要があるため、成行での注文を出しておくことで、初値売りが可能となる。
2018年は勝率約9割——「初値売り」のパフォーマンスがよい理由とは?
IPOが「初値売り」とセットで語られる理由は、その勝率の高さにある。2018年には東証1部、2部、マザーズ、ジャスダックを合わせて89社のIPOがあった。その内、初値が募集価格を上回った案件は79社に上る。初値売りを行った場合の勝率は9割に迫る。
過去の経験則によれば、IPOは初値売りを行うことで高い確率で利益確定できる。その理由を主に2つの観点から説明していこう。
需要と供給の不均衡が株価を吊り上げる
株価は需要と供給のバランスで決まるという大原則がある。IPOでは供給が新規公開株式数に限定されている一方、需要面では、その銘柄や業績への期待感を持つ投資家をIPO自体のプロモーション効果が引き寄せるという側面がある。
IPOの当選(発行市場)を逃した投資家は、市場(流通市場)で購入することとなる。プロモーション効果によって需要が喚起される一方、供給面では株式数が限定されているという需要と供給の不均衡が株価を吊り上げるのだ。
IPO市場の活況にさらに投資家が集まる
IPOでは、上場後の数日間は売買株式数が非常に多い状況となる。これは、上場前からの株主やIPOで当選した人が売却に走る一方、注目企業をセカンダリー市場(流通市場)で購入しようという投資家が積極的に取引を行うためだ。
活発な売買が行われることで、1日の値幅も大きくなり、短期の利ざやを狙う個人投資家もIPOの市場に集まってくることとなる。この短期の利ざやを狙う個人投資家の需要も巻き込みながら、初値が形成されていくのだ。
IPOのセカンダリー市場を読むのは至難の業
IPOにおいて初値売りが推奨される理由は、勝率の高さだけではない。IPO銘柄のセカンダリー市場を予想することは非常に難しいといった理由もある。
IPO銘柄のセカンダリー市場では、多くの投資家の思惑が重なり合い、非常に複雑な値動きをする。株価が思惑で動くため、極端な乱高下を繰り返す銘柄も多く、その値動きに理論的な説明を行うことは非常に困難だ。
業績や投資指標による適正価格も参考にならず、セカンダリー市場はマネーゲームと化すケースが多い。中には、初値を天井に、その後は右肩下がりとなる銘柄もある。
2018年の巨大IPO「ソフトバンク <9434> 」の場合、公募価格1,500円に対し、初値は1,463円を付けた。初値売りを行った場合、2%超の損失となる。ただ、2018年12月19日の上場から2ヶ月を経過した2019年2月末の終値は1,390円と初値を更に下回る。それどころか、初値である1,463円をザラ場でも一度も越えていない。ちなみにザラ場は、その日最初の売買から最終の売買の間の取引を言うため、日中の売買でも初値を超えることがなかったということになる。つまり、初値売りで損失を確定させた投資家が、今の所、一番の勝ち組だったといえるのだ。
このように、読めないセカンダリー市場というリスクを考慮すれば、勝率の高い初値売りで売却をしてしまうのが得策であるという考え方は、十分理に適っているといえるだろう。
IPOの初値売りも万能ではない
2018年には勝率9割近くを誇った初値売りであるが、裏を返すと、残り1割の案件では、初値が募集価格を下回ったこととなる。2018年では、TOKYO PRO Marketへの上場を除く89社のIPOの内、9案件が公募価格割れとなった。
IPOといえども株式投資であり、リスクが存在するという点を改めて認識しておきたい。
公募価格割れとなるIPOとは、初値形成時の需要と供給のバランスが供給側に偏ってしまっている銘柄を意味する。近年の傾向では、次のような銘柄には注意したい。
新規公開株式数が多い銘柄
純粋にIPO時点で供給数が多い案件である。プライマリー市場で購入できる投資家の数も多くなり、希少価値が付き辛く、初値の高騰は見込みにくい。東証1部へ直接上場する銘柄などに見られる。また、ベンチャーキャピタルが株式を大量保有しているなど、目に見える売り圧力が多い場合にも株価形成にはマイナスとなる。
事業内容に新鮮さがない、今後の成長が見込み辛い銘柄
将来展望を描き辛い銘柄であると、需要が集まらないケースもある。事業内容に新鮮味がない銘柄や、今後の急成長が見込みづらい市場の銘柄等が該当する。新規公開に夢を描く投資家は多く、それが描けない銘柄には市場の評価も高まらない。
直近決算が赤字である銘柄
企業の本質はいかに利益を生み出すかである。決算内容が悪い会社の需要は必然的に少なくなる。IPO市場では、赤字決算で上場する企業もある。もちろん、将来展望が見えており、黒字化のビジョンに投資家が納得している銘柄には需要が集まるが、投資家を納得させるビジョンを描けない場合、市場の評価は厳しいものとなる。
投資は購入から売却までで1つのサイクルとなる。IPOにおいても、銘柄選定から、その売り方まで、リスクを十分考慮しながら投資を行う姿勢が重要だ。
文・MONEY TIMES編集部/MONEY TIMES
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