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(画像=『sio』オーナーシェフ・⿃⽻周作さん)

2018年7⽉20⽇。代々⽊上原のフレンチレストラン『Gris(グリ)』のシェフを務めた⿃⽻周作シェフが、新たなレストラン『sio(シオ)』をオープンした。以前、Foodist Mediaで取材させてもらったときに、「働き方の提案も含めた新しい店を作る」という展望を語っていたが、その店がいよいよ始動するらしい。旧来の徒弟制度を廃し、鳥羽シェフ自身は他の仕事から収入を得る。その分、店の利益をスタッフの給料に還元するという新たなチャレンジだ。

もう一つの特徴は、『シオ』に賛同したクリエイターとコラボする「共創型レストラン」ということ。例えば、店のロゴは「くまモン」のデザインを手がけた水野学さん。テーブルウェアは、醤油差しから鉄道⾞輌まで幅広いデザインを手掛ける鈴⽊啓太さん。店内の選曲は、⾳楽で空間の価値を変えるサウンド・ブランディングの第⼀⼈者、沖野修也さんという豪華な顔ぶれ。そのほか多くのクリエイターや生産者とのコラボに力を入れているという。「これは行くしかない!」ということで今回は、オープンしたばかりの『シオ』を訪問。その全貌を明らかにしていきたい。

おまかせランチとティーペアリングを体験

『シオ』はランチ、ディナーともにおまかせコースのみ。価格はランチコースが5,800円、ディナーコース10,000 円から。フレンチとしては異色のティーペアリングもある。鳥羽シェフは「ウチで扱っているのは上質な台湾茶で、こんなに美味しいお茶はめったにない。繊細な味が料理の邪魔をしないのでアルコールペアリングよりもおすすめかもしれない」と話す。せっかくなのでランチコースとティーペアリングで予約を入れ、約束した日に店舗に訪れた。

1皿目「塩/トウモロコシ」

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(画像=「塩/トウモロコシ」。トウモロコシの旨みが引き立つ一品)

『シオ』の入り口は全面ガラス張りになっており、さんさんと陽光が差し込んできて明るい。だが夜は白熱灯が暖色に変わり、しっとりとムーディな雰囲気になるという。席に着くと、スタッフからおしぼりが手渡される。「日本一のおしぼりを探してきました。手を拭くとツルツルになるんですよ」とスタッフがにっこり。どっしりと分厚くて長く、どちらかと言うとタオルである。とことん品質にこだわり抜いたものを選んだそうだ。

きょろきょろと店内を見渡す筆者の元に置かれた最初の一品は「塩/トウモロコシ」。北海道産の朝採れトウモロコシを湯がき、何度も漉(こ)しているそうだ。甘くて濃厚な味わいなので「バターや生クリームを入れているんですか?」と聞いてみたところ、塩と水とトウモロコシ、ほんの少しのオリーブオイルしか使っていないという。ぎゅっと詰まったトウモロコシの旨みを塩が引き立て、舌触りもなめらかでクリーミィー。鳥羽シェフ曰く「塩と水だけでこんなに美味しくできるのか! とビックリしてほしい」とのこと。その期待どおりに驚いてしまった。

ペアリングは、シャンパンに見立てて微発泡させたジャスミンティー。ライムシロップとオレンジピールのエキスを入れ、爽やかな味わいに。トウモロコシのゆで汁が入っているため、「塩/トウモロコシ」を口に含んだときの香りとリンクするのが面白い。

2皿目「馬肉/ビーツ/プラム」

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(画像=「馬肉/ビーツ/プラム」。見た目と味のギャップに驚く)

まるで苺タルトのような見た目だ。「早くもデザート?」と思って口にすると、なんと馬刺しだった。バターを染みこませたサクサクのラスクの上に、馬刺しとビーツが乗せられている。なるほど、これは前菜のカナッペなのか。上から振りかけられたパルミジャーノもビーツの赤色に染まって官能的な見た目になっている。同じ色合いの熟香ウーロンは、クランベリーとビーツのエキスをプラスしているそうだ。香ばしい中にもフルーツの甘酸っぱさが広がる。コース料理への期待感を高めてくれるペアリングだ。

3皿目「さば/りんご/ユーグレナ」

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(画像=「さば/りんご/ユーグレナ」。絶妙な組み合わせが楽しめる驚きの一品)

この料理、とっても説明が難しい。なにせ今まで見たことがないような組み合わせなのだ。主役は茨城県波崎の干物店、越田商店の鯖である。普通の干物に比べて脂がたっぷり乗っているのに、しっとりしていてプリッとした食感もあるのが特徴だ。その味を思い浮かべてパクッと食べると、「えっ! 甘い?」とビックリする。鯖の上にリンゴのコンフィチュールとパイが入っているのだ。鯖×アップルパイというまさかの組み合わせ。

最初に舌が感じるのは鯖の脂や塩っ気。それをマッシュポテトのピューレが優しく包んでワンクッション置く。続いてリコッタチーズのつなぎを経て、リンゴの甘さが口の中に広がる。パイのサクサク感も心地いい。最後に訪れるのはケールとゴーヤのさわやかさと苦さである。食感や味の方向性の異なるものを繊細に重ねていき、バランスのいい味の球体を作るのは鳥羽シェフの得意とするところ。「鯖の干物とアップルパイとゴーヤなんて! よくこの組み合わせを思いつきましたね」と話しかけると、鳥羽シェフは「いえいえ、普通に考えただけです」と照れ笑いした。きっと、鳥羽シェフの頭の中には無数の引き出しと天才的なひらめきがあるのだろう。

ペアリングは東方美人。青茶に分類されるウーロン茶の一種だが、発酵度が高く紅茶に近い。マスカットや蜜のような甘い香りが特徴で、口に入れた瞬間のインパクトが大きい。残り香が料理に入ったリンゴのコンフィチュールとよく合うと思った。