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(画像=「sio」。デザートは濃厚なアイス)

デザートは、塩かびのチーズに、練乳、牛乳を加えて作ったアイス。鳥羽シェフは「これはsioという名前のとおり、塩の使い方にこだわったデザート。僕はレストランに行っても、物足りないとアイスを食べてしまうんです。だからコース料理だけで満足してもらえるように、デザートは濃厚なアイスと決めていました」と話す。食事の締めにふさわしいさっぱりとした味で、土台の塩クランブルクッキーのさくさく感がアクセントになっていた。ディルやセルフィーヌのサラダも口の中に清涼感をもたらしてくれる。

食後は、コーヒーか紅茶を選べるので、ネパール側のヒマラヤ山からとれた茶葉を使った極東紅茶をセレクトした。紅茶の器もそうだが、『シオ』のグラスは全部、唇にあたる接地面がやさしい。薄張りのグラスは、歯が当たったら割れるのではないかと怖くなるが、これは厚すぎず薄すぎずちょうどいい。食器やカトラリーにも鳥羽シェフのこだわりが感じられた。

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(画像=ランチを始めた理由を聞くと……)

「応援したいと思ったら、クラウドファンディングだと思って店に来てほしい(笑)」

以上がランチのコースである。鳥羽シェフらしく、誰もが知っているシンプルな料理をプロの技で最大限に美味しくしたものと、誰もが思いつかない斬新な料理が代わる代わる出てくる。緩急のある流れで、食べる人を飽きさせない。ティーペアリングの組み合わせも非常に満足度が高かった。『グリ』の頃にはなかったランチコースを、どうして始めたのだろうか?

「『シオ』になってから、ディナーの値段は『グリ』の頃より上げています。そこは下げるつもりはないんです。うちのスタイルに価値を感じられない人に合わせてどんどん値段を下げていくと、料理人はいつまでも薄給で働かないといけません。それでは誰も幸せにならないですよね。僕らはクリエイターとして、0から1を生み出しています。その付加価値やセンスにお金を払うという新しい文化を作りたいんです。とはいえ、ディナーの値段が受け入れられない人を切り捨てるつもりはありません。『グリのころより値段が上がったから行けなくなった』という人や、『まずは手頃な値段でシオを体験してみたい』という人のために、土日祝日はランチを用意しています。夜は10皿で10,000円から。昼は6皿で5,800円とほぼ半額です。だからコスパがいいと思いますよ」

『シオ』はさまざまなクリエイターとコラボし、居心地の良い空間を提供しているが、今後ますますその動きは加速しそうだ。

「僕はシンプルに良いものを作る生産者やクリエイターとコラボして、その価値を広めていきたいんです。もちろん料理が美味しいというのが大前提ですけど、ここが気に入ったらまたお店に来てほしい。そうしたらそのお金で店内がますます上質になっていきます。例えば、次に来た時には、椅子がすごく豪華になって座り心地が良くなっているかもしれません。そしたらお客様も喜びますよね。だから応援したいと思ったら、クラウドファンディングだと思って店に来てほしいです(笑)」

これまでの飲食業界の慣習を打ち破り、次々と新しいことを仕掛ける鳥羽シェフ。その根底にあるのは、「思いやり」ではないかと感じる。安い給料で働く飲食店関係者の待遇を良くしたい。本当にいいものを作る生産者やクリエイターにスポットを当てたい。その上でお客様に価値を感じてもらうためにはどうすべきかを考え、動き続けている。その勇気と行動力に拍手を送りたい。『シオ』の登場は飲食業界にどんな影響を与えるのだろうか? 今後の展開が楽しみである。

⿃⽻周作(とば・しゅうさく)
1978 年5⽉5⽇⽣まれ。サッカー選⼿、⼩学校教員を経て、32 歳で料理の世界に⾶び込んだ異⾊の経歴の持ち主。『DIRITTO』『Florilage』『Ariadi Tacubo』などで研鑽を積み『Gris』のシェフに就任。2018年7⽉、オーナーシェフとして⾃⾝のすべてを出し尽くしたレストラン『sio』をオープン。

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(画像=『シオ』の外観)

『sio(シオ)』
住所/東京都渋⾕区上原 1-35-3
営業時間/18:00~24:00(ランチ12:00~15:00 ※⼟⽇祝のみ)
定休⽇/⽔曜 + 不定休
http://sio-yoyogiuehara.com/

(提供:Foodist Media

執筆者:三原明日香