シンカー: 主要国の中央銀行はインフレ期待が回復しないなか、緩和姿勢を長期化するスタンスを維持している。ただ、過度な緩和政策によるイールドカーブのフラット化や低金利環境の長期化など悪い副作用も意識され始めている。一方で、政治の世界でも米中貿易協議が進んだり、Brexitの延期など政治リスクは後退して、警戒感の後退は経済活動の活性化につながるだろう。過度な保護主義的な動きは弱まり始め、国際競争の加熱は各国の比較的優位な生産性の向上にもつながるだろう。生産性の向上はデフレ圧力となるが、同時に金融政策の中立金利も下がるため、中央銀行の引き締めを行う必要性は低下するだろう。その場合、低金利環境下でも経済に悪い副作用を和らげる政策はより検討されるが利上げなど金融政策の引き締め策は見送られることになるだろう。中央銀行のハト派的スタンスがインフレを回復させるための一時的な措置か生産性向上によるニューノーマルへのシフトなのかを見極める必要があるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●米中貿易協議

日曜日にムニューシン米財務長官は、米中貿易協議について米国が両国の合意に違反した場合は、中国からの反発を受け入れると発言した。以前から米国は合意内容の履行状況を検証する枠組みや、不履行の場合の措置の取り決めを強く求めていたが、今回、米国側からも履行へのコミットメントを示し、履行を相互的なものにすることで中国へ一定の譲歩をした形だ。一方、人民元安誘導に対する罰則の導入に関する議論や、関税を撤廃する時期についてなど、合意まではまだ距離があるものの、この発言から米国が中国との貿易戦争の解決を急いでいることがうかがえる。

一方で、トランプ大統領はEUからの110億ドルの輸入に対して関税を導入することを明らかにした。対する欧州委員会も関税措置の対象とする可能性のある、米国からの226億ドルの輸入品目リストを作成したと報じられている。米国とEUは航空機メーカーをめぐる補助金をめぐって14年前から対立を続けていたが、米中貿易協議で合意が近いとされる中、トランプ氏は次の矛先を欧州に向け始めたようだ。欧州委員会は17日に対象品目リストを公開し、意見を公募する可能性があるとしており、両者の摩擦は激化する可能性がある。IMFは今月発表した最新の経済見通しで、2019年後半に経済が再加速に向かうと見込んでいるが、要因の一つとして米中貿易摩擦の見通し改善がある。米国とEUの対立が今年の後半にかけて激化していけば成長回復に対する重しになる可能性が高い。

グローバル・レポートの要約

●英国(4/12):EU離脱の再延期…メイ首相の苦境が6カ月続く

EU27カ国は英国に対し、EU条約第50条に基づく離脱期限を、(英国首相が要請していた6月30日までではなく)最長で10月31日まで延長することを認めた。保守党内のハードブレグジット(強硬)派から首相辞任を要求する声が新しく出ているが、メイ首相はそれに逆らって進むと弊社はみている。ただそうした要求は、秋の保守党大会が近づくにつれて現在よりも遥かに厳しくなるだろう。弊社はまた、労働党との交渉は失敗に終わるという、自身の見方を再確認(継続)する。メイ首相はその後、何らかの形で複数の示唆的投票を実施するとみられるが、それが早期回復につながるかどうかは不明確だ。

離脱期限が延長されたことによる大きな影響として、英国が5月23日の欧州議会選挙に参加することが必要になる。これはブレグジットに投票(賛成)した有権者の不満を集める機会になる可能性がある。2014年には保守党がUKIP(英国独立党)と労働党に次ぐ3位となったが、それと似た結果になることも考えられる。5月2日の地方選挙も同様の結果になり得る。こうした(保守党が不振に終わる)結果は、メイ首相が国民の支持を失った追加の証拠として、党内強硬派が利用する可能性がある。彼ら(強硬派)は、首相が辞任すべきと主張するだろう。

ブレグジットを巡る混乱の解決が簡単でないことは、余りにも明確だ。10月17-18日のEU首脳会議で、離脱期限延長の再延長で合意する可能性も残る。さらに、問題が完全に処理不可能となれば、ノーディール(合意無き)ブレグジットも重大なリスクシナリオであり続ける。

●欧州経済(4/11):ECB理事会:総裁から新しい材料は出ず…市場はハト派的底流に注目

10日のECB政策理事会では見込み通りに、可能性がある政策の議論ではなく、主に経済状況の評価に時間が使われた。景気が弱まっていると認識されており、ドラギ総裁は、ECBには必要となればあらゆる手段を調節して順応する準備ができていると強調した。市場の反応はポジティブだったが、ECBから根本的に新しいものは全く示されなかった。TLTRO3がどこまで寛大になるのかは、今後数カ月の経済指標で決まり、6月か7月に発表されるだろう。またECBは、中銀預金金利がマイナスであることで生じうる悪影響を相殺するための策(政策金利の階層化など)を分析するだろう。だが弊社は、行動に移されるのは秋になると見込んでいる(秋には、金利フォワードガイダンスの再調整も必要になるとみられる)。ドラギ総裁は、インフレ期待が制御できなくなる大きなリスクがあるとはみていなかった。だが、インフレ期待が抑制されているのは「ECBにはツールが残されていない、またはECBは目標よりも低いインフレ率を受容する」という市場の認識を反映している可能性がある、ということは理解しており、その両方を否定していた。ドラギ総裁としては幸運なことに、経済指標がECBの追加の動きを要求する内容になる事態は、短期的には発生しないと弊社では見込んでいる。ECBの次のステップは、TLTRO3の詳細を6月に設定することになるだろう。

●米国経済(4/10): 3月CPIは、アパレルが全体を押下げる見込み

「INFLATION INSIGHTS」の第4弾となる本レポートでは、10日発表の米国CPI(消費者物価指数)で、算出方法の変更が「アパレル」サブ指数の重石になる可能性があると示す。弊社は最近、3月のアパレル・サブ指数上昇率の予測を大幅下方修正した(前月比-0.4%から-1.6%に)。この結果、3月CPIの弊社予測は「コア」の前月比上昇率(季節調整後)、原指数(季節調整前)、「総合」の前年同月比上昇率も引下げた(順に、前月比0.143%から0.097%、254.226から254.132、1.9%から1.8%に)。CPI上昇率の弊社予測の中でも、「総合」の前月比は0.4%で、「コア」の前年同月比は2.0%で、それぞれ据え置く

●債券市場(4/15): これまで以上にハト派的、さらに強まる割高感

中央銀行がより緩和的な政策スタンスを維持しているため、新規材料難で資金フローが一段と減少しても、比較的利回りの高い債券はこのところ割高化する傾向にある。こうした動きは、投資家がこれまで以上に激しい圧力にさらされていることを示すものだ。一部の地域で債券の割高感は記録的な水準に達しているが、それでも投資家はデュレーションの長期化やクレジット・エクスポージャーの積み増しを迫られている。パラダイムが変化するまで我々はこの動きに付き従う方針だが、その時期はまだずっと先になるのではないかと懸念している。

過去の翻訳レポートを弊社のリサーチサイト( https://insight.sgmarkets.com/#/page/japanese )に掲載しています。

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ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司