なぜ、人は数学ギライになるのか?その理由は2つあった!
最近、微分・積分に関する本がベストセラーになるなど、ビジネスパーソンの間で「数学」がブームになりつつある。しかし、学生時代につまずいたことなどから、数学に苦手意識のある人も多いのでは。数学的な考え方はビジネスの問題解決にも有用だと話す、東京大学教授・西成活裕氏に、ビジネスに役立つ数学的考え方について教えていただいた。(取材・構成=村上敬)
北野武監督は「数学」で映画を作る!?
子供の頃、「数学なんて勉強しても、大人になったら使わない」と思っていた人は多いでしょう。実際、社会人になってから数学を駆使している自覚があるのは、理工系のエンジニアくらいかもしれません。
しかし、大人になったら数学を使わないというのはウソ。自覚がないだけで、ビジネスパーソンの多くは普段の仕事で数学を使っています。
あるイベントで、北野武さんと対談したことがありました。そのとき武さんは、「映画を撮影・編集する作業は数学的だ」とおっしゃっていました。
これはどういうことか。たとえば食事のシーンが映画の中に何度も出てくるとします。すると、武さんは食事のシーンだけをまとめて撮ってしまう。「数学でいうと、これは因数分解」と言うのです。
因数分解とは、バラバラに見えるものから共通因子を取り出して、括弧でまとめること。様々なシーンの中から食事のシーンだけを抜き出してまとめるのは、たしかに因数分解です。まとめたものをばらすことを「展開」といいますが、撮ったシーンをバラバラにして編集するのは展開です。武さんは、それを自覚的にやっていました。
一方、武さんの助手の方は「自分は数学なんて使ってない」とおっしゃっていました。でも、よく聞いてみると、その方は表を使って武さんのスケジュールを上手に管理していたのです。じつは数学には「スケジュール理論」という体系立った理論があるのですが、助手の方のやり方は、まさにそれに則ったものでした。
このように、仕事の効率化を試みる人は、自覚的かどうかにかかわらず、頭の中で何らかの数学的操作をしているものです。「文系だから関係ない」というのは間違いで、数学は、実はとても身近な学問なのです。
一度でもごまかすと先に進めない学問
このように、数学は仕事を進めるうえで実用的な学問ですが、中学生くらいでつまずいて、苦手意識を持ってしまう人が少なくありません。厄介なのは、数学は「積み上げ式」で、どこかで一度つまずくと、その上に積み上げられないという点です。
例えば、日本史ならば、弥生時代に詳しくなくても、江戸時代や近現代に詳しくなることは可能です。また、英語も、単語が多少わからなくても長文を読むことはできます。しかし、数学は1カ所ごまかすと、もうその先がないのです。
先日、ある企業の社長が「我が社は投資をすると利益が下がる。反比例するんだ」とおっしゃっていました。でも、この表現は正確ではありません。投資するほど直線的に利益が減るのではあれば、「反比例」ではなく「負の正比例」が正解です。
たとえばパイの四角い生地があるとします。縦を伸ばせば、横は短くなる。これ縦と横の掛け算なので反比例です。一方、市場のシェアがライバルと50対50だったのに、向こうが60になったからこっちが40に、という関係は、直線なので負の正比例です。利益と投資の関係は、たぶん後者ですね。
これ自体は言葉の問題で、たいしたことではないのかもしれません。ただ、反比例と負の正比例の区別がつかない人は、その後の関数がチンプンカンプンだったはすです。きっとこの社長も、数学では苦労したのではないかなと思います。