はじめに

コールセンター
(画像=PIXTA)

近年、地方の主要都市では、旺盛なオフィス需要を背景に、まとまった空室を確保することが困難な状況が続いている。オフィス需要を押し上げている要因の1つに、活発なコールセンター(1)の拠点開設が挙げられる。図表1は、直近のコールセンターの拠点開設事例を整理したものである。札幌市では、2017年竣工の「札幌フコク生命越山ビル」に「ベルシステム24」や「マイナビコンタクトサービス」が、2018年竣工の「さっぽろ創世スクエア」には、「ネオキャリア」や「りらいあコミュケーション」、「トランスコスモス」がコールセンターを開設した。このように、地方都市では、交通利便性に優れ、設備が整った高機能ビルに、コールセンターを開設する事例が相次いでいる。

地方都市のオフィス市況を見通すにあたり、コールセンターの動向(新規拠点開設等)を把握する意義は大きいといえる。そこで、本稿では、コールセンター市場の現状と今後について概観した上で、オフィス市場に及ぼす影響について考えたい。

コールセンター
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)オペレーターが、電話やメール等の情報通信技術を用いて、販売商品やサービス等に関する問い合わせの対応や注文受付、勧誘等を行う事務所。

コールセンターの拠点展開の状況

コールセンターは、通信設備と人材が揃えば成立し、立地を問わない産業形態である。そのため、1990年代後半より安価な労働力を求めて、地方の広域中心都市やそれに準ずる都市に多くのコールセンター拠点が開設された(2)。

月刊コールセンタージャパン編集部「コールセンター立地状況調査」(3)によれば、地方都市におけるコールセンターの拠点数は、札幌市(81拠点)が最も多く、次いで、那覇市(62拠点)、福岡市(43拠点)、仙台市(41拠点)が多い(図表2)。札幌市は、2011年以降に開設された拠点数(27拠点)も最も多く、新規拠点の立ち上げも盛んであることが分かる。

月刊コールセンタージャパン編集部「2018年コールセンター実態調査」(以下、「コールセンター実態調査」)によれば、オペレーターの雇用形態が「すべて自社の正社員」である企業は12%にすぎず、「一部派遣社員・パートタイマー」である企業が58%、「すべて派遣社員・パートタイマー」である企業が15%を占めている(図表3)。コールセンターの運営は、パートタイマーや派遣社員等に依存している部分が大きい。

コールセンター
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、コールセンターの運用コストの内訳をみると、人件費が7割以上を占めており、コールセンターの経営において、なるべく低コストで、かつ効率よくオペレーターを確保することが重要な課題となっている(図表4)。

図表5は集積4都市(札幌市・那覇市・福岡市・仙台市)におけるコールセンター採用時給と有効求人倍率を示したものである。コールセンター採用時給を確認すると、集積4都市は全国平均値を下回っている。オペレーターの時給が相対的に廉価なこれらの都市に、コールセンターの拠点開設が進んだと思われる。

更に、有効求人倍率を確認すると、拠点数1位の札幌市は1.18、2位の那覇市は1.26と、全国平均(1.46)を大幅に下回っている。両市は人手確保の容易さという点で優位性がある都市といえよう。

コールセンター
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、地方自治体によるコールセンター誘致支援策も、拠点進出を後押ししている。コールセンターの進出は、地方自治体にとって、雇用創出や税収の増加等が期待できる。生産拠点の海外移転の流れを受けて、工場誘致を期待できなくなった地方自治体が、工場に変わる地域雇用創出の方策として、積極的にコールセンターの誘致に取り組んだ(4)との指摘もある。

コールセンターの集積が多い都市の支援策の内容をみると、設備投資やオフィス賃料に対する補助金や、雇用促進補助金(例:雇用者1人に対して50万円の補助金)等の拠点新設および増設を支援する助成を行っている自治体が多いようだ。加えて、スキルアップ研修などの教育支援や、地方税(事業税、不動産取得税、固定資産税等)の課税免除等まで手厚く支援を行っている自治体もみられる(図表6)。

コールセンター
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(2)鍬塚賢太郎「沖縄におけるコールセンター立地と知識の獲得」地理科学vol.63 no.3 pp.205~219、2008年
(3)東京都、京都府、大阪府、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県を除く40道県の自治体が調査対象。
(4)瀬古美穂「コールセンター~地方都市における新たなタイプの大型オフィス需要の行方~」住信基礎研究所Report、2008年1月22 日

コールセンター業務のアウトソーシングの状況

コールセンター業務の特徴の1つとして、「アウトソーサー(5)」等への業務委託が相当程度進んでいることが挙げられる。コールセンターの運用形態について、インフラおよび人材すべてを自社で調達し運営している企業(「完全インハウス」という)は4割未満で、6割の企業は何らかの形で「アウトソーサー」を活用している(図表7)。

また、4集積都市におけるコールセンター拠点のテナント業種内訳を確認すると、「アウトソーサー」の占める割合が、仙台市では約5割、札幌市と福岡市では約4割を占めており、「アウトソーサー」の存在感が大きいことが分かる(図表8)。

コールセンター
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2018年に実施された「コールセンター実態調査」によれば、「アウトソーサー」を活用する理由として、「自社採用だけでは必要な労働力が確保できない」(70%)との回答が最も多く、次いで「業務量の変動に柔軟に対応するため」(50%)や「人件費の削減」(37%)との回答が多かった(図表9)。昨今の労働需給の逼迫が、「アウトソーサー」への業務委託を加速させている模様だ。

また、コールセンターでは、パートタイマーや派遣社員などの有期雇用契約の就業者が多く働いているが、2012年の労働契約法改正と2015年の労働派遣法の改正に伴い、無期限の直接雇用への転換が求められている。そのことも「アウトソーサー」への業務委託の増加をもたらしている。

ミック経済研究所によれば、コールセンター業務のアウトソーシング(業務委託と派遣売上の合計)の市場規模は今後も拡大する見通しで、2017年度の8,080億円から2022年度には1兆200億円に達すると予測している(図表10)。

コールセンター
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(5)他社からコールセンター業務を受託し運営することを事業とする企業。