要旨
- 7月末のFOMCは想定ほどハト派的ではなかった議長会見が利下げ観測の後退を促したことでドル高材料となった。一方、翌1日のトランプ大統領による対中関税第4弾発動表明は世界的な株安を通じてリスクオフの円買いを発生させたうえ、米経済への先行き懸念を通じて利下げ観測を大きく復活させ、強い円高ドル安材料になった。
- 今後のドル円を考えるうえでも、米利下げと米中摩擦の動向が最大のカギになる。米中摩擦については、しばらく激化の方向に向う可能性が高い。そして、米中摩擦の高まりは米利下げ観測の上昇にも繋がる。FRBも景気下振れリスクの高まりを受けて、秋に「予防的利下げ第2弾」を実施するだろう。従って、当面秋にかけては米中摩擦に伴うリスクオフの円買い圧力と米利下げ観測によるドル売り圧力が生じやすいが、メインシナリオとしては、既に米利下げはかなり織り込まれているため、ドル円の下落余地は限定的(下値目処は105円程度)と見ている。その後、年末には米中摩擦が緩和に向うことが期待される。米中摩擦緩和を好感したリスクオンの円売りと、米利下げ観測後退に伴うドル買いが発生し、ドル円は一旦109円程度に持ち直すと予想している。
- ただし、上記シナリオの不確実性が高めであることも否めない。トランプ政権の通商政策は予見可能性が低いためだ。仮に米中摩擦がさらに激化したうえ改善の兆しも見えず、米経済への多大な悪影響が顕在化すれば、FRBは予防的利下げの枠を超えて、景気悪化に対応するための長期・段階的な利下げ路線にシフトすると考えられる。その際は、米利下げ観測のさらなる上昇によって、ドル円が1ドル100円割れを試す恐れすらある。
- なお、仮に急激な円高が進行した場合、日本側に止める手立てはない。トランプ政権によって為替介入は実質的に封じられている。日銀は追加緩和に動くものの、円安を促す効果は発揮されず、副作用を増大させるだけに終わることになるだろう。