周囲の目を気にしていては自分の人生を生きられない
しかし、現実には、自分の都合で有給休暇を取るのは気が引けるという人が多いのではないだろうか。
「世界の有給休暇消化率を見てみると、ブラジル、フランス、スペイン、香港は100%。イタリアや米国も70%以上。これに対し、日本は50%と極端に低くなっている。
有給休暇というのは労働者の権利なのだから、『ここは休もう』と決めたら、理由の如何にかかわらず、堂々と休んでいいはずなのである。それなのに休めないのは、皆が働いているときに休むのは良くないことと思い込んでいるからだ。さらに、『自分だけでなく、上司も同僚もそう思っているに違いない』と勝手に忖度して、身動きが取れなくなってしまっている。周囲にどう見られているかばかりを気にして、肝心の自分の人生を生きていない。そういうムラ社会のメンタリティを持った人が、日本の会社には実に多い。
自分の仕事を疎かにしたまま、『有給休暇は権利だから』と休みを取ったら、それは顰蹙も買うだろう。しかし、人一倍働き、ちゃんと結果も出しているという自負があるのなら、何も遠慮することはないはずだ。
それに、毎日出社して長い時間働いているが生産性の低い社員と、しっかり休んで高いパフォーマンスを発揮してくれる社員を比べたら、どちらを会社は高く評価するかは、火を見るより明らかではないか。
日本のホワイトカラーの仕事は定型業務と非定型業務が『霜降り肉状態』になっているので、『自分の仕事は終わった、あとはよろしく』と言いにくいところは確かにあるが、それでも、会社に居続けることが価値になると思ったら大間違いだ
先延ばしにすると人生が終わってしまう!
休日はゴロ寝か、せいぜいゴルフ。「これ以上休みが増えても暇を持て余すだけ」という声も意外に多い。大前氏は、どのように休日を過ごしているのだろう。
「私の場合、若い頃からダイビングやバイクツーリングのようにやりたいことがまずあって、それをやるための予定を先に入れてしまう。だから、暇を持て余すという感覚が私にはよくわからない。
仕事はもちろん大事だが、それよりも大事なのは自分の人生だ。会社のために身を粉にして働いたところで、会社が一生面倒を見てくれるわけではない。いまわの際に、『あれもできなかった』『これも叶わなかった』と後悔したくなければ、やりたいことを最優先してライフプランを立て、休日、夜、週末などはそのために使うことだ。
それから、『やりたいことは定年後の楽しみに取っておこう』などとは、ゆめゆめ思わないこと。私はこれまで1,000人を超える経営者と仕事をしてきたが、それができた人はまずいない。
よくあるのが、いつまでもずるずると会社にしがみついてエネルギーを使い果たし、引退した途端に急逝したり、そのまま老人ホームに直行したりするケース。また、ある人は現役時代、『引退後は瀬戸内の小さな村に夫婦で移住して、釣り三昧の毎日を送る』と夢を語っていて、実際、その通りにしたのだが、やってみると釣果を褒めてくれるのは妻だけで張り合いがないし、釣った魚を近所にお裾分けしても、周りは皆漁師だから誰もありがたがってくれないと、結局、すぐに釣りをやめてしまった。世界中を旅して珍しい景色を写真に収めるのが夢だと語っていた人もいたが、彼も、引退したら誰も写真を見に来てくれない現実に失望し、今では旅行に行ってもカメラは持たないそうだ。
ソニー創業者の盛田昭夫さんは、テニスでもダイビングでも、年齢に関係なく挑戦するバイタリティの持ち主だった。スキーも好きで、私が毎年オーストリアのアールベルクのレッヒに家族で滑りに行くという話をしたら、自分も行きたいと言い出した。そこで一緒に行くことにして、1年前から予約をしていたのだが、直前になって、『経団連からイタリア行きのミッションの団長を頼まれたのでキャンセルする』という連絡が入った。私なら、旅行の予定が先なのだから経団連のミッションなど即座に断っただろうが、盛田さんにはそれができなかったのである。そして、ほどなく盛田さんは脳卒中に襲われ、スキーもできないままあの世に行ってしまった。
つまり、やりたいことというのは、やりたいと思ったときが旬であって、そのときやらなければダメなのだ。理由をつけて先延ばししていたら、それをやる機会のないうちに人生が終わってしまうかもしれないし、歳を取ってからやっても、若いときと同じように楽しめるわけではないのである」