不動産投資のリスクを、実際に現場で起きている問題から学ぶ!

Kristo-Gothard Hunor / Shutterstock
(画像=Kristo-Gothard Hunor / Shutterstock)

不動産投資のトラブルは、ミクロで見るとさまざまな事情や状況で多岐にわたりますが、法的な結論はシンプルで、いくつかのポイントを抑えておけば、トラブル回避は充分に可能です。そこで、私たち弁護士が実際に相談を受けた案件から、よくあるトラブルをご紹介。なぜ問題が生じたのか、そしてどのように解決したのかをわかりやすく解説します。

身内がいない借主の孤独死と後処理はどうすればいい?

ヴェリタス・インベストメント
(画像=ヴェリタス・インベストメント)

山形県在住 福島さん(57歳、女性)からのご相談

数年前から銀行に預けていても金利が低いので、マンションに投資しています。いくつか不動産を所有しているのですが、1つの物件で先日、賃貸の借主の方が亡くなっていました。管理会社に事情を説明し、業者にお願いして清掃もしたのですが、亡くなってからの発見が遅れてしまったため、部屋の中はきつい異臭が漂っています。亡くなった原因は病死だったようです。借主の方は独身の60代で、数か月前から体調が悪かったらしく、最終的には仕事もできなくなって、亡くなった当時は所持金もほとんどなかったようです。しかも、緊急連絡先になっていた人も亡くなっていたようで、その他に身内の人もいないようです。

このような状況になってしまった場合、リフォーム費用や家賃が下がってしまうことに対する損害について、どうにかならないものでしょうか。何をしていいか、誰に相談していいかもわからず困っています。

よくあるトラブル(13)「孤独死と後処理」

これで解決!

自然死が起きた場合、人が居住地で死亡することは避けられないことなので、仮に遺体発見までに時間がかかり、そのせいで次の募集で家賃を下げなければならなかったり、原状回復費用がかかったりしたとしても、その後、法的に故人の相続人や保証人に請求することは多くの場合困難です。

遺族がいない場合にはどんな手続きをとっていいかわからない方も多いようです。

また、亡くなった方に身内がいた場合も、遺族が相続放棄してしまうと家主が損害を被ることもあります。

自殺などの事故物件について、貸主は次の募集の際に事故物件であることを契約の前に借り手に説明する「告知義務」があり、家賃についてはいくらか下げなければならないのが実態です。他方、孤独死も含め自然死の場合、裁判所は基本的に次の借り手に対する告知義務があるとは考えていないので、そもそも孤独死があったからといって家賃を必ず下げなければならないわけではありません。そのため、実際に家賃を下げて次の募集をしたとしても、それを損害として計上することは法的には困難となります。

ただ、孤独死の場合は事件ではなくても現場検証などで警察が介入することもあるため、近隣の人には亡くなったという事実が広まってしまう可能性は高いでしょう。

また、原状回復については、国土交通省でガイドラインがありますが、原則として借主の故意や重過失がなければ、借主は原状回復義務を負いません。そうすると、自殺は故意に該当するので原状回復義務を遺族や保証人が負うことになりますが、自然死の場合は故意や重過失があるとはいえないので、やはり孤独死でも原状回復費用まで遺族や保証人に求めるのは困難な場合が多いといえます。

したがって、ご相談者さんの場合、損害賠償も原状回復費用も請求できず、自ら負担しなければならない可能性が大きいといえます。

今回のポイントは「身内がいない」ということ。

法的な考え方はさておき、身内がいる場合ならば遺族に連絡をとり、原状回復費用の支払をお願いすることは何ら問題ありません。遺族としても、ご質問のように腐乱臭までしている場合は、家族が迷惑をかけたので、原状回復費用くらいは支払わせてくださいということもあるかもしれません。もっとも、ご質問のケースだと、親族もいないようですから、こういった方法も現実的には難しいと思います。

アパートなどでひとり暮らしをする高齢者は現在とても多くいます。本人の他に身内の方がいれば安心ですが、そうでない場合は、ある程度慎重に家を貸す必要があります。

孤独死が発生した物件は、売却の時の査定でも大きな不利になってしまいます。価格が下がってしまう可能性もあるでしょう。いずれにしても、物件を購入した後は入居者選びを慎重に行い、孤独死や自殺が所有物件で起こらないように注意すべきですし、その上で万が一のときにも冷静に対処できるように、学びを深めることも必要だと思います。