広く、深く知り、常識を疑う

教養,茂木健一郎
(画像=日本実業出版社)

教養ブームの昨今ですが、「教養は1冊本を読んだところで手軽に身につくものではない」と茂木健一郎さんはいいます。では、「本当の教養」とはどんなもので、どうすれば身につくものなのでしょうか。

本当に教養ブーム?

世は教養ブームです。書店では世界史や哲学、アート、ワインにいたるまで、一般向けの入門書がたくさん並び、ビジネス誌でも「教養特集」がよく組まれます。

茂木健一郎さんは、そんな状況に疑問を呈します。

最近、日本で「教養」がブームだといいます。「へぇ」と思い、早速書店に行って売れている教養の本を手に取ってみました。しかしそれは、教養の本というより、雑学ネタがたくさん書いてある本だったのです。
(『脳がめざめる「教養」』はじめに より)

1冊の本にまとめられた雑学ネタを頭に入れたからといって、それは教養とはいえない。そもそも、単純に知識を増やして「教養が身についた」とする態度は正しくない、というのです。

それでは、茂木さんの考える「本当の教養」とはどんなものなのでしょうか。新著『脳がめざめる「教養」』の第1章、「教養を再定義する」を中心に見ていきましょう。

古い教養・新しい教養

私たちが教養の「ある・なし」を話題にするとき、たいていは「知識の量」を念頭に置いています。名著や名画、音楽、映画に親しみ、歴史などに豊富な知識を持つ人に対しては、「あの人は教養がある」と尊敬の念を抱きます。

茂木さんももちろん、このタイプの教養を否定はしません。ただ、こうした知識の量に基づく教養を古い教養=「静的教養」と呼び、現代においてはそれだけでは不十分であり、新しい教養=「動的教養」も身につけないと本当の意味での教養人とはいえない、と指摘します。

動的教養とはどんなものなのか、茂木さんは中国への旅行者を例に次のように説明しています。

あなたはいま、中国を旅行しています。中国語の看板ばかりで、何が書いてあるのかわからない。じゃあ、Google Lensを起動して、看板をかたっぱしから読ませてみよう。

さて、看板を読ませたら、中国でもタピオカミルクティーのお店が乱立していることに気づいた。どこのお店がおいしいのか、中国版ツイッター「微博」(ウェイボー)で検索しよう。

中国語は読めないけれど、Google translateで翻訳すれば無問題──つまり、あなたの身近にあるツールを使いこなして知識の幅を広げ、コミュニケーションに役立てる力。僕はこれこそが現代の「新しい教養」であり、「動的教養」だと思っています。(16ページ)

本などで得られる静的教養を土台としつつ、最新の情報やツールを味方にして未知の状況でも適切な行動を選択できる能力が「動的教養」だといえそうです。そして、動的教養によって私たちはより「自由」になれ複雑な現代社会を生き延びることができる、と茂木さんはいいます。

動的教養を磨く3つの方法

それでは、動的教養はどうすれば身につくのでしょうか。茂木さんはそのための基本的な方法、考え方を3つ提示しています。

  1. 広く知ること
  2. 深く知ること
  3. 常識を疑うこと

本書ではそれぞれに章が割かれ詳しく解説されていますが、ここでは要点を紹介します。

「広く知ること」

現代は、web経由で様々な情報が世界のどこでも入手できる時代です。これによって時間や空間の距離が縮まり、世界は緊密になり、文化はある意味で均質化していきます。

このような世界では、世の中全体を見渡す「鳥の目」を持って情報を集め、さらには、集めた情報をただアーカイブするのではなく、それらを再編集して新しい価値を見出す感性が求められます。

そのために、まず「広く知る」ということが重要なのです。

茂木さんは、片づけコンサルタントのこんまりさんこと近藤麻理恵さんを例にあげています。彼女は整理整頓に「ときめき」や「おもてなし」などの概念を持ち込み、ものと対話しながら片づけていく方法を、国内だけでなく欧米社会にも提案し高く評価されています。

こんまりさんの発想は、すべてのものに宿る八百万(やおよろず)の神を敬う、とても日本的な発想です。ただ彼女が他の人と違うのは、世界を広く見渡したうえで、自分の日本的、アミニズム的な発想が、唯一絶対神を信仰する欧米では新鮮さをもって受け入れられると気づいたところにある。茂木さんはこう解釈しています。

グローバル時代に優れたコンテンツをつくろうとするなら、まずは世界中を広く知り、こんまりさんのような気づきを得られる状態でいることが大切なのです。

深く知ること

現代社会では誰もがあらゆる情報にアクセスできますが、すべてを共有しているわけではありません。共有される情報の種類と質は、集団(クラスター)によって違います。このクラスターの存在に気づき掘り下げていけば、「深く知る」ことができます。

いまや情報に「メジャー」や「マイナー」といったレッテルを貼ることは無意味になりました。世界中の人々はそんなことに関係なく、それぞれの関心領域(クラスター)においてアクティブに活動しています。そのなかには、あなたのビジネスや人生に深くかかわる重要なクラスターがあるはずです。

たとえば、茂木さんとも親しく「世界最高齢プログラマー」として知られる若宮正子さんは、81歳でiPhoneアプリの開発を始め、アップル社のティム・クックCEOから賞賛されたことで一躍時の人になったかたです。

若宮さんは60歳ころからパソコンの使い方を学び始め、ネットで活動していたシニアのグループに参加します。周囲の人たちとともに興味のおもむくままに勉強し、IT・プログラミング関連のスキルを身につけてアプリを開発、ついにはアップル社が開催する世界開発者会議に参加するまでになりました。

興味を持った分野のクラスターに迷わず飛び込み、その世界を深く探求することによって、まったく新しい体験ができるのです。若宮さんのような人こそが、動的教養を本当の意味で身につけているといえます。

常識を疑う

動的教養は、「当たり前の常識」「当然の教養」を疑ってみることでも深まります。茂木さんはそれを「教養の脱神話化」と呼んでいます。

茂木さんが顧問を務める関西国際学院の学園長、中村久美子さんは次のように話したそうです。

「先日、ハーバード大に視察に行き現地の先生や学生たちと話をしてきたけど、レベルは必ずしも高いわけではなかった」

日本では「ハーバードは世界最高峰のエリート集団、日本の大学はかなわない」と考える人が多いでしょう。しかし、ハ―バードと日本の大学を自分で比べてみた人は多くないはずです。なんとなく常識とされていることを信じ込んでいるだけではないでしょうか。

このような世間の常識的、あるいは権威主義的な価値観を妄信せず、自ら調べ、考えて、自分なりの価値観を持つことが「教養の脱神話化」です。誰もが均質な情報にアクセスできる時代だからこそ、既存の教養という「神話」を疑うことが、とても大きな意味を持つのです。

教養を磨くことは、私たちに何をもたらしてくれるのでしょうか。最後に茂木さんの言葉を紹介します。

本当の意味での教養とは、あなたの脳を覚醒させ、人生をよりブラッシュアップしていくものです。決して、本を1冊読んだらお手軽に身につくようなものではありません。

一生を通じて磨き、あなたを助け、あなたを導いてくれるもの。そんな真の教養とはどのようなもので、どのようにしたら身につくのか。本書ではそれをお伝えします。(はじめに より)

(提供:日本実業出版社)

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