19年7月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比1.3%増(前月:同3.7%減)と上昇した(図表1)。輸出の伸び率は昨年前半まで堅調に推移した後、海外経済の減速やITサイクルのピークアウト、米中貿易摩擦、コモディティ価格の下落などを受けて低下して今年前半は減少傾向が続いたが、7月は世界需要が増加している金の輸出が押し上げ要因となって8ヵ月ぶりのプラスに転じた。ベトナムは輸出が堅調に拡大、フィリピンも足元プラス圏で推移しているほか、タイとマレーシアでも下げ止まりの兆しが見られるものの、米中対立の激化や米国の景気減速懸念の高まりなど外部環境は依然として厳しく、輸出停滞が長期化する懸念は広がっている。

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ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、7月は北米向け(同14.7%増)が拡大して2ヵ月ぶりの二桁増となったほか、低迷している東アジア向け(同0.9%減)とEU向け(同1.8%減)のマイナス幅が縮小した(図表2)。一方、景気悪化が続く東南アジア向け(同7.1%減)はマイナス幅を拡げた。

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タイの19年7月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比4.3%増(前月:同2.1%減)と上昇した。輸出の基調は昨年後半から米中貿易摩擦や世界経済の減速など先行きの不透明感が強まるなかで電子機器を中心に減少傾向にあるが、6-7月は値上がりした非貨幣用金が輸出を押し上げる格好となり、7月に5ヵ月ぶりのプラスに転じた。なお、金を除いた輸出額は同1.2減と低迷したままとなっている。また輸入額も前年同月比1.7%増(前月:同9.4%減)とプラスに転じた結果、貿易収支は1.1億ドルの黒字となり、前月から31.0億ドル黒字が縮小した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同6.0%増(前月:同0.0%増)と上昇し、2ヵ月連続で増加した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、自動車・部品(同0.7%増)は小幅に増加したものの、電子機器(同6.8%減)と機械・装置(同5.0%減)、石油化学製品(同3.2%減)など主力製品が幅広く低迷しており、まだ回復の兆候はみられない。また鉱業・燃料は同14.1%減(前月:同18.4%減)となり、石油製品(同17.0%減)を中心に低迷した。さらに農産物・加工品も同1.4%増(前月:同9.0%減)となり、小幅に増加した。天然ゴム(同9.6%増)が供給削減に伴う価格上昇を受けてプラスとなった一方、コメ(同27.2%減)とゴム製品(同18.3%減)が大幅に減少、加工食品(同1.9%減)が低迷するなど、総じて低調だった。

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ベトナムの19年7月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比11.1%増(前月:同7.7%増)と上昇した。輸出の伸び率は今年2月に旧正月に伴い営業日数が減少した影響で一時的に減少したものの、その後も繊維関連が堅調に拡大、電気・電子製品が持ち直すなど拡大ペースを維持している。また輸入額が前年同月比7.5%増(前月:同1.1%増)と大きく上昇した結果、貿易収支は0.4億ドルの黒字となり、前月から18.9億ドル黒字が縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同3.1%増(前月:同14.0%増)と大きく鈍化したものの、6ヵ月連続で増加した。またコンピュータ・電子部品が同16.6%増(前月:同18.7%増)と二桁増を維持した(図表6)。繊維関連では、織物・衣類が同12.9%増(前月:同4.8%増)が拡大、履物も同10.8%増(前月:同11.6%増)と好調に推移した。農産品は、価格上昇したコメ(同17.8%増)が7ヵ月ぶりプラス、天然ゴム(同24.8%増)が急増した一方、価格下落が続くコーヒー(同4.8%減)が低迷したほか、野菜(同27.8%減)が2ヵ月連続で減少するなど、品目によってばらつきが見られた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同11.1%増(前月:同7.7%増)、地場企業が同7.9%増(前月:同4.0%増)と、それぞれ伸長した。

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マレーシアの19年7月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比0.1%減(前月:同7.2%減)とマイナス幅が縮小した。輸出の基調は昨年から主力の電気・電子製品を中心に増加傾向を維持してきたが、年後半からはベース効果の剥落やパーム油の出荷減少により増勢が鈍化、今年1月には原油需要の低迷を受けてマイナス圏に突入し、これまで7ヵ月連続で減少している。また輸入額も前年同月比7.6%減(前月:同13.3%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は34.6億ドルの黒字となり、前月から9.3億ドル黒字が増加した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同3.0%増(前月:同10.5%減)と上昇し、主力の電気・電子製品(同2.6%増)を中心に6ヵ月ぶりのプラスとなった(図表8)。一方、鉱物性燃料は同8.7%減(前月:同3.4%増)と2ヵ月ぶりに減少した。天然ガス(同35.9%増)が急増した一方、原油(同46.7%減)が大幅に減少、石油製品(同1.3%増)が鈍化した。このほか、価格上昇した天然ゴム(同23.2%増)が急増した一方、動植物性油脂は同11.0%減(前月:同0.8%増)とパーム油を中心に3ヵ月ぶりの二桁減少となった。

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インドネシアの19年7月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比5.1%減(前月:同8.9%減)とマイナス幅が縮小した。輸出は昨年前半までは主力のパーム油やゴム製品、石炭などの資源関連が落ち込むなかでも自動車・同部品を支えに堅調に推移してきたが、昨年後半からは世界的な需要減退と商品価格の下落を背景に鉱産物が振るわず、低迷している。一方、輸入額が前年同月比15.2%減(前月:同2.0%増)と減少した結果、貿易収支は0.6億ドルの赤字となり、3ヵ月ぶりの赤字となった(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出は同6.9%減(前月:同2.3%減)とマイナス幅が拡大した一方、石油ガス輸出が同13.3%増(前月:同54.7%減)と急増して7ヵ月ぶりのプラスとなった(図表10)。品目別に見ると、宝飾品(同51.2%増)と自動車・同部品(同15.3%増)が2ヵ月連続の好調、電気機械(同4.4%増)とゴム製品(同2.3%増)が増加を続けた一方、石炭などの鉱産物燃料(オイル・ガス除く)が同18.1%減と落ち込んだ。

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