今年6月に社会的話題となった「老後2000万円問題」。その後の参議院選挙や日韓関係の悪化などから関心は薄らいできたが、個人投資家の資産形成を目的とした米国株投資は以前にも増して注目度を高めているようだ。しかし、米国株といってもその相場見通しや投資のタイミングを導く情報は多くはない。資産運用の視点に立った株式、為替、債券、コモディティ市場の情報提供などを事業とするエモリキャピタルマネジメントの江守哲代表取締役に米国株と資産運用について解説してもらった。

(取材・文 天野秀夫 編集 升澤淳郎)

江守哲
江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て独立。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問ではヘッジファンドの運用に携わる。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う傍ら、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行う。“日本で最初のコモディティ・ストラテジスト”。(撮影=倉部和彦)

トランプ発言の強弱は株価がバロメーター

米国株特集#2
(画像=ZUU online編集部)

米国株や日本株を始めとする世界の株式市場の動向に大きな影響を与えているのは、「戦争」の言葉さえ使用される米中貿易摩擦にあることは衆目の一致するところだ。その米中貿易摩擦の主役がトランプ米大統領と中国の習近平国家主席である。FRB(米連邦準備制度理事会)への口先介入を始め、相場に大きな影響を与えているのが、従来の米国大統領には見られなかったトランプ大統領のツイッターなどを通じての発言。このトランプ発言は、来年11月3日のアメリカ合衆国大統領選挙に向けたものと推測される。基本的にはトランプ大統領が再選を果たし、もう1期4年を務めると見ている。

トランプ大統領が強面に出たり発言を弱めたりするのは、株価を意識して行動しているからではないか。8月前半に米国株が調整した裏には、トランプ大統領の「株価水準は高値で保たれているので、下がっても多少は耐えられる」との判断があったのだろう。そうしたタイミングでは厳しい発言を繰り出すが、株価が下がり過ぎると発言のトーンを弱める。これは、中国に対して態度を緩和したのではなく、株価の動向を見ながら発言のトーンを変えていると考えられる。大統領選が終わるまで、もしくはその勝敗の先行きが見えるまでは、こうした状態が繰り返されそうだ。これを前提にすれば、11月に予想している株価の調整から大統領選までの間は劇的な上昇は見込めないながらも、株価は上げたり下げたりを繰り返すだろう。

米国内の景気は言われているほど悪くないようだが、それは逆説的にいうと株価が高いからである。米国の場合は、株価と個人消費、小売売上高、そしてGDP(国内総生産)が連動しているので、株価が下がるとそれら全てが悪化する。米国の個人金融資産の半分以上は株式と債券なので、株価は下げられないという政策になりやすい。むしろ、一般的に相場解説などで用いられる経済や景気の指標よりも株価が先であるという考えなのだ。小売りの業況が悪化した時にはすでに株価は下がり始めているので、その経済指標を見てから株の売買を判断しても遅い。トランプ米大統領は、この米国経済の構造を理解し、それを利用しているとも言えるだろう。

11月に本格調整へ?

では、ここから数カ月間の米国株式市場の見通しについてお伝えしたい。