価格から見る消費者の映画館利用における3つの比較

さて若者の映画離れの大きな要因として価格が高いことを挙げたが、何と比較して価格が高いのだろうか。まず映画料金そのものでの比較が考えられる。年々増加する映画料金に対して、消費者は、(1)過去の映画料金、(2)レイトショーなどの割引料金と比較している。確かに映画撮影の技術が向上するに伴い、製作コストは上昇しており、配給サイドの価格が上昇していることは容易に想像つく。また人件費の上昇など必要経費も増加している。しかし、消費者からすると、映画館で映画を見るという行為は変わらないのにも関わらず、価格だけが上昇しているという感覚なのである。ネットリサーチの「映画館に関する調査」(7)によると、一般的に1,000円を妥当な価格と消費者は感じているようである(図表6)。奇しくも、この1,000円と言う金額は、前述の米国の映画料金(932円)と同水準である。

現代消費文化,映画館
(画像=ニッセイ基礎研究所)

図表7は簡略化した映画料金の内訳である。ベンチマークは過去の消費経験から消費者が生み出した映画に対する対価である。

現代消費文化,映画館
(画像=ニッセイ基礎研究所)

映画館側は以前よりコストがかかっている。その結果、消費者の求めているベンチマークでは利益を産めないため、利益を確保するために、ベンチマークを上回る水準で映画料金を設定する。しかし、その構造を知らない消費者は映画館がただ利益のために料金を増加させていると知覚する。ベンチマーク以上の部分に関して消費者自身が妥当性を見出すことができない限り受け入れることはできないだろう。

またレディースデイやレイトショー、映画の日など正規料金よりも大幅に割り引かれるサービスが提供されており、割引料金で上映を行えるのならば、正規料金に対してなぜ割引料金で上映できないのかという、正規料金に対して「適正料金ではない」という疑いが生まれる。

次に消費者が行っている比較は、(3)映画を見るための手段との比較である。映画館以外で当該映画を見る方法はある。ブルーレイやDVDの販売を待つ、レンタルされるのを待つ、サブスクリプション・サービスを利用するという映画に対して対価を支払う方法もある。最新映画であれば飛行機で上映されているケースもあるため、他のサービスに付随するサービスとして鑑賞することも可能である。ここで比較されているのは「映画に対する関心度」と「手段にかかるコスト」の比較である。

彼らは「映画をみたいから」映画館やレンタルショップやサブスクリプション・サービスを利用している。そして、どの手段で「映画を観る」のかは、その映画に対する関心度によって決まるのである。その映画に対する関心度が高ければ高いほど、スクリーンが大きかったり、音響システムのよい映画館を利用する。関心度が低い映画に関しては、映画館が選好されることは少なく、他の手段が利用される。その手段を選好する際に「その手段にかかるコスト」が比較される。

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(7)http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2013/130601/

映画デートの真意‐本当に映画がみたいのか‐

筆者は以前空間における調査を行ったことがある。都内の大学生500人に対する調査(8)で、その項目の一つに映画館があった。その調査の結果大学生の47%が映画をデートに使っていると答えた。しかしながら、その中の68%がたまたま映画だっただけで映画でなくても良かったと答えている。また、女性誌のCanCamの「初デートで行きたい場所ランキング」調査においても男女共3位に映画館がランクインしている(図表8)。

現代消費文化,映画館
(画像=ニッセイ基礎研究所)

若者はデートにおいて、その内容よりも費やした時間(一緒にいた事実)に重きを置く傾向がある。しかし、休日の都内で空いているカフェや飲食店を探すのは一苦労である。目的なく街をデートし、休憩をする場所を見つけられないことを「カフェ難民」というくらいである。予約ができて、座れて、一定の時間を消費することができる映画が好まれるのもわからなくもない。

このとき彼らが比較しているのは、映画館以外の代替サービス(施設)である。彼らの目的は映画を見ることではなく、「二人で時間を共有することにある」。2人で「時間を使うことができる場所」という数ある選択肢の中で、その利便性から映画館が選ばれてはいるが、もし他のカフェが空いていればカフェでもいいといえる。カフェならば1900円あればコーヒーにケーキをつけてもおつりが返ってくる。

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(8)対象者都内大学生2014年11月22日~12月17日まで実施(女性269人、男性231人)

若者が映画館から離れた「4つの理由」

これまで述べてきた、映画館を利用する際に比較しているものを整理すると以下のようになる。

現代消費文化,映画館
(画像=ニッセイ基礎研究所)

1,900円という価格は、これらの要因と比較された結果「高い」と思われていると筆者は考えている。消費者が適正価格だと感じる1,000円より900円高い現状において、ただ「映画を見る場所」という認識から消費者の意識を逸脱させない限り、この溝は開いていくばかりである。「消費させるだけの価値を若者に提案できるか」というテーマについて、より真摯な対応が求められているのだろう。

廣瀨 涼(ひろせ りょう)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員

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