(本記事は、田辺由香里氏の著書『瞬間記憶術〜たった3日で驚くほど頭が良くなる本〜』ぱる出版、2019年9月24日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
記憶力は、何歳からでも良くなる真実
20歳を過ぎると脳細胞は減っていくという話を聞いたことはありますか?
これは一つの事実です。
しかし、20歳を過ぎた方もどうぞご安心ください。
カリフォルニア州ラホヤにあるソーク研究所の遺伝子学研究室長フレッド・ゲージによれば、「人間は生まれ持ったニューロンが全てではなく」、「大人の脳でさえ、新しい脳細胞を生産することは可能」なのだそうです。 (『脳科学は人格を変えられるか?』エレーヌ・フォックス著文春文庫)
脳には可塑性があります。
粘土のように形を変えることができる性質を可塑性と言います。
命がある限り、環境や外から受ける刺激によって、脳は変化し続けるということです。
例えば、何かのきっかけで右手が不自由になると、左手がそれをカバーするように器用になります。
目が見えなくなると、聴覚や触覚が発達してそれを補おうとします。
他にも、楽器の練習、パソコンのキーボード入力、スマホのフリック入力、サッカーのリフティング、一輪車の練習、フラフープを回すなど、何でも良いのですが、最初はうまくできなくても、やっているうちにある日突然コツを掴んで、うまくできるようになった経験はありませんか?
脳に外側から何かしらのアプローチをすることで新しい回路がつながった瞬間です。
脳はいくつになっても新しいニューロンを作るのです。
100年時代を生きる私たちにとって、これは素晴らしい朗報ではないでしょうか?
実際、アクティブ・ブレイン・プログラムの参加者の変化を見ていても、最初は記憶ができなかった人が、しばらく記憶のトレーニングをすると、どんどんできるようになっていきます。
経験値の高い大人のほうが、一旦コツを掴むと子どもより記憶することが得意になることもあります。
一般的には若い人のほうが、年長者より記憶力が良いと思われていますが、一概にそうとも限りません。
なぜかというと、トレーニング中には言葉をイメージ化する訓練をします。
例えば、「紫陽花」という言葉を聞いたときに、紫陽花のイメージがぱっと頭の中に浮かぶのは大人と子どもではどちらが早いでしょうか?
「紫陽花」一つを取っても、人生の様々な場所で「紫陽花」にまつわる思い出をたくさん持っているのは大人のほうではないでしょうか?
地名もしかりです。
例えば、「シンガポール」という国名を聞いたときも、実際現地に行ったことがある人のほうがリアルに「シンガポール」をイメージできます。
経験値と記憶は関連性があり、若いときより歳を重ねたほうが記憶力が良くなるという言葉の意味はそういうことなのです。
今はインターネットで画像検索すれば、すぐに実物を確認することができますが、できるだけたくさんの実体験をして、脳の中に経験という素材を蓄えることをお勧めします。
日頃から、身の回りのことに興味を持って、目に映る景色を素材として脳にストックしていくのは非常に重要です。
頭の中に素材がたくさんあれば、それだけ記憶するスピードも速くなります。
それ以外にも、年齢を重ねて学習を積み重ねてきた脳は不思議な進化を遂げるということが最近解明されてきました。
それは、脳の両側性という機能です。
一般的に右脳はイメージ、感情、本能を司り、左脳は論理的思考回路、計算、言葉、理性を司ると言われています。
その二つの脳が脳梁を通じて左右の脳の情報をやりとりしているのですが、全ての人がそうかというと、100%そうだと言い切れないこともあるのです。
若い人は右脳の前のほうでイメージして、脳梁を通じて左脳に情報を流し、左脳から言葉を出していることが多いようですが、中年になると脳が再構成しはじめ、行動や考え方も変わっていくということがわかってきました。
例えて言うと、若い頃は筋力があるので、重い荷物を片手でひょいと持ち上げて片足でぴょんぴょん跳んで運ぶなんていうこともやろうと思えば朝飯前です。特に難しいことでもありません。
ところが中年になって、筋力が弱まってくると、そういう危なっかしいことをすると怪我をしますよね。
ではどうするかというと、両手で丁寧に荷物をもち、飛び跳ねないで運びます。
それと同じようなことが脳の中で起こるのです。
中年期になると、何か困ったことが起きて、問題を解決しようとしたときに片側の脳だけでなく、両側の脳を使う脳力を発達させはじめます。
これは、より効率的に脳を使おうとする脳のパワーアップ現象です。
歳を重ねると、物事を多角的に見ることが上手になっていき、感情も安定してくるのはこの機能があるからです。
一般的に衰えていくばかりと思われていた脳は、中年期にはより発達した状態になるというのが最新情報です。
そして、その脳力は何歳ぐらいで衰えるのかというと、学び続けている人はほとんど衰えを感じないようです。
そのうえ、身の回りの出来事への感受性が増し、喜びの気持ちやプラスの面に目がいくようになってくるようです。
確かに子どもの頃、大人に「紅葉狩りに行こう」「お花見に行こう」と言われても何が面白いのかわかりませんでした。
しかし今なら、大人になった私の脳なら、その面白さは十分理解できます。