(本記事は、田辺由香里氏の著書『瞬間記憶術〜たった3日で驚くほど頭が良くなる本〜』ぱる出版、2019年9月24日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
記憶は才能ではなく、技術であると知る
記憶力は地頭が良い人だけに元々備わっている才能だと誤解されているのが残念でなりません。
もちろん遺伝子による優劣があるというのは歴とした事実です。
しかしそれはそれほど気にするほどの差ではありません。
時々大天才と言われるような人が存在するのは事実ですが、だいたいはみんな普通の人です。
脳機能的に考えたときも、脳は後ろから前に育っていくので、記憶を左右する前頭葉が成長するのは生まれてからしばらく時間が経ってからです。
その頃にはかなり環境の影響を受けますので、遺伝の影響よりも後天的な環境に左右される割合が大きいのです。
脳は一生を通じて、構造を変える力が備わっています。
私たちができる唯一の選択は、与えられた自分の脳をどれくらい上手に使いこなして、人生の中で磨いていくかということではないでしょうか。
同じ親から生まれた一卵性双生児であっても、育てられた環境や教育によって違う人生を歩みます。
同じ1人の人間で、スタート地点が同じであっても、一つ一つの選択によって全く違う人生が創造されていきます。
記憶は才能ではなく技術です。
技術なので、練習さえすれば誰でも身につけることができます。
英語ではart of memoryと表現されています。
記憶の技法、記憶術、記憶のアート、芸術作品なのです。
世界記憶力選手権大会で8回優勝したドミニク・オブライエン氏は元々記憶力が良かったわけではなく、子どもの頃は失読症と診断されていました。
学校の先生からは将来を心配されるほどでした。
何をするにも時間がかかり、注意力散漫、言われたことを復唱できない。
目の前のことに意識が向かない。そのような状態だったそうです。
当然先生からは厳しく指導され、怒鳴られたり、体を揺さぶられたりの毎日です。自信をなくし、学校から帰ることだけが幸せだったと語っています。
それが1組のトランプカードを独自のやり方で記憶したところから彼の人生が変わりはじめました。
25年のトレーニングを経て習得した技術は全て公開されています。彼が25年間試行錯誤したレシピを私たちは今や一瞬で手に入れることができるのです。
日本記憶力選手権大会で6回の優勝を果たした池田義博氏も44歳までは普通の人でした。
一念発起して記憶の技術を独自に磨き、20代の高学歴の若者や上位2%のIQを持つMENSAのメンバーと競い合い、大会に6回出場して、全優勝という驚異的な記録を樹立しました。
池田義博氏によると、記憶力選手権大会に出るために、メモリーパレスを1000個作ったそうです。そして毎日記録を取って、約一年準備して、本番に臨んだら初出場初優勝してしまったのだそうです。
記憶術の訓練をしたことがある方は、これがどういう意味かおわかりになりますか?効果的に記憶をするためには、あらかじめ記憶を置く場所を作る必要があります。
これをメモリーパレスと言います。
下準備として脳の中に記憶の宮殿を作るのです。
自分の頭の中に作った宮殿の中に、記憶したいものをイメージ化して置いていきます。置き終わったあとは一種の瞑想状態のような感じで、宮殿の中を歩き回り、イメージを取り出していきます。
言葉にすると難しそうですが、やってみるとシンプルです。
アクティブ・ブレイン・プログラムを受講すると、誰でもできるようになります。
誰でもできることなのですが、池田さんの凄いところは“誰でもできること”を“誰にもできないくらいのレベル”で一年間やり続けたという点です。
誰にでもできることに、誰にもできないレベルで取り組むと結果が出る。
人生の真実を見るような想いで池田さんにお話をお伺いしました。
誰でもできることは身の回りにもたくさんあります。
スピード重視で効率だけを求めていると見逃してしまいそうな平凡なことです。
例えば日々のお掃除、炊事、洗濯。会社に行けば雑務と言われるような仕事。
ちょっと古いですが、昔は「お茶くみ」なんていう仕事も雑務に分類されることだったかと思います。
このような誰でもできる平凡なことを誰にもできないくらい徹底してやることを極めた方がいます。イエローハットの創業者である鍵山秀三郎氏です。
社長である鍵山氏自ら、社内の掃除を徹底して実践されました。
汚いトイレも素手で磨くという徹底ぶりです。
そこに、「凡事徹底」という言葉をつけたことで、この概念は瞬く間に世間に広まっていきました。
行動や概念に命のある言葉を吹き込んだとき、人々の中で共通認識として議論することができるようになります。
凡事徹底という言葉は未だ広辞苑には載っていないのですが、大切にすべき心構えであると思います。