(本記事は、大前研一の著書『大前研一 稼ぐ力をつける「リカレント教育」』プレジデント社2019年6月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

「見える化」が日本人を伸ばす

目標
(画像=areebarbar/Shutterstock.com)

ここまで日本が抱える政策面や教育面等における根深い問題を整理するとともに、先進的な海外の事例を紹介してきた。

私は「日本人が駄目」と言いたいのではない。日本人には高度経済成長期において発揮されたような優秀さがあり、これを今の時代にどのように適用していくかについて考える視点が欠けていると考えているのだ。

注目すべきは、「見える目標に対しては力を発揮できる」という日本人の気質である。海外で生まれたビジネスや技術をブラッシュアップさせ、マニュアルとして取り込み品質をさらに高める。こうして高品位・高品質の製品を量産することで、メイド・イン・ジャパンという世界的な地位(ブランド)を築いてきたのだ。

今でも日本人が活躍している分野を見ると、目標が可視化されている領域が目立つ。卓球の伊藤美誠、石川佳純、水谷隼、張本智和、などやフィギュアスケートの羽生結弦選手、紀平梨花選手、また、スキージャンプの高梨沙羅、小林陵侑、将棋の藤井聡太七段のように、順位を争う競技において日本人は圧倒的な強さを誇る。

芸術の領域においても、31歳にして世界一のベルリン・フィルハーモニーで第1コンサートマスターとなり、活躍し続ける樫本大進のような人材もいるし、世界中のオーケストラの楽器奏者やピアノなどでは日本人の活躍がもはやニュースではなくなっている。変わったところでは国際的に有名なスイスのローザンヌ国際バレエコンクールでも日本人は常に上位を占めている。

図17 日本の「見える化」の現状と課題

図17 日本の「見える化」の現状と課題
(画像=大前研一 稼ぐ力をつける「リカレント教育」)

日本人には目標に向かって努力する才能が元々備わっているが、現代のビジネスでそれらがうまく活用できていないのは、経済・経営の分野でデジタル・ディスラプションの時代に突入したのにアナログ時代の成功体験をひきずったままで、将来の目指すべき姿がまったく見えていないからだ。欧米にも解がなく、皆が模索している。21世紀にはGAFAやBATHなどの巨大企業でも日々将来の姿を自問自答している。これから行くべき先や姿が見えている人(企業)などいないのだ。既存のビジネスや技術があっという間に淘汰される中、「ここを目指せば勝てる」という目標を見出すことは難しい。そういう意味では全ての人(企業)が横一線で模索しているのが現代の特徴なのだ。

日本にとって必要なのは、目指すビジョンを明確に「見える化」することだ。そのためには、 積極的に現場に足を運んで「見る」しかない。

米国や台湾、中国のハイテク都市を訪れてみる、あるいは北欧で最先端の教育を見る。自分の関わる業界などで気になることがあれば、とにかく積極的に現地に足を運ぶことが必要なのだ。自動車業界の先行きに不安があるのであれば、アウディの自動運転車を体感してみるのもいいし、ウェイモに関して全部データを集めてみる。そこから新しいビジネスにつながるアイデアや方向が生まれる可能性は大いにある。

年代によって異なる学び直すべきこと

経営トップが最も力を入れるべきは人事だ。人事分野に苦手意識を持っていたり、人事部長に任せきりにしたりするのは論外である。

ここからは日本におけるリカレント教育のモデルケースを示したい。

企業が社員に対してリカレント教育を施す場合、入社間もない25歳のときに最初のリカレント教育を行い、35歳、45歳、55歳と10年ごとに再度実施するケースが考えられる。

ここで重要なのは、年代や役職に応じて教育内容を変えるということだ。

ビジネスパーソンに必要なスキルを整理しておく。次の4つの要素をイメージしていただきたい。

・問題解決力(現場で求められる能力)
・ハードスキル(IT、ファイナンス、マーケティング、統計など)
・ソフトスキル(リーダーシップ、英語も含むコミュニケーションなど)
・構想力(0から一を生み出す力)

図18 役職(年代)と求められる能力の割合

図18 役職(年代)と求められる能力の割合
(画像=BBT大学総合研究所 ©BBT Research Institute All rights reserved.)

あらゆる年代において必要なのは、「問題解決力」と「ソフトスキル」である。

目の前のタスクを解決する能力やコミュニケーション能力は不可欠で、年齢や役職を問わず常にスキルを維持すべきだ。まずは新人の頃にきちんと問題解決力とソフトスキルを身につけておくことが肝要である。

新人の教育係を担うべきは、「新人に最も近い社員」である。現場の仕事を経験し、かつ最先端のITなどの知識を持つ先輩社員に、徹底的に問題解決力とソフトスキルを叩き込んでもらうのだ。

「ハードスキル」と「構想力」については、年代に応じて必要度が変わってくる。若い一般社員はITやファイナンスといったハードスキルを押さえ、簡単なプログラミングの技術も身につけておく必要がある。

しかし、年齢を重ねると最先端のハードスキルにキャッチアップすることが難しくなるため、 中間管理職から経営層に上がるにつれハードスキルは若い人に任せていくことが重要だ。そうして空いた時間を使って高めるべきなのが、「構想力」である。

大前研一 稼ぐ力をつける「リカレント教育」
大前研一(おおまえ・けんいち)
早稲田大学卒業後、東京工業大学で修士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得。
日立製作所、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、現在、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長。著書に、『「0から1」の発想術』『低欲望社会「大志なき時代」の新・国富論』(共に小学館)、「日本の論点」シリーズ(小社刊)など多数ある。

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