(本記事は、大前研一の著書『大前研一 稼ぐ力をつける「リカレント教育」』プレジデント社2019年6月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

リカレント教育発祥の地 スウェーデン

スウェーデン
(画像=RPBaiao/Shutterstock.com)

ここからは、世界のリカレント教育を取り巻く環境を紹介する。日本にとってもリカレント先進国の成功事例に学ぶ意義は大きいからだ。

リカレント教育に最も力を入れている北欧諸国は、EU各国の中でも国際競争力が高く、経済にこの教育がいい影響を及ぼしていることは明らかだ。

リカレント教育が世界に広まるきっかけをつくったのは、当時スウェーデンの文相で後に首相になったオロフ・パルメ氏である。元々、スウェーデンには生涯にわたって教育を受ける文化が根づいていて、政府による労働市場への関与も積極的だった。

この思想が表れているのが、スウェーデンの「ライフパズル」という考え方である。ライフパズルは、人生の枠組みに、仕事やキャリア、家族などをパズルのピースのようにあてはめ、さまざまな選択肢を個人の希望や状況によりアレンジしていくというものだ。

スウェーデンでは、社会全体において男女を問わず子育てや介護に積極的で、学び直しで大学に戻ることが当然のように行われている。男性も夜7時までに帰宅して家族と過ごしたり勉強したりするのが日常的で、日本がワーク・ライフ・バランスと言い始める前から、こうしたライフスタイルが根づいていた。

スウェーデンは50%以上の税金を徴収する高負担国家であるとともに、社会保障制度が充実した高福祉国家だ。これも、同国でライフパズルが生まれた背景としてある。スウェーデンの人口は1000万人程度と少ないので、高いレベルの福祉を実現するためには、就労と教育を繰り返し、生涯にわたって国民に働いてもらう仕組みが必要だったのだろう。

日本も、今後は少子高齢化に伴い就労人口が減少するだけでなく、社会保障費も増大していくのでスウェーデンのように、ライフパズルを描きながら人生を構築していく視点が求められる。

リカレント教育の文化がH&Mを生んだ

スウェーデンから生まれたファストファッションのグローバルカンパニーが、「エイチ・アンド・エム ヘネス・アンド・マウリッツ」だ。

同社が手がけるファッションブランド「H&M」は日本でも新宿や渋谷などで大きく展開されているので、ご存じの人も多いだろう。ちなみにH&Mの店舗は世界中に3000以上ある。

同社の強さの源は、非常にしっかりとした人事制度にある。社内昇進を軸とした人事制度を構築し、トレーニング、コーチング、メンタープログラムにより徹底的にリーダーを育成しているのだ。出産や育児に関する休暇制度等も充実していて、有休の取得率100%が当たり前である。

このような制度を活用し、大学で学び直しを行うことで同社に三〇年以上勤務する社員も少なくない。

H&Mがグローバルブランドになった背景には、社内の公用語を英語にしたことも大きい。特に他国とのやりとりが多く発生する本社には語学の堪能な社員を集めていて、語学力に応じたキャリアアップ制度も実施されている。

スウェーデンの公用語はスウェーデン語だが、社内では英語を使っているため、海外でビジネスを行う際にも問題なくコミュニケーションができる。語学力が不足する社員に対するトレーニングや海外研修も充実していて、働きながら必要なスキルを身につけるための仕組みも万全だ。

大前研一 稼ぐ力をつける「リカレント教育」
大前研一(おおまえ・けんいち)
早稲田大学卒業後、東京工業大学で修士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得。
日立製作所、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、現在、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長。著書に、『「0から1」の発想術』『低欲望社会「大志なき時代」の新・国富論』(共に小学館)、「日本の論点」シリーズ(小社刊)など多数ある。

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