災害,仮想通貨
(画像=Quality Stock Arts/Shutterstock.com)

台風19号が上陸し日本本土を去ってから20日余りが過ぎた。しかしその被害を巡る報告は依然としてとどまることを知らない。むしろその被害実態が明るみに出るにつれて、我々は自然災害の脅威を改めて認識せざるを得ない。

(図表1 台風19号の影響で水没した北陸新幹線の車両)

台風19号の影響で水没した北陸新幹線の車両
(出典:毎日新聞)

他方で、今回の台風よりも「3.11」や阪神淡路大震災といったレベルでの災害を想い起した方がより鮮明になるが、大規模災害が生じた際の問題の一つがどうやって経済活動を再開させるかであり、その中でも売買をどうやって行うかが問題になる。つまり、家屋が潰されたり預金通帳や財布を紛失せざるを得なかったりする中で、現金を供給しモノの売り買いを再開させるのが困難である点を如何に考えるかということである。また被災地において犯罪件数が増大することもよく知られており、財産に危機が生じ得ることにも留意が必要である。

通常、通常の銀行利用に支障が出るほどの災害が発生した場合、財務省や日本銀行が特例措置を金融機関に要請する。たとえば現預金の引き出しに関係する部分について、台風19号を受けて関東財務局と日銀は千葉県の金融機関にこうした主旨の要請を行っている:

●預貯金取扱金融機関の場合、預金証書、通帳を紛失した場合でも、災害被災者の被災状況を踏まえた確認を行い、預金者であることを確認して払戻しに応じ、届出の印鑑のない場合には拇印にて応じる。状況次第では、定期預金、定期積金等の期限前払戻しにも応じる。手形・小切手や電子記録債権も配慮した上で取り立て等を行う

こうした措置が有効なのは、我々日本人が既存の日本円に対する信用を充分に有しており、また災害によって致命的な通貨価値の欠如には至らないと外国を含めた人々が認識しているからである。つまり、国が変わればこうした事情は異なってくる。たとえば地震やハリケーンの影響を良く受けるハイチは政情が不安定なこともあり、災害が発生すると国際的な支援を受けるが、被災者に如何に現金を供給するかは大きな課題となっている。

そうした中で新たな動きがカリブから生じた。バハマ政府が自然災害対策用にデジタル通貨を発行することを公表したのだ。今回発行することとした「Sand Dollar」と呼ばれるブロックチェーンベースの法定通貨を広めるため、関連付けられたデジタルウォレットと身元確認情報を含むカードが国民に付与される予定だという。

このようにデジタル通貨の中でも特に仮想通貨を自然災害用に導入することによるメリットについて卑見を述べるとこうなる:

●サーバーが被災することによる(電子的な)金融システムの脆弱性をブロックチェーンでカバーできる
●実物としての「現金(貨幣・紙幣)」を利用する必要が無いため、被災時の持ち出しが容易となる。また被災者への現金供給もデジタル上で容易に実施でき、現物(貨幣・紙幣)を運送し配分するコストや時間を削減することができる
●ビットコインはインターネットに接続できない「オフライン」の状態であっても取引を行うことが可能であることが知られている。したがって海底ケーブルの切断や基地局の被災といった復旧に時間をかかることすらあり得る事態が生じ、既存のデジタル通貨が利用しづらい事態になったとしても、決済が可能な状態になり得る

小規模な自治体において地域通貨の利用が進んでおり、特にそれを仮想通貨技術を利用して進められつつある。他方で、上述したメリットを総合するならば、大都市圏こそ、日本経済、更にはグローバル経済に与えるインパクトを考慮して仮想通貨を利用して今の日本円をカバーするということも想定し得るのである。まだまだ、新たな仮想通貨の利用方法はあるのだ。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。