丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?
小野 正誉(おの・まさとも)
株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書・IR 担当。神戸大学経済学部卒業後、大手企業に就職するも1 年で退社。 その後、外食企業で店舗マネージャー、広報・PR 担当、経営企画室長、取締役などを歴任。2011 年より「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールホールディングスに勤務。 転職してわずか3 年で社長秘書に抜擢。 入社後8 年の間、国内外に1,700 店舗以上を展開する グローバルカンパニーに至るまでの成長の軌跡を間近に体験する。近著『丸亀製麺はなぜNo.1 になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(祥伝社)は、各メディアで取り上げられてベストセラーとなり、海外版も出版されている。他、著書に『メモで未来を変える技術』(サンライズパブリッシング)がある。1972 年奈良市生まれ。和歌山市育ち。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます

右肩上がりの成長から失速の事態に

人生に浮き沈みがあるように、丸亀製麺の歩みも山あり谷ありでした。当初開店した店が次々に繁盛し、勢いに乗り、5年間で600店舗近く出店していました。ところが、そのまま国内で1000店舗を達成するかと思いきや、ガクンと売上が落ちていきました。

それは、高速出店していく中で、同じエリアに複数の店舗ができてしまったからです。同じ地域で2店舗あるぐらいなら、それほど影響はありません。むしろ、1店舗目で行列ができて諦めていたお客様に、もう一つのお店に足を運んでいただけるというメリットがあります。

しかし、3店舗目、4店舗目ができるとお客様が分散するだけで、元々あった2店の売上が落ちてしまいます。その結果、既存店の売上が2013年3月期は94.3%、翌年は96.8%と100%を下回るようになり、2年半ぐらい厳しい状況が続きました(オープン後18ヵ月経過した国内の店舗が対象)。

それはつまり、1000万円売っていたお店だったら、売上が950万円程度になるということです。「それぐらいなら、たいしたことはないだろう」と感じるかもしれませんが、当時は既存店が8割ぐらいを占めていました。仮に600店すべてで月に50万円売上がダウンしたら、トータルで3億円の損失です。相当なダメージになることがおわかりいただけると思います。

その結果、2014年3月期の業績は、減益になってしまいました。減益に陥ったのは、鳥インフルエンザの影響で売上が激減したときと東日本大震災があったとき以来です。右肩上がりで成長していた企業にもかげりがあるときはあります。

何も手を打たなければ、利益も売上もじりじりと落ちていくのは目に見えています。

「攻め」の発想でピンチを乗り切る

その危機を救ったのが、2014年8月に発売した「肉盛りうどん」です。一品で590円(並)もする、丸亀製麺では高額のメニューです。なにしろ、1品で客単価を上回っているのですから。このメニューを出すのは、丸亀製麺にとって大きな賭けでした。

肉盛りうどんといっても、牛丼のようにうどんの上に肉を乗せているわけではありません。最初は、うどんの上に煮込んだ牛肉を乗せるメニューが考案されたのですが、それだと当たり前すぎて面白くない。しかも、牛肉が出汁に沈んでしまって、見た目もイマイチでした。

「ダイナミックなことをしないと意味がない」と考え、牛肉はうどんとは別のお皿に盛って提供することにしました。それも、本当に「盛る」というぐらい、たっぷりのボリュームで盛りつけないとインパクトがないので、牛丼屋の特盛ぐらいの肉を添えることにしました。

そのメニューを出すとしたら、コスト的にどうしても590円がギリギリの値段だったのです。このときは北米産の牛肉を使用し、玉ネギと一緒に甘辛く煮込みました。うどんの隣の鍋でグツグツ煮込み、いい香りが店中に漂い、お客様の食欲をそそったようです。

最初は実験店舗で出したところ、大好評。そこで、タレントの武井壮さんを起用したテレビCMを打ち、全国の店舗で売り出したところ空前の大ヒットとなりました。

店舗を増やすことで、1店舗あたりの売上が減ってしまう。これはチェーン店としては、ある意味宿命なのかもしれません。どのチェーン店も企業の規模を大きくするために、同じ地域内で2店舗、3店舗と出店することになります。同じ県内でも離れた地域に出店すれば影響はないのでしょうが、お客様が集まる地域は限られているので、どこにでも出せるというわけではありません。

丸亀製麺同士でお客様を奪い合うのを避けるためには、途中で出店を止めるしかない。しかし現状維持は企業にとって衰退を意味するので、出店するしかありません。どの企業も、そのせめぎあいではないでしょうか。

丸亀製麺はそれ以上の自社競合を避けるために、2014年ごろから出店ペースを落としました。既存店の売上が落ちた分を新規出店で補おうとするのは、何の解決策にもなりません。既存店の売上を回復しないことには、新たなお店を出しても意味はない。そう考えて、我々は打開策を考えました。

普通ならメニューの価格を下げたりメニューを増やしたりして、新規客を増やす方法を考えるかもしれません。しかし、一度価格を下げたら上げるのは難しいですし、他店がそれに合わせたらさらに値下げをするしかなくなり、完全に競争に巻き込まれてしまいます。そのうえ、コストをかけると原価率も高くなり、利益を圧迫する可能性もでてきます。

そこで、丸亀製麺が選んだのは「脱競争」です。原価をしっかりかけ、高単価でかつ高付加価値のメニューを出して集客を図ることにしたのです。

なぜ客単価を上回るメニューを出したのか

元々、丸亀製麺のお客様はうどんを単品ではなく、天ぷらやおむすびなどのサイドメニューと一緒に頼むので、客単価は520円程度でした。これまでも季節ごとに投入するフェアメニューはありましたが、400円前後で提供していましたので、一品で客単価を上回るメニューを出すのは「あり得ない」ことです。

しかし、このインパクトのある肉盛りうどんを出して巻き返しを図りたい。

その想いが勝って、今までにないチャレンジに踏み切りました。つまり攻めにでたのです。結果的には、値段以上の味とボリュームで、お客様にご満足いただくことができ、競争しないで勝つことができました。

通常のメニューの料金に合わせていたら、インパクトのない貧弱な肉盛りうどんになり、売上も劇的に回復しなかったでしょう。今までならあり得ない、常識破りの発想をしたから成功したのです。

実は、テレビCMを打ったのは、このときが初めてです。かなりの広告費を投入しましたが、結果は、2014年8月の既存店前年対比115%となりました。それ以降、弾みがつき、既存店前年対比の売上100%を上回る状況が40カ月以上も続いています(原稿執筆時点)。

お店としても、売上が好調になると活気が出て、丸亀製麺らしさを取り戻せました。

それ以降も、フェアメニューはずっと高単価の設定にし、ボリュームとインパクトのある高付加価値商品を投入しています。「丸亀製麺にしては高い」と思われるお客様もいらっしゃるかもしれませんが、人気のあるフェアメニューは、5人に1人の方が注文されるほど好評をいただいています。

業界内での競争に勝つには、店舗数を増やしたり、全品値下げや値上げをしたりするのが一般的です。しかし、その方法では際限なく競争し続けないといけないので、いずれ自社も他社も疲弊してしまいます。それよりも、自分の会社の底力をつけるのが先決です。景気や業界内の競争などに左右されない自分たちなりの勝ちパターンを見つけられれば、競争しないでも生き残っていけるのではないでしょうか。