債務不履行の規律

●契約の解除

本項では前項で示した、②契約の目的が達成できない場合を解説する。この場合、債務不履行による解除を行うこととなる。売り手側の典型的な債務不履行としてはそもそもプレーヤーを送ってこないという事例であるが、これは早く送るように売り手側に催告(督促)を行ったうえでさらに送ってこなければ買い手側は契約を解除できる(新民法第541条、現行民法も第541条)のが原則である。

本ケースについて契約が解除できるかであるが、まず前述の通り、送付されてきたプレーヤーではレコードを聴くという本来の機能を果たせないことから、通常は契約の趣旨にしたがった履行とは言えず、債務不履行のひとつである不完全履行となる5。したがって、買い手側から完全履行するように、言い換えれば「交換又は修理」するように催告し、対応が無ければ契約を解除し、プレーヤーの返送と代金の返金請求を行うこととなる(新民法第541条、第545条)。

ただし、改正債権法では債務不履行における催告解除に関して「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは」解除できないと明記した(新民法第541条ただし書き)。したがって欠陥や不具合があっても通常の利用に支障をきたさないものである場合においては、催告解除できない。たとえばカバーの開け閉めに異音がするが、通常の使用には支障がない場合などは解除できないと解されるであろう。この場合は、そもそも前項①の「契約の内容が達成できる場合」として、追完・代金減額請求をすることが考えられる。

なお、本ケースのように、解除ができるほどの不具合があった場合に、売主に修理能力があるか、代替品を持っているようなときを除けば、契約の完全履行は不可能である、または期待できないといえるため、催告は不要となり直ちに契約を解除できると考えられる(新民法第542条第1項第1号または第5号)。また、売主が交換・修理するつもりが無いと主張(履行拒絶)した場合も同様に即時解除できる(同条同項第2号)。債務不履行による解除の全体フローは図表6の通り。

改正債権法,フリマアプリトラブル
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(5)債務不履行には履行遅滞、履行不能、不完全履行がある。

●損害賠償請求

現行民法第415条では債務不履行の場合、債務者に対して損害賠償ができることとされているが、通説的見解では債務不履行となるには、債務者が債務を履行しないことに故意、過失またはそれと同視すべき事由があることが必要である。すなわち、売主(債務者)に何らかの落ち度がある場合に損害賠償ができるとされてきた。

改正債権法では「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責に帰することができないとき」は損害賠償義務を負わないという形で規定しており(新民法第415条)、売主に責任がないことを売主自身が立証すべきものと明確化した(6)。本ケースでも売主自身に責任が無いことを立証すべきこととなるが、自分から落ち度が無いことを立証するというのは通常は難しい(7)。

そうすると買主としては損害賠償ができそうであるが、何が損害となるかが重要である。この点、債務不履行による契約解除が行われた場合は履行に代わる損害賠償請求ができるとされている(新民法第415条第2項第3号、いわゆる履行利益)。本条の意味するところは売買が正常に終了していれば得られるはずであった利益も損害として賠償請求できるというものである。したがって通常想定される利用や転売による利益にかかる損害も賠償対象となる。しかし、買主が古物商として表示をしているようなケースは別として、通常のフリマアプリの取引で言えば、一般的には個人的な楽しみのためのプレーヤーの購入であろうから、実費程度、つまり物品の返送に必要な費用や各種手数料程度にとどまるのではないだろうか。

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(6)筒井健夫・村松秀樹「一問一答・民法(債権関係)改正」(商事法務2019年)p75参照。
(7)「立証責任あるところに敗訴あり」とも言われる。

おわりに

個人間の売買においては、一般に消費者保護にかかる法令が適用できない。たとえば消費者契約法は、事業者と消費者間の取引を規制するものとして立法されている(消費者契約法第2条第3項)。また特定商取引法において、規制対象となる通信販売の事業者となるかどうかについては消費者庁のガイドラインが出されている(8)。それによると、たとえば反復して出品している場合で、過去一ヶ月に200点以上出品しているケースなどが事業者に該当し、特定商取引法の適用があるとされている。

国民生活センターの発表によれば、フリマアプリでの相談件数が増加しているとのことである(9)。それによると、偽物や壊れた物が送られてきて返金でトラブルになるとか、未成年者が巻き込まれたトラブルなど、悪意でフリマアプリを利用していると懸念される案件もある。偽物や壊れた物を送ってきたときは、当然、債務不履行で解除、代金の返還請求が可能である(10)。

ただ、国民生活センターでは、間に入るフリマアプリ業者は売買当事者ではなく、トラブル介入には限界があると注意喚起している。そして、はじめから悪意で取引をしようとする利用者に対して、法律は無力であることもある。権利があるといっても、最終的には訴訟を起こさないと相手に強制できないという側面があるからである。取引相手を実際に知っているわけでもなく、また手軽で便利なネット取引のトラブルを、裁判所に持ち込むというのはよほどのことがない限りできないであろう。その観点からは、ネット取引に当たっては、少額の取引から始めて、「慣れ」や危ない利用者に対する「嗅覚」みたいなものを養っていく必要があるのかもしれない。

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(8)http://www.no-trouble.go.jp/pdf/20120401ra01.pdf 参照。
(9)http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20180222_1.html 参照。
(10)なお、特定物の契約締結後に破損した場合にかかる規律に関して、危険負担のルール変更が関係してくるが、本稿では省略する。

松澤登 (まつざわ のぼる)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任

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