先月までの動き
企業年金・個人年金部会では、個人型確定拠出年金(iDeCo)の普及を図るための利便性の向上や確定給付企業年金のガバナンスに関する規定の再整備などについて、具体的な方針が示されて概ね了承された。年金部会では、これまでの議論を踏まえた上での検討事項が議論され、士業の個人事業所を厚生年金の対象にすることや在職老齢年金制度の見直しについて、事務局の方針が概ね了承された。
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
11月8日(第9回) 制度の普及に向けた改善
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07722.html (資料)
○社会保障審議会 資金運用部会
11月11日(第11回) GPIFの次期運用目標等
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07738.html (資料)
○社会保障審議会 年金部会
11月13日(第14回) これまでの議論を踏まえて更にご議論いただきたい事項
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00017.html (資料)
○社会保障審議会 年金事業管理部会
11月28日(第46回) 日本年金機構の令和元年度の取組状況、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo46.html (資料)
ポイント解説:在職老齢年金の経緯・現状・展望
在職老齢年金制度(一定以上の賃金があると年金が減額される仕組み)の見直しについては、先月の年金部会で事務局案が概ね了承されたものの、その後の政府与党間の調整で事務局案が見直しを迫られたと報道された。以下では、同制度の経緯や現状、今後の展望を確認する。
●経緯:就労阻害と将来世代負担に配慮して何度も改正・検討
在職老齢年金制度は、退職が老後の厚生年金の受給の要件だった1965年に始まった。当時、高齢就業者の賃金は低水準の場合が多かったため、特別に年金を支給する制度として発足した。
その後、受給要件から退職が除かれたために対象者のみ減額する形になり、高齢者の就労を阻害しない観点と将来世代の負担を重くしない観点とに配慮しながら改正されてきた。
近年は就労を阻害しない観点から見直しが検討されてきたが、2004年以降は成案に至っていない(図表1)。
●現状:会社員等のうち60代前半の6割弱、65歳以降の2割弱が対象
在職老齢年金(減額)の対象となるのは、厚生年金の対象となる会社員等で、賃金と厚生年金の合計額が一定額を超える場合である。この一定額は、60代前半は標準的な夫婦の年金額、65歳以降は現役男性の平均賃金が目安となっており*1、60代前半の6割弱、65歳以降の2割弱が該当している(図表2)。
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*1 60代前半の制度は、当初の目的を引き継いで「低所得者在職老齢年金(低在老)」と位置づけられている。なお、60代前半と65歳以降のいずれの基準でも、本文に記載した目安に賞与分を加味して金額が決められている。
●展望:制度詳細の周知に期待
現行制度に対しては、60代前半の就労を抑制している可能性や、繰下げ受給にも影響するため65歳以降の就労を抑制する可能性、事業収入等は減額の判定対象に含まれない点、などが指摘されてきた。
政府は、近年の骨太方針等で65歳以降について見直しや廃止の方針を示し、2019年8月に公表された制度改正案の試算(オプション試算)では、廃止が将来の給付水準をあまり低下させないことを明らかにしつつ*2、廃止に次ぐ案として減額対象基準の緩和(現役男性の平均賃金の2倍を目安)も盛り込んだ。
しかし、その後の議論では、従来の論点に加えて、基準の緩和が高所得者優遇になるという点も重視され、本稿執筆時点(2019年11月末)では65歳以降については見直し回避の気運が高まっている。
そもそも今回の見直し案の主目的は、65歳以降の就労意欲を阻害しないことであった。この制度は「働くと年金が減る」と単純化されて認識され、人々の就労意欲を削いでいる可能性もある。今回の議論が報道されたことで「65歳以降は現役の平均以上の収入がないと減らされない」という認識が広まり、制度が変更されなくても「就労意欲を阻害しない」という目的が達成されることを期待したい。
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*2 当シリーズの2019年9月号( https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62428?site=nli )を参照。なお2014年のオプション試算Ⅲでは、当制度の廃止を含む試算が示されていた。
中嶋邦夫(なかしま くにお)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任
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