(本記事は、グレッチェン・ルービン氏の著書『人生を変える習慣のつくり方』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

ときには、自分にとってよくないアイデンティティに凝り固まってしまうこともある。「ワーカホリック」「完璧主義者」「保守派」「責任者」などがその例だと言える。わたしは人の傾向を四つに分類したが、それは、あくまでも自分自身に対する理解を深めるためである。そうした分類によって、自分のアイデンティティを限定すべきではない。ブログの読者から次のような投稿があった。「これまでずっと、食べものや食事がわたしのアイデンティティの大部分を占めていましたが、あるとき、わたしがせっせとパンを焼くせいで肥満になったのだと気づきました。それを境に、『パンを焼く人』というアイデンティティは手放しました」。レブル傾向の友人のなかに、自他ともに認める夜遊び好きな女性がいる。あるとき、誰かが彼女に向かって冗談交じりに「君は大人じゃない」と言っているのが聞こえた。すると彼女は嬉しそうに、「ええ、わたしは大人じゃない!」とその言葉を繰り返した。彼女は「大人じゃない」というアイデンティティを気に入っているのだが、そのアイデンティティは問題となる恐れがある。「神童」「若き成功者」「青年活動家」「純情な少女」というように若さを自分のアイデンティティにしても、いずれ必ず失う。

自分のアイデンティティと習慣の関係について振り返ると、アイデンティティが習慣の邪魔になった例がいくつかある。わたしは読書家を自任していて、一度読み始めた本は必ず最後まで読む習慣が身についていた。「真の読書家」とはそういうものだと思っていたからだ。そう思っていたのはわたしだけではない。ソーシャルリーディング・サイトのグッドリーズによると、38%の人が読み始めた本を必ず最後まで読み終えるという。でもわたしは、読む気がなくなったらすぐに読むのをやめることを習慣にすると心に誓った。おかげでわたしの心はずいぶんと軽くなった。つまらない本を途中でやめれば、そのぶん好きな本を読む時間が増える。自分の好きなことをしているほうが、やる気も沸くし幸せな気分にもなる。

これとは別に、頭のなかでもっと議論が起きた習慣もある。

わたしは何カ月にもわたって瞑想を続けてきた。この習慣を身につけることは、「瞑想に抵抗がある人」というそれまでのアイデンティティを変えることを意味した。それでもわたしは、やってみようと心に決めた。

そうして何カ月も続けてきたわけだが、この習慣について改めて考えてみた。これまでは、一度決めたことを守りたがるアップホルダー特有の性質と、毎日の決まりごととして定着した惰性(だせい)によって続けてきた。でも、よく考えてみると、気持ちが静まったと数回実感したことを除けば、何の変化も感じられない。大変で退屈なだけで、何の成果も得られない。いいことは何もない。

結局、瞑想はやめることに決めた。

ところが、そう心に決めたとたん、新たに生まれたアイデンティティを手放したくないと思っている自分に気づいた。「瞑想する人」のままでいたいという理由だけで、瞑想を続ける誘惑にかられたのだ。これは、瞑想したいという気持ちとは似て非なるものだ。

やはり、瞑想はやめる。わたしには合っていない。受けいれられなかったことは残念だが、「自分にとって正しいことをしよう」と自分に言い聞かせた

わたしはまた「瞑想をしない人」に戻った。これからも、ありのままの自分でいようと思う。

人生を変える習慣のつくり方
ルービン・グレッチェン
作家。キャリアのスタートは法律家で、アメリカ初の女性連邦最高裁判事サンドラ・デイ・オコーナーの書記官を務めていたときに、作家になりたいと気付いて転身した。作家となってからは、習慣、幸せ、人間の本質を追求し、世間に大きな影響を与えている。著作は多岐にわたり、なかでも『The Happiness Project』(『人生は「幸せ計画」でうまくいく!』)はアメリカでミリオンセラーとなり、30カ国語以上に翻訳された。習慣や幸せについて探求したことを報告するブログやポッドキャストも人気で、本だけでなくオンライン活動のファンも多い。彼女のポッドキャスト番組は、iTunesの「2015年ベスト番組」に選出された。また、彼女自身も、アメリカでもっとも尊敬を集める女性司会者として知られるオプラ・ウィンフリーにより、「2016年オプラが選ぶスーパーソウル100」に選ばれている

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