(本記事は、グレッチェン・ルービン氏の著書『人生を変える習慣のつくり方』文響社の中から一部を抜粋・編集しています)

驚く
(画像=PIXTA)

資産家の金庫に入っている「意外なもの」

「実のところ、習慣は暴力的で信用ならない女教師である。密かに少しずつ、権威の足がかりを我々のなかに築いていく。この温和で謙虚な始まりに慣れ、それが定着すると、すぐさま彼女の怒りに満ちた暴君の顔が露わになり、我々は視線を上げる自由すら許されない」

ミシェル・ド・モンテーニュ
『エセー』より「習慣について。容認されている法律を安易に変えないことについて」

「やりやすさ」によって良い習慣を強化できるなら、やりづらくすることで悪い習慣を制圧できる。ときには、敢えて不便にしたほうがいいこともある。たとえば、目覚まし時計のスヌーズ機能を使いたくないとき、わたしは手の届かない場所に時計を置く。コンピュータを2台所有している友人は「1台は仕事用で、もう1台はプライベート用」だと言っていた。「仕事以外のことにコンピュータを使いたくなったら、椅子から立ち上がってもう1台のコンピュータのところまで行かないといけない。だから、無駄なことに時間を使わなくなるというわけさ」。手間いらずの食品は「食べやすい」が、皮肉にもそういう食べものこそまさに、「食べづらくする」必要がある。フードジャーナリストのマイケル・ポーランの言葉にもあるように、「ジャンクフードを食べたいなら自分で作って食べろ」ということだ。

「衝動」に抵抗する

働かない働き方。
(画像=VGstockstudio/Shutterstock.com)

悪い習慣の多くに共通するキーワードがある。それは「衝動」だ。人は衝動にかられて行動すると、欲求を満たすことを優先してしまい、長期的な影響を考慮できなくなる。先を見据えて計画できないうえ、一度取り組み始めたら、何があっても途中でやめようとしない。また、衝動的に不安にかられると、先延ばしにしてなかなか取り組もうとしない。衝動的に行動する度合いは人によって違うが、このときに良い習慣が破られることが多い。

やりづらければ、衝動的に行動することはできない。その意味で、「やりづらさ」もまた良い習慣を維持する助けとなるのだ。やりづらくする方法としては、次の6つがよく知られている。

  • 必要となる物理的または精神的なエネルギー量を増やす
    例:携帯電話を別の部屋に置く、建物内や建物付近での喫煙を禁じる
  • きっかけとなるものを隠す
    例:ゲーム機のコントローラーを棚の高いところに隠す
  • 時間を遅らせる
    例:午前11時までメールは読まない
  • まったく違うことをする
    例:おやつの時間になったらパズルをする
  • かかる費用を上げる
    例:タバコを吸いたいが我慢している人を調査したところ、タバコ税の増税を喜んだという。また、ロンドンで渋滞緩和を目的とした混雑課金制度が導入されると、道路を走る車の数は減り、公共交通機関の利用が増えた
  • 元から断つ
    例:テレビを処分する

たとえば、支払うのに手間がかかると、衝動買いをする確率は低くなる。友人は、クレジットカードを持ち歩かないことで衝動買いを抑えている。カードを持っていなければ、財布に入っているお金の範囲でしか買えない。ブログ読者からは次のような投稿が届いた。「わたしは何年ものあいだ、給与を貯蓄口座に振り込んでもらい、そこから普通口座に使うぶんを移しています。お金の移動は遅れることが多いので、先のことを見据える必要があります。普通口座にお金が入るまでは、買い物はできるだけ控えます。わたしが貯金できているのは、このやり方のおかげだと思っています」。

ものを買う回数を減らしたいと思っている人は多い。そのためには、できるだけ買い物しづらくするのが効果的だ。たとえば、カートやバスケットは使わない。買い物にかける時間を短くする(かける時間が短いほど、使う金額も減る)。女性の場合は、男性と一緒に買い物に行くと、時間が短くなる。触れる、試食する、といったことをすると、買いたい欲求が生じる恐れがあるのでやってはいけない。ウェブサイトで買い物する人はワンクリックで買い物できないようにする、ブックマークはすべて消去する、サイトを訪問し終えたら必ずログアウトする、ゲストとして利用する、といったことをすれば、買おうとするたびにすべての情報を入力しないといけなくなる。少し不便になるだけでも違いは大きい。それに、買いたい衝動を抑えることよりも、ブックマークを消すほうがずっと簡単だ。自分を変える必要はない。環境を変えればいい。

食生活についても、「やりづらさ」を見事に活用しているアイデアがたくさんある。「利き腕でないほうの手で食べる」という人や、「冷凍庫の温度を極端に下げる。そうすれば、アイスクリームがカチカチに固まるので少しずつ食べざるをえなくなる」という人もいる。また、「料理は食べるぶんしかテーブルに並べない。だから、立ち上がってキッチンまで行かないと、おかわりは食べられない」「妻が家にクッキーを置いておきたいと言うので、開けるのに苦労する袋にしまっている」「ワインだとガブ飲みしてしまうので、ウイスキーに変えてチビチビ飲んでいる」という人もいる。ある大学のカフェテリアでは、トレイを撤去している。一度にたくさんの食べものが運べなくなり、何度も行き来しないといけなくなると、食べる量が減るからだ。トレイを撤去したことで、廃棄されていた食べものの量が25〜30%減少した。おそらく、学生の食べる量も減ったのだろう。

とんでもない例も一つ紹介しよう。3人の武装した男たちが、資産家として名高いアン・ベースの家に押し入って金庫を開けるよう要求した。すると金庫のなかには、数百ドルといくつかの宝石、そしてチョコレートが入っていた。困惑する強盗に対し、彼女はチョコレートを一気に食べてしまわないために金庫に入れているのだと説明したという。彼女も「やりづらさ」を活用したのだ。

もちろん、悪い習慣とわかっていても、本気で変えるつもりがないからやりづらくしないというケースもある。以前、友人からこんなことを言われた。「僕には、車を運転中に携帯電話に出る悪いクセがある。携帯電話は助手席に置いておくのだけど、電話が鳴るとどうしても出てしまう。自制心を高められたらいいんだけどね。そうすれば、電話が鳴っても気にならなくなるだろう? 安全にもっと意識を向けるにはどうすればいいのかな」「自制心とか意識とかは忘れたほうがいい」とわたしは提案した。「それよりも、携帯電話をバイブにして後部座席の床に置いたらどう? そうすれば、電話が鳴っても聞こえないだろうし、どうせ手を伸ばしても届かないし」。

「そうか」彼はがっかりしたような顔をした。それを見て、この人は電話に出る習慣を本気でなくしたいわけではないのだと悟った。

人生を変える習慣のつくり方
ルービン・グレッチェン
作家。キャリアのスタートは法律家で、アメリカ初の女性連邦最高裁判事サンドラ・デイ・オコーナーの書記官を務めていたときに、作家になりたいと気付いて転身した。作家となってからは、習慣、幸せ、人間の本質を追求し、世間に大きな影響を与えている。著作は多岐にわたり、なかでも『The Happiness Project』(『人生は「幸せ計画」でうまくいく!』)はアメリカでミリオンセラーとなり、30カ国語以上に翻訳された。習慣や幸せについて探求したことを報告するブログやポッドキャストも人気で、本だけでなくオンライン活動のファンも多い。彼女のポッドキャスト番組は、iTunesの「2015年ベスト番組」に選出された。また、彼女自身も、アメリカでもっとも尊敬を集める女性司会者として知られるオプラ・ウィンフリーにより、「2016年オプラが選ぶスーパーソウル100」に選ばれている

※画像をクリックするとAmazonに飛びます