(本記事は、細木 聡子氏の著書『女性管理職のためのしなやかマネジメント入門 〈信頼〉をつなぐ、チームビルディング 』NTT出版の中から一部を抜粋・編集しています)

キャリアウーマン
(画像=PIXTA)

女性が管理職になるということ

「ヒステリックな女性管理職」にはワケがある

私が管理職になった最初の現場でチームのメンバーからの信頼を大きく失ってしまったのは、振り返ると、周りの男性管理職の真似をして、アグレッシブな特性を無理に見せようとしてしまったことが原因だったように思います。

当時は女性の管理職は周囲にほぼおらず、女性上司の部下になった経験もありません。リーダーと言えば男性ばかり。リーダーシップというものは、「俺について来い」というような文字通り「周囲を正しい方向に〝引っぱっていく〞人のこと」と当然のように思っていたのです。

最初に管理職として配属された先は、大勢の人の関わる大規模プロジェクトでした。進捗が遅れぎみで、上司から「おまえがなめられてるから、みんなだらだらしちゃうんじゃないか」と言われることが続きました。

今、そのことを人に話すと笑われるのですが、当時の私は見た目が若く見えがちなのを気にして、わざわざ髪型をひっつめに変え、メガネをかけるようにしました。そのほうが歳をとって見えると思ったのです。そして部下や協力会社の人たちに「なんでできてないんですか?」と詰め寄ったり、手帳をたたきつけて怒鳴ったり……、なんとか動いてもらわなくてはと思いつめるうち、外見も仕事の仕方もマンガに出てくるような「ヒステリックな女性管理職」になっていました。

とある社外コンペで、プロジェクトマネジャーとしてプレゼンすることになったときのことです。話があったとき、自分が出て行っていいのか、大変悩みました。プレゼンの出来不出来のまえに、若い女性に見える自分が出ていくことで、「この人頼りないな」と思われて不採用になるのでは、と心配だったのです。もしそうなったらがんばってくれた営業や部下に申し訳が立ちません。「私でいいんでしょうか」と何度もたずねたすえに結局出てゆくことになったのですが、当日のプレゼンのあと、審査に参加していた専門家がぼそっと次のように言いました。

「ふつう、プロマネというと声が大きくて、男性で、ぐいぐい引っぱっていくタイプですが、あなたは違いますね」

この言葉を聞いた瞬間、私は「これは落ちた」と思いました。色々な仕事を積み重ねてやっと手にしたチャンスだったのですが、「やっぱり自分が出なきゃよかったんだ」とつくづく思わされ、帰り道に「自分とは今後、一緒に仕事をしなくていいです」と泣きながら営業に謝りました。

結果は意外にも、コンペは通過となりました。もしかしたらその識者は、否定的な意味で言ったのではなかったのかもしれません。でも、そのときの私は「〝女の私〞で大丈夫か?」ということがとにかく気がかりだったため、そのように受け取れなかったのだと思います。リーダーというものは、「声が大きくてぐいぐい引っぱっていく存在」。そう思っていたからこそ、そうでないのは「失格だ」と言われたように感じたのです。

「そもそも向いていないのではないか」問題

コンペのあと、自分の仕事を振り返るなかで、こう思いました。

「そもそも自分は、周囲をぐいぐいひっぱっていくキャラだっただろうか」

改めて振り返ると、中学時代の部活のバスケ部では、ハードな練習で体を壊し、顧問の先生のすすめで途中からマネージャーになったのですが、もともとキャプテン的な存在にあこがれる、ということもなく、プレイヤーから降りたことでがっかりしたという記憶もありません。むしろ、自分の工夫で部員の力が発揮できる環境をつくるマネージャーの仕事がとても楽しかった記憶のほうが強いのです。みんなから信頼されて感謝までしてもらえるなんて、至上最高のポジションじゃないか! くらいのことは思っていました。

これまでの仕事を振り返ってみても、人を引っぱるというより応援するほうが好きだった気がする……。「声を大きくしてぐいぐい引っぱっていく」のはむしろ苦手なのではないか― 自分の性格は、むしろ真逆かもしれないのに、なぜこんなことをしているのだろう……。

そこで私は、あのお決まりの問いに行き着きます。

「自分はそもそも管理職に向いていないのではないか」

この「そもそも向いていないのではの壁」は、実に多くのみなさんがぶつかるのではないでしょうか。この「自問自答」をかかえて私のセミナーにも沢山の方が来られます。でも、今の私なら当時の私に「そんなことはないよ」と言ってあげられますし、みなさんにもそうお伝えしたいのです。

変わらなければならないのは、あなたではなく、あなたや周囲の人々がいつのまにか描いている「管理職像」です。「女性が管理職になりたがらない」と言われる理由のひとつは、私たちの描く理想の管理職像が、男性に期待されやすい属性によっているからではないでしょうか。  

ジレンマ①―仕事観がそもそも違う?

「自分はそもそも管理職に向いていないのではないか」と女性が感じてしまう背景のひとつに、男女の仕事観の違いもあるように思います。

女性管理職の方にインタビューをすると、8割の方が「できれば管理職を辞めたい」と答えます。その理由の上位は次の3つです。

辞めたい理由① 割に合わない!
「責任は重くなるのに、残業手当がつかない」(商社・42歳)
「給与が下がるうえに面倒な管理の仕事なんて割に合わない」(福祉・50 歳)
辞めたい理由② ストレスが大きい!
「上司と部下に挟まれて伝書鳩のような状態」(通信会社・39歳)
「トラブルやクレームの処理が多くてストレスだ」(教育事業・46歳)
辞めたい理由③ 仕事がつまらない!
「社内調整や会議ばかり。実務から離れてつまらない」(公務員・53歳)
「マネジメントにやりがいを感じない」(娯楽業・29歳)

この3つの理由のうち、その1「割に合わない!」、その2「ストレスが大きい!」の2つについては、男性管理職も感じていることですが、その3「仕事がつまらない!」については、男性管理職からはほとんど出てきません。「そういうことは考えたことがない!」と驚かれます。

一方、女性からは男性上司から「管理職に昇格したんだから、残業もして、やりたくない仕事もやらないとね」と言われて「なんかモヤモヤした嫌な気持ちになりました」という話をよく聞きます。

男性は仕事に対して地位や出世を重視する傾向が女性より強いという印象があります。そうであれば管理職になったこと自体が価値ですから、思うような仕事ができなくても我慢すべきだと男性は考えるのかもしれません。

ところが女性の仕事に対する価値観は、地位が上がること自体に男性ほど価値を置いていないように思います。そのため我慢してやりたくない仕事をしなくてはならないとなると管理職を辞めたい、自分には向いていないと考えてしまうのではないでしょうか。

ジレンマ②―「リーダーらしいは男らしい?」

女性が管理職になることに価値を感じにくいのは、社会的な地位を重視していないからというだけではないようです。

米国のラドガース大学の研究に、こんな調査があるそうです。人々がもつ男女における「望ましい特性」の違いを明らかにしようとしたアンケート調査なのですが、その結果から「男性にとっては望ましいが、女性にとってはそうでもない特性」と「女性にとっては望ましいが、男性にとってはそうでもない特性」を抜き出したものを見てみると―

男性にとっては望ましいが、女性にとってはそうでもない特性
キャリア志向/リーダーシップ/アグレッシブ/積極的/自立している/ビジネスセンス/野心的/ハードワーク
女性にとっては望ましいが、男性にとってはそうでもない特性
情動的/優しい/よい聞き役/周囲への気づかい/友好的/手助けを惜しまない/外見に気をつかう
男性にとって望ましくないが、女性にとってはそうでもない特性
感情的/ナイーブ/弱い/自信がない
女性にとっては望ましくないが、男性にとってはそうでもない特性
好戦的/威圧的/支配的/傲慢

この結果から何がわかるでしょうか。女性がリーダーらしい行動をとると「望ましくない」と受け取られやすいと言えそうです。つまり、

「リーダーとして期待される役割」←→「女性に期待される役割」

は正反対のベクトルなので、

リーダーらしく振る舞おうとすると、女性的でないと思われる

という罠にはまってしまうわけです。そうなると、あまり管理職はやりたくない、と思う女性が増えてもおかしくありません。同じ行為でも、男性なら「頼り甲斐がある」と評価される場面でも、女性だと「女らしくない」、「怖い、近寄りがたい、無理しすぎで痛い」といったマイナスの印象を抱かれやすくなるわけですから。がんばればがんばるほど反発を招く悪循環に陥ります。

男性女性
重視:地位や出世
〈キーワード〉
競争/ライバル/縦のつながり/承認
重視:仕事内容
〈キーワード〉
共有/仲間/横のつながり/共感
周囲から見た、望ましい特性周囲から見た、望ましい特性
好戦的/積極的
自立している/ハードワーク
優しい/周囲への気遣い
友好的/手助けを惜しまない

これは、働く女性が抱えるジレンマです。しかも男性はなかなか理解してくれないでしょう。ジェンダーギャップの少ない社会では、この問題も小さくなるのだと思いますが、日本はまだまだ、女性管理職自体が少なく性差の区別が大きな社会です。マネジメントを行う立場である以上、「実際に周りからどのように見られているか」を無視するわけにもいきません。いくらそれが不条理に思えても、この現実を踏まえて、女性はどうすればよいのでしょうか。

しかし、そもそも……管理職という仕事は〝男性的〞でなければ務まらないものでしょうか? たまたま管理職を担うのが、男性がほとんどだったから、男性的なスタイルが管理職のあるべき姿と思われてきたということはないでしょうか。

管理職のスタイルは、ひとつではありません。

ここで考えてみたいのは、

リーダーシップとは何で、管理職とは、そもそも何をする仕事か―

ということです。大切なのは、管理職という仕事の本質を知り、その役割を自分の無理のないスタイルでどう果たすかです。

「理想」のリーダーシップではなく、自分らしいリーダーシップを探ること。

「管理職」とは何をする仕事なのかを今一度踏まえ、「理想のリーダー像」に自分をはめ込み、空回りしていないか、振り返ってみましょう。

女性管理職のためのしなやかマネジメント入門
細木聡子
株式会社リノパートナーズ代表取締役。 中小企業診断士/しなやかリーダー塾塾長。1990年筑波大学卒業後、NTTに入社。管理職に昇格し、大規模システム構築プロジェクトのマネージャーに就任。部門間・上層役員間・社外機関の調整役として抜擢され、人と組織をつなげるパイプ役として活動の幅を広げる。10年間で述べ1,000人のマネジメントに携わり結果を残す。2018年4月より、人材育成コンサルティング会社・株式会社リノパートナーズ設立。

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